俺の中の、止まっていた最後の時計の針が動く
かつて、俺達の未来は輝いていた。
最強の力、魔王を倒す【勇者】。
守りの要、全てを護る【聖騎士】。
全ての魔法を扱う、究極の魔法職【賢者】。
そして、物語にも滅多に現れない男回復術士の頂点【聖者】。
孤児院の、親の顔も知らない幼馴染み四人組。
世界のダンジョン攻略のメンバーが、一気に揃ったのだ。
順調に行けば、きっとこの世界を代表するほどの、最高の勇者パーティーになっただろう。
だが、俺達のパーティーは一年と持たなかった。
互いの職業による能力、そして互いの思惑。
それらが複雑に絡み合った結果、俺はパーティーから追い出されることとなった。
それからの人生はあまりにも濃密なもので、今までの俺を構成する全てを覆すような変化ばかりだった。
闇魔法による竜討伐、魔王討伐、魔神討伐。更に、それだけじゃない。蘇生魔法や治療魔法による『聖女伝説』の再現。
去年の俺と今の俺は、最早全くの別人だろうな。
きっと俺のスタート地点は二点。
シビラに出会い、『宵闇の誓約』を交わしたこと。
そして、ブレンダの母ヴィクトリアを治療したことだ。
『黒鳶の聖者』。ブレンダがつけてくれたこの名前を、俺は気に入っている。
本当に、いろいろあった。エミーとも再会し、本来の彼女の力を引き出せた。
ジャネットからも、ずっと心の内に溜め込んでいたものを聞けた。
それでも……ずっと心にひっかかっているものはあった。
男なら誰でも夢見る、一番強い自分。夢想する子供ならまだしも、その力を手に入れたヤツがいた。
俺はあいつのことを親友だと思っていた。
だが、あいつにとって俺はどうだったのだろうか。
聞きたいことはいくらでもある。
その全てに答えがなくてもいい。
だが……今の俺には力がある。
臆して遠慮して立ち止まるのは、もう終わりだ。
——停滞していた最後の時計の針が、動き出す。
-
ハモンドの街へと向かう前に、俺はアドリアの閑散とした冒険者ギルドに来た。
「思えば、ダンジョンがないのにずっとここにギルドはあるんだよな」
「王国の冒険者ギルドだからな。普段は雑用引き受け場所みたいなもんだが、これでも各地方に必ず設置するようになっているし、給料も結構出てんだよ」
この受付の男も、すっかり話しやすい男となった。
互いに少しずつ勘違いをしていたようなもので、それを解消した形だ。
「ラセル、ほら野良ダンジョンよ。野良っていうかダンジョンなんて全部野良だけど、街から離れた場所に現れると、魔物が外に溢れ出すようになるから」
ああ、それは何度か聞いたな。
ダンジョンがどうやって地上に現れるか。それは魔王が地上に侵略してきているからであり、魔物が溢れるのはダンジョン内の魔物が飽和しているからだと。
まあ、つまり……それってかなりまずい状況なんだよな。
「それを事前に把握したり、討伐任務を出したりするために、王国が一元で把握と管理しているってわけ」
「ああ、それでちょうど報告がありましたよ」
男がシビラに話しかけながら、一つの紙をテーブルの上に置いた。
「ジャネットの報告ですね。山で狼の魔物を倒したと。恐らくアドリアとハモンドの間、道を外れた山の方にダンジョンがあると思われます。一応王国の方へも報告してあります」
こことハモンドの間に、魔物が出るのか。全く知らなかったが、それは危ないな。
ダンジョン。当然そこには、魔王がいるだろう。
地上を侵略しに来ている、あの人語を解する侵略者が。
「ラセルはどうしたい?」
「そうだな……懸念事項だが、行くならハモンドの方に一旦行ってからだ。それからダンジョンに向かいたい」
「よっし、分かったわ」
気になることがあると、どうしても集中できなくなるからな。
ダンジョンも当然気になりはするが、ヴィンスの動向ほどではない。
ジャネットが戻って来た際に魔物に遭遇したのなら、ダンジョン自体はかなり以前からなのだろう。
可能ならばエミーも連れて行きたいところだが……ジャネットのこともある、今の彼女に出来る限り一緒にいてもらいたいという気持ちは強い。
「それにしても、ダンジョンってのはこう頻繁に見つかるものなのか?」
「珍しい方だけど、そこまで頻度が少ないわけじゃないわ。世界中に現れるから、なるべく広い範囲をカバーしているというわけね。近い地区にいる冒険者に、ダンジョンの魔物の数減らしに向かってもらうというのが、基本的な方針。溢れる魔物は基本的に上層だから」
なるほど、王国の冒険者ギルドもいろいろ考えて、運営しているのだな。
「それじゃ、さっさとやることやって、向かわせてもらうとするか」
俺は受付の男に討伐受託を伝えると、シビラとともに村を出た。






