信頼できる存在に心配事を任せることは、隣にいる以上に俺を守る
エミーが留まる意思を示した理由。
彼女は、ヴィンスのパーティーに何の連絡もなく脱退している。その上で、ケイティに対して苦手意識があるのだ。
ただ、これだけなら話せば済むことだし、俺からわざわざ離れる理由にはならない。
最大の理由は、俺だ。
エミーが俺と一緒に行動していると、ケイティから見て『エミーの隣にいる男がラセル』であると、一瞬で分かってしまう。
ケイティが何故俺を狙っているのか、何故意味の分からない独り言を言っているのか。
その理由は分からないが、恐らく良い事ではないことぐらいは俺にも予想できる。
だが……エミーはやはり、つらそうだ。
「ごめん、ラセル。本当はずっと隣で守りたいの。でも、私が一緒にいることが、一番ラセルを危険な目に遭わせてしまいそうだから。それは……それだけは、絶対に嫌だから」
エミーは、【聖騎士】という最上位職を女神より授与された。
俺を守るという意志の強さで、ここまで強くなり、どんな時でも俺の前に立ってくれた。
だから分かる。この決断が、エミーにとってどれほど大きな二律背反を起こしているかも。
正直、何も考えなければ付いていきたいと思っているだろうし、もし攻撃系最強の【勇者】という職業であるヴィンスと争うことになる場合、エミーがいた方がいい。
それでも……エミーは、僅かな不安要素を考慮して、断腸の思いで身を引いてくれたのだ。
「エミーが俺のことを考えてくれていること、よく分かっているよ。なに、大丈夫だ。俺一人で会いに行くわけじゃない。ずる賢いヤツが付いてくるんだ、ヴィンスなんぞに出し抜かれはしないさ」
「二文字ほど余計じゃないかしら?」
「そうだったか、すまん。『ヤツ』を『悪女』か『詐欺師』に変えた方がよかったな」
「悪化! してる! このアタシのどこが詐欺師だっていうのよ!」
普通の冒険者みたいなツラして近づいてきておいて、よく言えたなこの駄女神。俺が普通の【神官】なら、回復魔法全部消して『宵闇の誓約』する気満々だったからなこいつ。
と、いつものような軽口のやり取りをしていると、エミーがくすくすと笑い出した。
先ほどまでの沈痛な表情から、大分和らいだ雰囲気だ。
「そうだね、シビラさんが一緒にいるなら安心かな? 私じゃあカバーできなさそうな部分、ぜーんぶ上手くやってくれそう」
「おっ、どっかの朴念仁トンビ男子とは違ってエミーちゃんは分かってるわね!」
「誰がトンビ男子だ」
「服がなければカラス男子って呼んでるわよ」
売り言葉に買い言葉、こいつとの会話は賑やかだが本当に疲れる。
やっぱり幼少期にシビラが幼馴染みじゃなくてよかったな、喋っているだけで一日の体力を使い果たしそうだ。
「それに、エミーちゃんだってちゃんと準備してもらうことがあるわ。ラセルの役に立とうと思うのなら、しばらくジャネットちゃんと一緒にいること。その子の盾になってあげて」
「あっ、もちろんです!」
そう、ここに残ることは決して俺にとって悪いことではない。
ジャネットは未だに、攻撃魔法を使うような姿を見せていない。恐らくまだ、恐怖が心の中に残っているのだろう。
そんな時に何かしらの襲撃があるかと思うと、気になってハモンドでも集中力を欠くことになりかねない。
だが、エミーが隣にいるならば、絶対に大丈夫だろう。
エミーは相手を弾き飛ばす【聖騎士】であり、逃げる相手を吸い寄せる【宵闇の騎士】でもある。
竜牙の大剣と火竜の大盾を持つ彼女は、文字通り世界最高峰の守護者。並大抵の魔物では到底太刀打ちできるものではない。
そう。
俺の隣にいなくても、俺を守ってくれる。それが今のエミーという存在の大きさだ。
「エミーが一緒に居るなら、俺も安心してハモンドで活動できる。ジャネットのこと、よろしくな」
「まっかせて! もうずーっと一緒にいるんだから!」
「わっ……!? ああもう、エミーは仕方ないな……」
聞きに徹していたジャネットが、突然エミーに抱きしめられて驚いた。
言葉ではこう言っているが、困惑しつつもどこか嬉しそうな表情は、ジャネットが既にエミーを受け入れている何よりの証だろう。
エミーがジャネットを信頼して、ジャネットがエミーを信頼する。
そんな二人の凄さを、俺は信頼している。
本当に、いい関係になったな。






