エミーと別れた後の、ジャネットの話
昼食後の、まだ日光が高い時間。
午前中動いて、食後だったこともあって少し眠気すら襲ってくるような時間だった。
ジャネットに連れられて、軽く飲み物でも飲みながらゆっくりするのもいいだろう——そう思った矢先だった。
「勇者パーティーで起こったことについて、話したい」
ジャネットの一言は、俺の微睡みかけた瞼を開けさせるのに十分だった。
あまりにも唐突な一言に、エミーも驚いている。シビラは……少し口元を緩めている。
何だ、こうなることを予測していたのか? それとも、何らかの働きかけをしたのだろうか。……ありえるな、こいつなら。
俺は改めて、ジャネットに聞く。
「本当に、いいんだな?」
エミーが一瞬こちらを見て、心配そうな表情でジャネットの方を向く。
ジャネットは、手元にあるハーブのお茶を口にすると、ふう、と一息ついた。
「恐らく、大丈夫。仮に大丈夫じゃなかったとしても、じゃあ言わない方が良かったのか、ということにはならないと思う。ならば、言った方がいいと僕は判断した。正解の確率が上がるのなら、上がる方を選ぶべきだろう」
それは、実にジャネットらしい答え方だった。
——正解の可能性が、やや高い。
あの時の、エミーを本物と認識しなかった言葉……恐らくまだ何か、自分自身を信用しきれない心の傷があるのだろう。
ただ、心の傷を回復魔法で治すなど、精神操作の類いでしかない。そういう能力がなくてむしろ良かったと思う。
可能ならば、それを癒すのは俺やエミーの肉声や行動、もしくは問題解決した結果でありたい。
兎にも角にも、だ。
「言うと決めてくれたこと、感謝する。早速ですまないが、言える範囲で言ってほしい。ケイティという女が争点になっていることは知っているが、結局独り言からジャネットはどう危険を感じたのか、そして……」
「……ヴィンス、だね」
ジャネットの口から語られた名前。
幼馴染み。俺を仲間の輪に誘ったヤツ。一緒に育った親友。
俺を追放した勇者。
弱いヤツに威張り散らしていた男。エミー狙いで外した翌日にジャネットに言い寄った軽薄な男。
……思うところがないわけではない。が、それを考えるのは後だ。
そのヴィンスが、どう変化したかということが肝心だ。
俺の視線を受けて、ジャネットが頷く。
次にジャネットは、エミーに視線を向けた。
「まずは、エミーが脱退した後に重戦士系の【魔法剣士】が入った。オレンジのセミロングヘア、ケイティぐらいの胸……少なくとも僕以上で、なおかつ無名の女性」
「……冗談でしょ?」
「僕の認識が歪んでない限りは、合ってるよ。ハモンドで単独だったって言ってた……けど、ケイティ同様にアリアはすごい美貌だったね」
「アリアさん……」
……話を聞けば聞くほど、驚く他ないな。
確かにそんな目立つヤツがいたら、知らないわけがないし噂になっていないはずがない。
だが、ケイティとアリアというヤツは、ずっと誰にも知られることなくソロの冒険者だったと。
「ケイティとアリアは、知り合いなのか?」
「そう」
「どこにいた?」
「……さすが、鋭いね」
ジャネットも、当然そこに思い当たるか。
反面エミーは首を捻っている。
「え? え? 何がおかしいの?」
「ケイティと、アリア。二人とも絶対に噂になっていないとおかしいレベルの美女なのに、全く名前を聞いたことがない。そんな二人が知り合い同士って、どんな確率なのさ。ハモンドの人間は盲目なのか?」
「あっ」
ジャネットの指摘に、エミーも気付いたようだ。
そう……そんな二人が、二人とも噂になってないって、絶対有り得ないだろ。
「可能性は二つ。まずは変装していたという一笑に付していい考え。顔の確認でハモンド冒険者ギルドの受付から話が漏れるだろうし、隠せないと思う」
一瞬そっちを思ってしまった。
言わなくてよかった。
「もう一つは——」
ジャネットが示した言葉は、むしろ変装の方がマシだと思えるほど極端な考えだった。
「——記憶操作や認識阻害など、他者干渉の魔法かスキルだ」
あまりにも、突飛な考え。それこそ記憶操作など笑ってしまうような話だ。
だが……恐らくジャネットがそう思った経緯があったのだろう。
ここに、ジャネットが過剰にケイティのことを恐れている理由があるはずだ。
そして俺は、今の単語にひっかかりを覚えて……すぐに思い当たった。
記憶操作。
それを受けた可能性を感じたから、エミーのことを最初に本物だと思わなかったのだろうか、と。
ならば、全ての辻褄が合う。
……やれやれ、思った以上に厄介な相手らしい。
ジャネットからの情報は、出来る限り共有してもらおう。






