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幼馴染みとの模擬戦の思い出

 模擬戦、それは俺達四人の子供の頃一番の思い出。

 思い出というか、むしろ一番実践的だった俺達の日常だった。


 負けず嫌いのヴィンスと、同じく負けず嫌いの俺。力と技をぶつけ合って、俺が技で上回ると、ヴィンスは必ず少し上の実力になってリベンジを仕掛けてきた。

 そのヴィンスと何度か勝って負けて……最終的に、かなり勝ち越せるようになった。

 ちなみに技術を教わったのは、主にジャネットだ。俺達の戦い方をよく見ていて、同時に剣技の本も読んでいたため知識があった。

 ジャネット自身は体力がない上に身体を動かすのも好きそうじゃなかったから、あまり参加はしなかった。ただ、教え方は本当に上手かった。

 俺が強くなった理由と、恐らくヴィンスが再々強くなっていた理由も、ジャネットだろう。


 そんな中、エミーが俺から勝ちを拾ったことはあまりない。単純に筋力が下だったし、エミーの動き方はヴィンス以上に直線的だった。

 油断したときに一本取られたことがないことはなかったが、それでも俺より強いと思ったことは一度もない。


 ——だが、今なら?


 俺はエミーからの突然の提案に、昔を思い出しながら頷く。


「模擬戦、だな。いいぞ」


「えっほんとに? やった!」


 何をそんなに喜んでいるのか分からないが、折角の機会だ。

 俺もエミーの実力がどれほどのものなのか、身を以て感じてみたい気持ちもある。


「何だか面白そうなことになったわね。エミーちゃん、みんなで見ても大丈夫なやつ?」


「あっ、できれば二人っきりで……」


「うんうん、分かったわ。それじゃみんな、今日はアタシが相手してあげるわ!」


 シビラはエミーからの返事を受けて、もう一人の男の子も首の後ろをくすぐったり、脇に手を入れて持ち上げたりしながら距離を縮める。

 その独特の距離を縮める手順がどういう感覚と知識で行われるのかは分からないが、すっかりもう一人の方もシビラに懐いたようだ。


 よし、ガキ共の意識がこちらから逸れた。俺はシビラに内心で感謝しつつ、エミーに目配せをして一緒に外に向かった。




 昼前の外は、朝に比べて幾分か過ごしやすい気候になっていた。

 誰もいない裏庭の、ちょうど窓もない辺りへと足を運ぶ。

 近くに草の生えていない地面がある。奇しくもそこは、つい昨日ジャネットに俺が闇魔法を見せた場所だった。


「それじゃ、えーっと……昔と同じで、頭と、胴と、手だったよね。顔と首と、下半身は禁止で」


「ああ、それで構わない」


 エミーは一瞬笑顔になって頷くと……静かに目を閉じて、剣を構えた。

 そして次に目を開けたときには、雰囲気が変わっている。


 昔と同じような、真剣な目。

 しかし……威圧感が全く違う。

 これが上位近接職になったエミーか。


「……はじめっ!」


 俺が一歩足を踏みしめたところで、エミーが踏み込んできた。速い!


 木剣が、ぶつかる。

 昔……といっても一年も経っていない頃のエミーの剣は、それこそ片手でも力を入れたら抑え込めるぐらいのものだった。

 だが、今の初撃で俺の手には、ヴィンスとかつて打ち合った時以上の衝撃と痺れが襲ってくる。


 まともに打ち合うのは悪手だ。

 俺はすぐに二撃目の予備動作を見ると、その木剣の長さを計算に入れてバックステップをする。

 その際に、腕を持ち上げておく。すぐに胴のあたりに強い風が服の上からでも感じられる感触が来た。

 これは木剣の風圧か……!? やはり、半端なものではないな。


「……!」


 一体何を思ってエミーは木剣を持ったのか。

 何か切羽詰まった雰囲気が、エミーの表情から見て取れる。


「もう一度っ!」


 その剣を再び受けて、俺は回復魔法を——そうだな、回復魔法は使おう。

 恐らくエミーは、全力で俺に戦ってほしいはずだ。遠慮をしたら、かえって嫌な気持ちにさせてしまうだろう。


「ま、たッ……!」


 再び俺に攻撃を回避され、自分の攻撃が空振りに終わったことに悔しそうに眉根を寄せる。

 その心情は窺えないが、恐らくこの模擬戦の果てにその答えはあるだろう。


 それに、俺にとっても恐らくかつてのヴィンス以上に骨のある相手だ。

 ここまで動きが素早い相手と模擬戦をしたことは今まで一度もなかったし、今後できるとも思えない。それほど今のエミーは強かった。


 エミーの気持ちは分からなくとも、俺自身はこの戦いを存分に自分の糧にさせてもらおう。

 そして終わった後、その気持ちを聞こう。


「こちらからも行くぞ!」


「……っ!」


 俺はエミーへと、今度はこちらから全力で剣を打ちおろしに行った。

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