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ジャネットが選んだ、彼女の今後

 朝食の用意は、再び俺が手伝おうと考えていた。

 だが、ここで珍しいことが起こった。


「僕にやらせてほしい」


 ジャネットが立候補したのだ。

 フレデリカも最初は驚いていたが、すぐに破顔するとジャネットを歓迎してキッチンナイフの使い方を教え始めた。

 まあ恐らく、教えられる前から知識だけはあるだろう。


 ただ、知識があるだけで実践できるとは限らない。

 それをジャネットもよく分かっているのだろう。フレデリカからの助言を熱心に聞いていた。


 まさかと思うが……俺が言った『もっと好き勝手にやっていい』という言葉を受け入れた結果が、料理の手伝いなのか?

 はは、全くこいつときたら……どんなに自己嫌悪に陥ろうとも、どこまで行ってもお前は絶対悪人にはなれねーよ。俺が保証する。


「むう……」


「エミーはキッチンナイフ持つなよ、フレデリカがキレる」


「うう、わかってるよぉ……。なんで私、不器用なんだろ……?」


 何でだろうな……俺にもわからん。

 ただ、またキッチンボードを壊されたら朝から気まずいので我慢してもらう。


 エミーはすぐに考えを振り払うように首を振ると、ジャネットの背中へと目を向けた。

 おちゃらけて自分のことを言いつつも、やはり親友の姿は眩しいのだろう。

 その顔は、幼さを残しつつも一段大人びていた。


 俺も、それに倣いジャネットの背中を見る。

 少し背丈が足りないキッチンでも、丁寧に一つずつ朝のサラダ用の野菜を切っていく。


 今までの、俯瞰した視点から余裕そうにパーティーを引っ張ってきた参謀。

 そんな彼女が新しいことに挑戦する姿は、普段の余裕を感じられないぐらい大変そうだ。

 だが、俺にはその姿が今までのどんな時よりも、生き生きとして見えた。




 ジャネットがキッチンからサラダとパンを運んで来ると、机で賑やかなガキどもをまとめあげているシビラが手を振る。

 キッチンに入られると困るからな。こういう時に手綱を握れるヤツがいるのはフレデリカにとっても有り難いはずだ。


 ジャネットは続けて食器を配り、フレデリカはその様子を後ろから眺める。

 切りそろえられたベーコンが野菜の上に乗り、何かのソースがかかっている。調味はフレデリカだろうが、野菜はジャネットが切ったのだろう。

 自分でキッチンナイフを触ったから思うが、綺麗に切り分けられている。俺も最初は、切ったつもりの野菜がいざ持つと全部繋がっていたりしたからな。

 意外と最後まで切れたと思っても、丁寧にやらないと上手くいかないものだ。


「お疲れ、ジャネット」


「ん」


 相も変わらずの一言だが、口元は少し緩んでいる。

 それは、昨日とは全く違う表情だ。


「ジャネットも、キッチンナイフは初めてだよな」


「まあね」


「上手いものだ。ずっとしたかったのか?」


「それもある」


 ……それも、ということは他にも理由があるんだな。


 俺は、朝食を口に運びながらジャネットの次の言葉を待つ。

 シビラもこちらを見ており、エミーも……いや、エミーは綺麗に切りそろえられた野菜を見ながら「むうう……」と唸っている。

 対抗するな対抗するな、お前のいいところはこういう細やかさではないと思うぞ。


 結局黙々と全てを食べ終わったところで、ジャネットはようやく口を開いた。


「僕は、ここに残ろうと思うんだ」


 恐らく相当に修練を積んだであろう【賢者】のジャネットは、俺のパーティーには入らない、か……。


「別にラセルのパーティーに入るのが嫌というわけじゃない。だけど……まだ、魔法を使うことが怖いんだ……」


「魔法を使うことが……?」


 ジャネットは黙して頷く。

 何か、まだ癒えない心の傷があるのだろう。俺も過剰に悲観的にならないように意識をし、深くは理由を聞かない。


「もしかして、料理を手伝えるようになろうとしたのも……」


「そう」


「……分かった。じゃあその間、孤児院を頼むな」


「ん」


 最後に再びジャネットは頷くと、小さく「あ……」と呟いて、エミーに申し訳なさそうな視線を向けた。

 エミーはその視線を受けて、優しい微笑みのまま首を振って、ジャネットを安心させるように頷いた。

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