ジャネットの抱えていた秘密
「懺悔……?」
ジャネットが言うのは、相談でも情報提供でもなく、懺悔なのか?
「そう。教会の神官やシスターがやってるんだ。聖者も懺悔を聞く係ぐらいやってもいいでしょ」
「別に構わないが……これは、ケイティに関する話にも繋がるのか?」
その名前を話題に出すのは避けた方が良かっただろうかと思ったが、ジャネットは少し表情を硬くしつつも、静かに頷いた。
そうか……なら、聞く価値があるな。
懺悔、か。やったことはないが、まあ大丈夫だろう。
ジャネットの要望に頷き、俺は黙って階段の方を見る。
月明かりの届かない地下室に、魔力の灯が揺れる。
風の音、虫の声すら届かない地下牢で、布擦れの音と……紙をめくる音。
「……」
ジャネットは、手元の本を読んでいる。
『聖女伝説』……何度もジャネットが読み込んだ本だ。
俺もジャネットに内容を教えてもらったし、エミーも聞いていた。ヴィンスも、英雄譚の一幕ということで聞いていたな。
やがて、ページをめくる音が止まる。
視線を向けると……そこは『一途な愛の章』だった。
「……愛慕の聖女。何度も読んだ、聖女伝説の一番有名なお話」
「……」
俺は、ジャネットの独白を止めないように黙って聞くことに徹する。
ジャネットは確かに『懺悔』と言った。ならば、俺が相づちで話を止めるのは違う。
「エミーも、気に入っていた。お姫様の次に、一番女の子らしい話だったから」
「……」
「みんなに聞かせた。そして、何度も読み込んだ。全部の話を暗記したと思う」
一旦本を閉じたジャネットは、ふぅ、と溜息をつき、階段へ視線を彷徨わせる。
「……僕は、職業の授与というものが、どのように行われるかということをずっと調べていた。『女神の選定式』によって、選ばれる人の基準はどのようなものか。目的の職業が得られる可能性はあるのか」
ジャネットが、どれほど知識を貪欲に集めているかは知っていたが、まさか女神の選定式にナイフを入れるようなことすらしていたとはな……。
「結論から言うと——あった」
……ッ!?
ジャネットの言葉に、聞きに徹するつもりだった俺も心臓がドクンと跳ね上がる。
職業に、選定基準があったというのか!?
「その内容は、一覧になった職業と出生を調べた本の中にあった。どうしてそんな本がここにあるのか、信憑性がどれほどかは分からない。でも、何も読まないよりはいい」
「……」
「本の内容をまとめると……その人の出生、人柄、能力などからある程度の傾向を選出しているというもの。そして、その中に……人柄と能力が出るとあった。出生については、恐らくあるけど、信憑できるほど情報が集まっていないとも」
そうだな……シビラも随分と、俺の『聖者としての本質』みたいなことを言っていたように思う。それに、出生ならそれこそ俺達は田舎者の孤児だ。王侯貴族でもないのに、勇者パーティーなんてものになってしまったのはおかしい。恐らく、ここは違うのだろう。
「影響があると聞いて、僕は喜んだ。そして……このことを、誰にも話さなかった」
——!
確かに。一番ジャネットの話を聞いていた俺でさえ、この話を聞くのは初めてだ。
「理由は簡単。みんなが、戦士になればいいと思った。剣を持ってたから。だから僕は……皆の後ろで神官になれたらいいなと思ったんだ。そのために、知識を集めた」
皆が、戦士。
ジャネットが、神官。
それは……まるで……。
「結果として、ヴィンスが勇者に、エミーが聖騎士に、更に僕が賢者になった。正直、この事態は全く予想していなかった」
女神の選定式……今でも、あの日のことは思い出せる。
「とても、いい結果だった。全てが理想通りにいくと思っていた」
神官になりたかった、ジャネット。
神官の上位である賢者になったジャネット。
そして……『聖女伝説』を誰よりも読み込んだジャネット。
「だけど、一番の番狂わせがあった」
……間違いない。俺のことだな。
「あの時の気持ちは……言い表せない。皆が祝福して、上位職になって。まだ、僕達四人が未来のことを語っていた時。その時から、僕は心の中に、言い表せないほどのもやを抱えていた」
ジャネット……お前は……。
「聖女になりたかった。そして、皆を支える役になりたかった。そういう、頼られる存在になりたかったんだ。でも、僕の選んだ方法は……愚かだった。浅はかだった……その程度だから、僕が負けたのは必然だった……」
『聖女伝説』のページが閉じる音が、静かな地下室に響く。
「ラセルをパーティーから追い出すように仕向けたのは、僕なんだ……」
ジャネットは、話し始めて以来、初めて俺の方を向いて小さく告げた。






