上手くいっている時ほど、絶望したときの落差が大きい
久々の再開にて、7章スタートです。お待たせして申し訳ないです。
ずっと水面下で動いていた黒鳶の聖者の書籍、ついに予約開始しました!
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活動報告に様々な情報を載せていますので、是非ご覧下さいませ……!
シビラと出会った【聖者】の俺は、その才覚を消費して【宵闇の魔卿】という新たな職業を得た。
故郷アドリアでは魔王を倒した。そして、エミーと幼馴染みをやり直した。
港町セイリスでも魔王を倒した。お金に困っていた孤児をシビラとともに救った。
そして、マデーラでは『赤い救済の会』の陰謀を暴き、子供達が外で紙芝居を笑顔で見られるような街へと戻した。
離れ離れになっていた親子の縁を再び繋ぎ、かつての聖女と同じ力でマデーラ全員の住民を病魔から治療した。
シビラが尻込みするような魔神すら討伐して見せた。
全て、上手くいっていた。
それこそ、俺としては『故郷に錦を飾る』ぐらいの気持ちでやってきたつもりだった。
だが。
「ラセル……ラセル? いや、違う……ああ、もう僕の認識している世界が、信じられない……また幻なのかな……それとも」
「どうしたんだよ、おい」
「僕にラセルなんて幼馴染み、いなかったのかな……? 自分の、記憶が、信じられない……何も、何も……」
何なんだ、これは……。
あまりにも凄惨な様子に、エミーが前に飛び出す。
「ジャネット!」
「あれ、エミーがいる……これも、きっと……」
「――本物だよっ! あなたの、親友の、エミーだよ。本物だよ。ハモンドで別れて……ラセルに許してもらって。ずっと一緒にいてさっき帰ってきた、エミーだよ」
「……合ってる、合ってる。一致している。認識が一致しているのなら、これは、正解……正解の可能性が、やや高い」
「間違いなく正解だよ! どうしたの、私のこと忘れちゃったの? それとも親友だと思っているのは私だけだったの!?」
「親友でいたいと願ったよ。その資格はないって、ずっと思っていたけど」
……おい、何なんだよこれは。
俺は一体、何を見せられているんだ。
意味のない呟きを発する、見慣れたはずの幼馴染み。
だが、その表情は今までで一度も見たことがないものだった。
俺達にとって、ジャネットという女の子は絶対の信頼を置いているパーティーの頭脳だった。
だが、今のジャネットには『自信』という要素を全部削り取られたように、ぶつぶつと視線を彷徨わせて呟いている。
「《エクストラヒール》、《キュア》。お前といいジェマ婆さんといい、世話が焼けるな。……何があった?」
ジャネットは、少し目を見開くと俺を見て、エミーを見て、フレデリカを見て……シビラの姿に眉間に皺を寄せる。
そうか、ジャネットは知らなくて当然か。
「ああ、僕の体調が悪くなくなった。聖者の……間違いなく聖者の複合回復と複合治癒。そうか、これは今代に二人いない。偽装できるはずがない。じゃあ……本物のラセルだ。やっぱり……聖者には勝てるわけないか……」
ジャネットの喋る言葉の内容が多すぎて、何を返せばいいか分からない。
俺が迷っていると、ジャネットは次に、こう切り出した。
「エミー……ごめん」
「僕はもう、折れてしまったんだ……」
ここからは、ジャネットの物語を書いていきます。






