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火星花嫁  作者: 猫又
第二章 伊織と女海賊
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伊織、惑星カイザーへ行く

 私は窓の外を眺めていた。

もう大分前から宇宙船は成層圏に突入しており、白い雲の間をかき分けるように進んでいた。

 空は青く、黒々とした山がそびえたっている。その合間に見える緑色はもしかしたら海だろうか? 

「綺麗、まるで……地球だわ」

 私は窓ガラスにはりついて遥か彼方の下界を覗きこんだ。

 惑星カイザーは小さな小さな惑星だった。地球の十分の一くらいかな。

 だが、地球にそっくりだった。

どちらかというと海は緑色が濃いので、青い星ではなく緑の星だったが。

 私はまた窓の下を覗いた。地上がだんだんと迫ってくる。

 海と平地がまるでミニチュアの模型のようだ。

 そしてそれが大きくなると、今度はおもちゃのような建物が見えてきた。

 宇宙艇と車の間に米粒のような人が動いているのが見える。

 私は熱心にそれを見ていたので、背後に人が来た事に気がつかなかった。

「何を窓にへばりついてるんだ?」

「あら」

 私が振り返ると、カイザーがにやにやと笑いながら立っていた。

「到着だ。これが惑星カイザーだ。お気に召したかな?」

「とても地球に似てるわ!」

「そうか?」

「ええ」

 カイザーは私に一歩近づいて抱きしめると、

「さて、花嫁さん、行くぞ。仲間が出迎えに来てる」

 と言った。

 船から降りると、太陽のまぶしさで目がくらんだ。

 地上に降りるのは久しぶりだったし、真夏のような日ざしだったのだ。

 宇宙船の外部扉周辺には大勢の人々がカイザーを待っていた。

「カイザー様、お帰りなさいませ」

 先頭に立つ、白髪の老人がうやうやしく頭を下げた。

「おう。メイラー、元気そうだな」

「はい」

「伊織、これがメイラーだ。俺の留守にはこの星の管理を任せてある。メイラー、彼女が伊織だ。正真正銘の俺の花嫁だ」

 メイラーは私を見て優しくほほ笑んだ。

「伊織様、どうぞカイザー様をよろしくお願い申し上げます」

 と言って、頭を下げた。

「はあ……こちらこそ。ふつつか者ですが……」

 何を言ってるんだろ。

 それから次々に誰それに紹介されたが、ちっとも覚えられずに、ただ笑っていた。

 小さな一団がやってきて、きゃっきゃとはしゃいでいるのを見ると、アリアが友人達の出迎えを受けているらしかった。多分、久しぶりの再会なのだろう、アリアはとても嬉しそうな顔をしていた。

「メイラー、セリナの船は戻ってるのか?」

 自動路線に乗り、その周囲にかけつけた人々に手をふりながらカイザーが言った。

 メイラーはカイザーの一歩後ろに控えていたが、重々しい口調で否定した。

「いえ、まだでございます。セリナ様の御帰還も大分に遅れている様子で……気掛かりのは、御連絡すらないという事ですが……」

「ふむ、あいつの事だから何の心配もいらんと思うが……」

 考え込みながらカイザーが言った。

「ま、せっかくの俺の結婚式に出ないって事はないだろう。もう少し待ってみるさ」

「はい」

 それから私達はエアーカーに乗りこんだ。

 何の震動も感じさせずに車は発進した。

「ね、伊織ちゃま、この星のご感想は?」

 とアリアが聞いたので、

「ええ、驚いたわ。地球にそっくり!」

 と答えた。

「そう? 気にいったならよかった!」

 アリアは御満悦だった。

 町並みも地球とそう変わりはなかった。いろんなビルや商店が並び、忙しげに働く人がうた。ただ、カイザーの車が通る時には人々は手を休めて歓声の声を上げる。

 カイザーとアリアはそれに手を振って答えていた。

 ふーむ、ずいぶんと慕われてるみたい。

 後で聞いた話だが、この星で住める人はカイザーの信用のおける部下に限られているらしい。最初はそんなに多くの人が住んでいるわけじゃなく、ただカイザーの隠れ家だったらしい。仲間達が女房や子供、年老いた親なんかを連れてくる者がおり、今では結構な人口になっているそうだ。

「皆、家族みたいなもんさ」

 とカイザーが笑って言うのが何だか不思議だった。 



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