伊織、カイザーと婚約者を比べてみる
だけど、結局アリアはシャークランドへ行く事に成功した。
アモンがカイザーに随分とりなしてくれたからだ。
アモンはアリアを実の孫のように可愛がってるらしい。
それと、私がカイザーの部屋まで出向いてやったからだ!
カイザーの部屋に行くと、彼は何やら忙しそうだった。
パネルをチェックしたり、通信機に向かって怒鳴ったり。
「本当にお忙しそうだこと」
私にも気がつかない様子だったので、声をかけた。
「あ?」
カイザーが振り返る。
「お召しにより参上したけど、何の用? 忙しいんでしょ?」
「フレンダには行ってやるさ。その調整で大変なんだ」
不機嫌そうに、恩着せがましく言う。
「まあ、それはどーもありがとうございます。お邪魔にならないように船の隅っこでおとなしくしてますわ」
「何だ……その口のききかたは」
「何よ」
私達は真っ向から睨み合う。
ふんっと私はカイザーに背中を向けた。
ばっかばかしい。
部屋を出て行こうとした時、ふいに後ろから抱きしめられる。
「どうして……そんなに俺につらくあたるんだ?」
耳元でカイザーがささやく。
「き、ら、い、だから」
「俺の何がそんなに嫌いなんだ?」
カイザーが本当に不思議そうに私にそう聞いた。
全然、分かってない。
「どこがって……そこ」
ちょうどそこへ、ドアのインターホンからアリアの声がした。
「どうしたの?」
アリアはおずおずとカイザーの部屋に入って来た。
「お兄ちゃま、伊織ちゃまをしからないでね。アリアがシャークランドに行きたいって言ったの」
アリアはカイザーが怒ってると思い、また私を売り飛ばすと言いださないように、私の為に言い訳にきたらしい。
「あら、アリア、心配ないわ。お兄ちゃまがシャークランドに連れてってくれるそうよ」
「本当?」
カイザーがうなずいた。
「ああ」
「だから、それまでお部屋で待ってましょうね」
「うん!」
アリアは本当に嬉しそうな顔をした。
「じゃ、これで」
「お兄ちゃま! アリア、すっごい楽しみ!!」
アリアが本当に嬉しそうに年相応の笑顔で笑ったので、カイザーも優しく微笑んだ。
「そうか」
確かに黙って優しく笑ったら、超イケメン。
廊下を歩きながら、アリアが気掛かりそうな声で私に問いかけた。
「ねえ、伊織ちゃま」
「何?」
「お兄ちゃまが最近、なんだか変なの」
「変って?」
「うーんとね、ぼうっとしてる時があるってアモンが言ってた」
「ぼうっと?」
「そう。アリアが思うに、きっと恋わずらいね」
「こ、恋わずらい?」
アリアはしたり顔でうなずいた。
「そう。恋わずらいよ。伊織ちゃまにいかれちゃったのね」
アリアのふふふと笑う顔が何だか一人前の女の顔に見えた。
「そうかしら? 会えば喧嘩ばっかりしてるじゃない?」
「それは、格好つけようとしてるだけよ。お兄ちゃまったら、素直じゃないんだから。本当は伊織ちゃまが好きで好きでたまらないのよ」
「そ、そうかなあ」
「そうよ! だから、伊織ちゃま、お兄ちゃまの側にいてあげてね」
「そ、それは……」
「伊織ちゃまの婚約者ってどんな人? お兄ちゃまよりも格好いい?」
「格好いいかどうか? そりゃ、お兄ちゃまの方が格好はいいわよ。若いしね」
「じゃあ、お兄ちゃまよりもお金持ってる?」
「ど、どうかなぁ、自家用の宇宙船は持ってたけど、動いてるかどうか震動すらしないような大きな豪華な船じゃなかったわ」
アリアはにっこりと笑った。
「じゃあ、全然問題ないじゃない? お兄ちゃまと結婚できるよね?」
「だからね、それは無理よ」
「どうして? アリアならもう我儘言わないよ?」
「うーん」
問題は私がカイザーを好きになれないって事と、家に帰らせてくださいよって事。
私が頭を抱えていると、
「アリア様」
と声がした。
アモンが後方から早足でやってくる。
「アモン! 何?」
「アリア様、例の件でご相談いたしたい事が……」
「ああ、そう。分かったわ。伊織ちゃま、アリア、ちょっとアモンと相談事があるの」
「分かったわ、私は部屋に戻ってるから」
「うん」
アモンが頭を下げるのに軽く会釈して、私は部屋に戻った。
何だろう。アリアも何だか忙しいのね。
部屋に帰ると、桜が待っていた。
このバイオノイドはいつだって私に用事をいいつけられるのを待っている。
「桃さんは?」
「アリア様のご用事にでかけております」
「ふーん。そーだ。惑星フレンダについて、何か知ってる?」
私がソファに座ると、桜は暖かい飲み物を持ってきてくれた。
「はい。惑星フレンダは観光地惑星ですわ。各地の有名な観光地をそのまま再現している事で大変有名です。氷の惑星アイスの氷山や火の惑星イフルのファイヤータウンなど、ああ、そう言えば地球からディズニーランドが来ていますし、温泉などもあるそうですわよ。それに新婚旅行のめっかとしても知られています」
「温泉かあ」
「最近ではシャークランドという遊園地ができて人気を呼んでいるそうですわ」
「ふーん。じゃあ、地球行きの連絡船なんかも行き来してるってわけね?」
「それは……そうですが」
「フレンダ星って位置的に言えばどの辺りなの? そうね、地球からの距離は?」
「……それは……答えられません」
「え?」
私は体を起こして桜を見た。
アリアに聞いたのだが、この船のバイオノイドは人間の問いに答えを拒否する事を禁じられているらしい。知らない事は知らないと答えるそうだ。
「答えられないって?」
「伊織様の地球に関する問いには答えられない事になっております」
「どうして?」
「それは、そういうお言いつけですので」
「ふーん」
ま、いいか。地球への船が出てるって事が重要なのだから。
しかし、パスポートがいるんだ。パスがないと船に乗れないし、お金もない。
「でも、カイザーにはパスポートは必要ないのかしら? 惑星への入港って結構厳しいんじゃないかな? 海賊なんでしょ?」
桜はにっこりと笑った。
「カイザー様にはそういう物は必要ありませんわ。この辺り、シェザハ星系はカイザー様の縄張りですもの。もちろんその他の惑星へ行かれる時にはパスは必要ですけど、そういう時にはちゃんとした物をお作りになります」
「作るって? パスの偽造って事?」
「ええ」
「ふーん」
私にも作ってくれないかな。
何とか地球行の船に乗りたい。
「誰が作るの? この船にそういう設備があるのかしら」
「はい。技術者がいると聞いております。多分、三層区の技術専門部隊でしょう」
「へえ。技術専門部隊があるんだ?」
「はい。カイザー様に不可能な事はございませんわ」
「ふうん」
いい事を聞いた。
カイザーの耳に入らないように作ってもらえるかな?
そうだ。いい事を思いついた!!




