表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/63

魔王ヤス

「どうしたの、ヤっちゃん。しょぼくれた顔しちゃって」


 さすがにアスモデは目ざとい。

 ヤスは袖で汗をぬぐい、茹で上がった麺の湯切りを始めた。


「――ふん。別に何でもねぇよ」

「ね、あたしが慰めてあげよっか。二人で最高にイイ気持ちに――」


 さすがに見過ごせないのか、マルガレーテが割って入る。


「わたしの前でいい度胸ですね。悪魔が契約違反をするなんて、あなたには誇りというものがないのですか!!」


 ヤスとアスモデの契約はマルガレーテの知るところとなっている。

 説明してやらなければ、おさまりがつかなかったのだ。


「おあいにく様。あたしはヤっちゃんに提案をしているだけよ。彼が応じれば、今日が()()()になるってだけだもの、契約には抵触しないわ」

「こ、これだから悪魔との契約なんて信用ならないんです!! こんな契約は破棄ですね、破棄ぃ!」

「あんたこそいい度胸じゃない。勝手に契約を破棄したこと、あたしは忘れてないわよ……!!」


 まさに一触即発である。

 イモリッチは軽く咳払いし、


「あー、そう言えばガルムの話は聞いたかね? また活動が活発になっているそうだ。何でも群れの新しいリーダーが誕生したらしい」

「いや、初耳だぜ。そっかー、そりゃ困ったな。なあ、アスモデ?」

「ええ? まあ……イノークは隊商の護衛でオロシアだから、ちょっとまずいかもね」

「だよな。帰り道にガルムの群れに襲われるかも知れん。マル子ならどうするよ」

「は、はい。そうですね……群れ全体を駆逐するのは現実的ではありません。やはりリーダーを倒すのが早道でしょう」


 話しているうちに頭が冷えたのか、二人は矛先を収めてくれた。

 ヤスはほっと胸をなで下ろす。



   □



 食事を終えて謁見の間に戻るとジェイムスンが飛んで来る。


「お戻りになりましたか、魔王様!! 至急のご報告がございます!」

「ああ、ガルムのことだろ? もうイモ男爵から聞いたぞ」

「魔獣程度の問題ではございません! オロシア帝国で革命が起きましたぞ!!」


 オロシア王家の歴史は古い。

 それゆえに腐敗も進み、近年は権力者の汚職がひどく、民衆は虐げられていたらしい。


「マジかよ!? ウチの隊商はまだオロシアだよな……?」

「はい、オロシア領内におりますな。困ったことに革命軍はすでに国境を封鎖しております!」


 隊商はオロシアに閉じ込められてしまったのだ。

 放置すればイノークは強行突破を図り、革命軍と衝突するに違いない。

 イモリッチは愕然としている。


「ま、まずいぞ! もしそうなれば戦争の火種になりかねん! どうにか穏便に片づけてくれ!!」


 ばたばたと走ってきたのは、ピーラーであった。

 後ろにいつかの手下達がつき従っている。


「大変だぜ、ヤスの旦那! 犯罪ギルドの連中が魔界に入り込んでやがる!!」

「犯罪ギルドですって? 連中がどうして魔界に?」


 戸惑うアスモデに、ピーラーは苦々しそうに返す。


「姉御、そりゃプレイズに決まってますよ。奴ら、バイコーンのツノを集めてプレイズを作ろうとしているんです!!」


 プレイズの製法は秘匿されていたはずだが、人の口には戸が立てられない。

 犯罪ギルドが嗅ぎつけるのも当然か――と、ヤスが考える間もなく大勢のサキュバス達が飛び込んできた。みな、泡姫無双で見た顔である。中からモルモが進み出て、


「魔王様、お姉様! 実はラミアが……ラミアが人間に捕まってしまいました!!」


 ラミアは店の客だけでは物足りなくなったらしい。

 質の高い精を求めて人間の領域深く侵入。貴族の子息に手を出し、しくじったのだ。

 救出するにしても上手くやらなければ、王国との手打ちが台無しになる。


 ヤスはぼりぼりと頭をかいた。


「ええい、もう――どいつもこいつも面倒な話ばっかり持ち込みやがって!」

「どうするの、ヤっちゃん」

「ふん。どうもこうも、何とかするしかねぇだろ」


 みなそれぞれに緊急の要件を抱え、食い入るようにヤスを見ている。

 ヤスはぐいと胸を張り、腕を振って激を飛ばした。


「ぜんぶ俺が何とかしてやる! だから、お前らも手を貸せ。俺がお前らをきっちり使ってやるぜ! わかったかっ!!!!」


 集まった者たちはおおっ、とどよめく。


「もちろんでございます、魔王様! このジェイムスンにお任せあれ!」

「わしも可能な限りの支援を約束する! 約束するから、どうか穏便に済ませてくれっ!!」

「当然だぜ。旦那について行きゃ、相応の報酬を頂けるからな!」

「ラミアは阿呆ですが、わたしく達の仲間です。どうか協力させてくださいませ、魔王様!」

「及ばずながら、わたしも助太刀します。頼りにしてくださいね、ヤスさん!」

「みんなやるってさ。モテモテだね、ヤっちゃん! もちろん、あたしもついていくわよ!!」


 微笑みを浮かべ、アスモデはヤスにしなだれかかった。


「でも大丈夫、キミ? こーんな安請け合いしちゃって!」


 言われるまでもないことだった。

 安請け合いもやせ我慢も彼の仕事のうちなのだ。

 

 しょせんヤスの根っこはチンピラのままだ。

 知恵を絞り身体を張っても、できることなど知れている。

 

 それでもやれるだけはやってやると、この世界にきた時に決めたのだから。


「あったり前じゃねぇか。何せ、俺は――魔王ヤスだからなっ!!」


 口の端をゆがめ、ヤスはにやりと笑った。

以上で本作は完結となります。

長らく読了頂きまして、ありがとうございました!


よろしければ感想、評価などよろしくお願いします!!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 完結お疲れ様でした! 色々面倒が起こってるのにほんわかしたラスト良かったです。 今後もヤスは賑やかに過ごして行くんだろうなぁ(笑)
[一言] 完結お疲れ様でした。 本来、侠客というものはこうあるべきなんですよね。
[一言] 完結おめでとうございます! とても読後感の良い素晴らしいラストでした! 最後のみんなの台詞が、誰が言ったか注釈がなくてもわかるのが流石ですね! 各キャラが凄く立ってました!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ