本物
自分の顔をぺたぺたと触る。
不思議なことにVRゴーグルは装着されていないようだ。
新型だ。新型だから触れないんだ、とヤスは思いたかった。
無理だった。
「は……ははは、はははは……」
知らず、笑いがこぼれていた。
目前の様子はリアル過ぎる。
――断じて着ぐるみとか仮想現実とかのチャチな造り物なんかじゃねー、本物の……本物の?
化け物だ。モンスターだ。そうとしか思えない。
――めっちゃバリエーション豊富だな。搾取じゃねぇか。コンプするのに何回ガチャまわさせるつもりだ。ふざけんなよ、おい。ふざ、ふざけんなよ……!?
「くくくく……ははははは、ふははははははっ!!」
笑いが止まらない。パニック状態に陥っていた。
周囲のざわめきは次第に大きくなり、次第に聞き取れるようになってきた。
「おい……わ、笑ってやがるぜ……あいつ」
「殺られた……が、殺られちまったぞ!!」
「に、人間じゃないのか!? 人間が……」
――何だ? 何だよ、意味不明だろ、それじゃっ!? 俺にもわかるように説明してくれーっ!!!!
自分の笑い声が邪魔で、そもそも聞き取りにくい。
ヤスがそう思っても止められなかった。哄笑を途切れさせたのは、突然の激痛だった。
「――あがっ!? いた、痛てててっ!?」
痛みは全身に広がり、ヤスは膝をつく。
幸い、ほんの数秒で消えてくれた。
「は――? な、何じゃこりゃあっ!?」
己の姿にヤスは驚愕した。
裸の胸元に奇妙な紋様が刻まれていたのだ。まるで入れ墨だった。
「い、今の痛みで彫り込まれたのか……!?」
驚いたことに、紋様そのものには見覚えがある。
胸の真ん中でかっと目を見開くドラゴン。
これはまだいい。絵柄がメッセンジャーアプリのスタンプのようだが、まだ許せる。
しかし、ドラゴンをぐるりと囲む幾何学的なマークは――
「ラーメン丼の模様じゃねーかっ!! 丼マークの入れ墨って……か、恰好悪ぅっ!」
手首や首も同じ模様で囲まれていた。
指先で擦っても消えない。本物の入れ墨のようだった。
――おい、待ってくれよ。まさかこれ、一生消えないのでは?
いやな想像に背筋が寒くなる。
丼マークの入れ墨をしたヤクザなぞ、なめられるに決まっている。
こんなの誰だって笑う。俺だって笑うわ、とヤスは思った。
だが、そんなことより今は――
「いい紋様キメてるね、キミ!!」




