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兄貴

 トロの剣で撃ち出したソニック・ブレイドの威力は、素手とは比較にならない。

 

 それでも初撃では急所の破壊は成らなかった。

 亀裂の奥に何かが見えているが、偽ウロボロスはいまだ健在だ。


「でやああああーっ!!」


 魔眼から滑り降りつつ、マルガレーテは再びスキルを放つ。

 

「もう一度っ!!」

 

 二度、三度と衝撃波に叩かれ、亀裂が拡大していく。

 聖気を含んだ斬撃は偽ウロボロスの回復を遅延させる効果があるようだ。

 肉は大きく抉り取られ、くぼみとなった。


 その底に、異様なモノが露出していた。


 ぽっかり空いた漆黒の穴がある。

 中心には赤黒いミイラ――いや、表皮をずるりと剥かれた男がいた。

 下半身は穴の中に入り込み、見えるのは上半身だけだ。


 男は動かない。

 

 両眼からどくどくと黒い腐汁を流し、顔をのけぞらせて。

 

 男は死ねない。


 歌うように手を広げ、少しずつ肉体を腐りむしられながら。

 

 無残であった。

 

 こうまで残酷な生があるのかと、マルガレーテをひるませるほどに。

 

 

 これが魂のうろなのだ。

 

 

 かつて宇佐義組 組長、宇佐義羽太であり、転生して聖堂教会 大司教ピョトール・クローリクとなった男の終着は、これだった。


「くっ!! ソニック――」


 脂汗をぬぐい、マルガレーテは剣を振りかぶった。

 スキル発動は生命力をごっそり消費する。本来は連続使用できるようなものではない。



――でも、もう一回だけならっ!!!!



 回復の途上の首が寄り集まり、再びガードを固める。

 さらに穴の縁から壁がせり上がり、クローリクを覆い隠してしまった。


 スキルの発動モーションに入っているマルガレーテは、もう止まれない。

 いや、止まれば機を逃してしまう――恐らくは二度とない勝機を。


「――ブレイドォォォォォーッ!!」


 渾身の一撃は彼女が積み上げてきた研鑽の証でもあった。

 立ち塞がるすべてのものを真正面から粉砕し、ソニック・ブレイドはクローリクを袈裟懸けに両断した。


『――、――ッ!』


 声なき絶叫。

 だが、マルガレーテは口の動きからクローリクの言葉を読み取っていた。



――ナオ、ルガ!?



 断面から薄緑色の光が噴き出し、分かたれていた身体がぴったりとくっつく。

 治療系の最上級法術“ナオルガ”であった。


 殺しきれなければ回復してしまう。もうスキルも撃てない。


 厳然たる事実を前に、なおマルガレーテは不屈だった。

 こうなっては剣で直接斬り刻むしかない。



――わたしが埋葬しなくてはっ!!



 足が地を蹴る寸前、上方から雪崩れ落ちてきた顎がマルガレーテを捕捉した。



   □



 合体した怪物の群れに包囲され、ヤス達は追い詰められつつあった。

 

 オークが二人がかりで叩いても、ほんの数歩後退させるのがやっと。

 短い間隔での全力打撃を強いられ、さすがのオーク達も疲労の色が濃い。

 

 円陣を小さくして交代で戦っているが、明らかにジリ貧である。追い返すことはできても倒すことはできないのだから、当然だ。

 

 怪物の方もこちらの手に慣れてしまった。

 胴体を叩かれないように長い棘を形成し、距離を取って戦い始めたのだ。

 コボルトがかく乱しても最小限の反撃のみで深追いしてこない。

 

 結果、オーク達は強引に攻撃せざるを得ず、負傷者が続出していた。



――くそ、こりゃ本格的にヤバいぜ! 魂のうろはまだ壊せないのかよ!?



 焦燥のあまり、ヤスは目前の戦闘から目を逸らす。

 仰ぎ見れば、ちょうど偽ウロボロスの首が上方へ伸び上がっていくところだった。


 顎に白銀の鎧をまとった騎士をがっちりと咥えて。


「マル子っ!?」


 マルガレーテを認識した瞬間、ヤスは理解した。

 

 失敗だ。

 魂のうろの破壊は、失敗したのだ。

 もうここでいくら粘っても無駄だ。

 頑張っても無意味なのだ。

 

 ならば。


「イイイイイノォォォォォォクッ!!!!」


 苦しい時の兄貴頼り。

 チンピラとしての習性が迷いなくヤスにその名を叫ばせていた。


「んおっ!? な、なんじゃいボス!」


 円陣の内側に下がっていたイノークは、ぱちくりと目を見開く。

 ヤスはイノークからドスを取り上げ、棍棒を押しつけた。

 

 偽ウロボロスの魔眼の背後――魂のうろがある辺りを指差す。


「俺をあそこへ打ち上げろ!! 速攻でだっ!!」

「む……すまねぇ、ボス。俺ぁもう腕が利かねぇ。ブーストを使っても上まで放り投げるのは――」

「馬鹿野郎、お前の足は飾りか!? 足で俺を()()するんだよっ!! ロケットだよ、ロケット!!」


 たったそれだけの説明で把握できたのは、前世の記憶の残滓が関係していたのかもしれない。


「ロケットだら、わからんが……大体わかったぁっ!! あんた無茶言いよるのぅっ、がははははは!!」


 イノークは地に背をつけ、両足を揃えて膝を折り畳む。

 足の裏を天に向けると、ブーストを発動した。


「いいぜ、ボス!!」

「おっしゃ、行くぞっ!」


 イノークの足の裏に飛び乗ると、ヤスは屈伸の姿勢を取った――瞬間、二人は一気に足を伸ばす!


「「ヘルファイヤ・ロケットーッ!!!!」」


 強烈な加速により視界がぶれる。

 二人分の脚力に加え、ブースト効果がヤスにまで伝播していたのだ。

 

 

 数瞬後、ヤスは空高く飛び出していた。

 

 

 緩やかに身体が回転していた。

 上空から一気に状況を確認する。


 三つの首を引きつけ、戦っているアスモデ。

 見る影もなく動きはにぶり、やられていないのが不思議なほどだ。


 ヤスよりさらに上方で顎に咥えられているマルガレーテ。

 鎧のおかげか、まだ抵抗している。だが、自力で逃れるのはまず無理だ。

 

 怪物に包囲されているイノーク達。

 円陣が崩れようとしている。そうなれば即座に全滅するだろう。


「って、げげっ!?」


 ほんの数m先に、大きく顎を開いた偽ウロボロスの頭があった。

 ブレスを吐くつもりなのだ。空中にいるヤスを狙う分には、自爆攻撃にならずに済む。



――まずい、このままじゃ着地する前に消し炭にされちまうっ!?



 握っているドスだけでは戦いようがない。慌てて顔を巡らせる。

 そして――それが眼に映った。


「オヤジ……!?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 熱い、熱いな! 立花兄弟(違う
[一言] 苦しい戦いも最後に近づく?
[一言] で、出たあああ!!! スカイラブハ○ケーン!!! これはゴールバーに登って対抗するしかない( ˘ω˘ )
感想一覧
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