ゲーム
ドスの切っ先が、ぞぶりと腹を貫く感触。
とたん、絶叫が鼓膜に突き刺さる。
「ぐぎゃああああああああーっ!? ぎ、貴様ぁぁぁぁっ!?」
たまらず、ヤスは瞼を開けた。
当然ながら田貫の丸顔が目前にあった。
しかし、ひどく顔色が悪い。
刺されたからではない。肌全体が青黒い色に染まっているのだ。
吐血している口元も奇妙だった。牙だ。獅子のごとき牙が生えている。
よろよろとヤスから離れ、田貫はあおむけにどうと倒れた。
ぴくりとも動かない。
やけくそで目をつぶって刺したのに、即死させてしまったらしい。
――あ、当たり所がよかった……? クリティカルヒットって奴か。いや、ゲームじゃあるまいし。
ともあれ、確かに死んでいた。
だが標的を殺した実感は薄かった。他にもっと、ずっと気になることがあったのだ。
「こいつは――田貫、だよな……?」
顔かたちはよく似ている。
だが、体格が違う。腹は出ているが、ガチムチだ。さらに頭からにょっきり二本角が伸びていた。漆黒の甲冑、濃い赤のマント。とどめに腰には剣を下げている。
悪役。まさに悪役としか、評しようがない姿だ。
「な、何だ、この格好……? いい歳こいて、何かのコスプレか?」
ドスは甲冑を貫き、田貫の腹に突き刺さっている。
わけがわからない。あの位置関係で別人を刺すはずがない。まるで早変わり――いや、変身でもしたかのようだ。
「オオ……オオオ……」
静かなざわめき。
田貫の死体へ投げていた視線を声の方へ向ける。
「は――?」
何故か、ヤスは大広間の壇上にいた。
周囲は床も壁も石造り。天井は高く、悪趣味なシャンデリアがぶら下がっている。
まったく見覚えのない場所だ。
――し、城? 何か、外国の城……?
ゲームに出てくるお城のようだった。
ドラポンクエストとか何とかの。
――どこだ、ここ!?
少なくとも田貫組の事務所ではない。
雑居ビルにこんな大広間があるはずがないのだ。
下方のフロアには数百に達する人影があった。
彼らは全員、食い入るようにヤスを注視している。
いや、これも違う。人影ではない。
巨大な一つ眼を血走らせている奴、顔にぽっかり空いた漆黒の穴からよくわからん光をぎらつかせている奴、全身にある無数の目をぎょろつかせている奴――人間っぽい姿の方が少なかった。
――そっか、やっぱりゲームか。ゲームじゃねぇか、これ。ゲームだよな?
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