表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/63

操縦者

ヤスは冷や汗をぬぐう。


「すまん、助かったぜ。何だよ、こいつら!」

「だから聖堂騎士はヤバいって言ったでしょ。気絶させるか殺すかしない限り、止まらないのよ!」


 指揮官らしき聖堂騎士が叫ぶ。


「ひるむな、兄弟達よ! 神の栄光は我らが示すのだ!! 大司教様、恐れながら法術によるご支援を賜りたく!」


 クローリクは顔をしかめた。

 法術は生命力を消費して実行される。若者ならまだしも、初老のクローリクにとっては文字通りに骨身を削る行為だった。

 だが、さすがに出し惜しみをしている場合ではないと悟ったらしい。


「ぬ……よろしいでしょう。慈愛の光よ、聖堂に集う子等を照らし癒やしたまえ――ナオルバ!!」


 薄緑の光が礼拝堂を満たし、聖堂騎士達の傷が塞がっていく。

 イノークがまとめて数人、石斧でなぎ倒す。転がった騎士達はびくびくと痙攣した後、むっくりと起き上がった。どうやらクローリクは礼拝堂を自動回復エリアにしてしまったらしい。高位の聖職者だけが使える上級法術だった。


「マジかよ……ズルだろ、これ!」

「落ち着いてヤっちゃん。法術の効果は一時的なものよ。範囲が広い分、治癒力も制限されるわ」

「がっはっはっはっ!! 要はミンチにすりゃ、ええのよ! おらぁっ!!」


 石斧をもろに打ち込まれ、兜ごと頭を潰された騎士はさすがに崩れ落ちた。死者をよみがえらせることはできないのだ。イノークは力任せの斬撃――いや、打撃によって確実に騎士を絶命させていく。


「へえ、イノシシ馬鹿もこういう時には役に立つじゃない! うふふふっ、これならイケるわね!!」


 めずらしく感心し、アスモデは舞うような剣技を披露した。

 基本的には手数の多さで相手の接近を阻み、好機に恵まれた時だけ急所を狙い打ちする戦法だ。

 

 油断なく敵を見据える澄んだ瞳。

 休みなく躍動するしなやかな体。

 紅潮した頬に乱れ髪が張りつく。


 凄惨な殺し合いに没頭しながらも、彼女の美しさはいささかも損なわれていない。

 ヤスの視線に気づいたらしく、アスモデはばちんとウィンクを寄越す。


「やっぱりあたしに見蕩れてるでしょ! ふっふーん、今度こそ惚れ直した?」

「るっせぇな、言ってる場合か! 油断してると足下すくわれるぞ!!」

「もー、先に調子に乗ったのヤっちゃんのくせに!」

「あー、わかった悪かった。悪かったから、しっかり戦ってくれ」

「はいはい、魔王様。おおせのままに♪」


 楽しげな声色そのままに、アスモデールは軽やかに剣を振るった。


 実際、もう少し騎士達の数が多かったらヤス達が力負けしていたはずだ。

 しかしアスモデは味方を守り抜き、イノークは着実に敵を戦闘不能にしていった。

 

 数分を経てクローリクの他には数名の騎士を残すだけとなった。


「この役立たず共がっ! 俺にあれだけ法術使わせておいてあっさり死にやがって、それでも聖堂騎士か!?」


 クローリクは倒れ伏す騎士の身体を蹴飛ばした。


「相変わらず人を使い捨てかよ。お陰で迷うことなくあんたを始末できるぜ」

「ぐぬぬぬ……っ! 糞……糞、糞、糞、糞がぁっ! どいつもこいつも肝心の時に役立たねぇっ!!」


 ぎりっと歯を鳴らした後、クローリクははっとなった。


「そうだ――まだゼクスがいる。奴があの程度で死ぬわけがねぇ!!」


 ヤス達の背後、礼拝堂の入り口付近に山積したゴリアテの残骸に向けて、クローリクは怒号を浴びせた。


「おい、何してやがる!! 気絶している場合じゃねぇぞ、てめぇにいくらかけたと思ってやがるんだ!? いつまでも寝てんじゃねぇ!! さっさと起きろ、ゼクスーっ!!!!」


 届いたのか、否か。

 声に応じたのは、高々と舞い上がるゴリアテの腕だった。腕は放物線を描いて飛び、ヤスとクローリクの間に落下した。

 残骸の山が崩れていた。大きな装甲板がゆっくりと動き、その下から人影が現れる。


「ちっ、人が乗っていたのかよ!?」


 ヤスはとっさに銃を向ける。

 ゴリアテの操縦者は足をもつれさせ、転倒してしまった。


「おい、うご――って、何ぃっ!?」


 仰天のあまり、ヤスは叫んだ。相手の顔に見覚えがあったのだ。

 こんな場所にいるはずのない女性。マルガレーテ・フェニクスであった。


「マジかよ、マル子じゃねーか!!」

「――はぁっ!? ちょっとヤっちゃん! 今マルコって言ったよね!?」


 目を剥くアスモデ。

 ヤスは思わず口ごもった。


「い、いや……ちょい待て。ステイ、ステイ! ちょっと待っててくれ!」

「ちょっ、ヤっちゃん!!」


 アスモデとイノークを置き去りにヤスは走り出した。


「マル子! お前、何やってんだよっ!?」


 マルガレーテはふらりと立ち上がった。

 駆けつけたヤスは彼女の茫漠とした眼差しに気づかなかった。


「ど……うして……どうして……っ? ああ、どうして……?」

「いや、俺が聞いているんだけどな。悪かったな、お前が乗っているとは思わなくてよ」

「最初から、知ってたんですか……? 知ってて、わたしに……わたしを……わ、わたしは……っ!?」


 マルガレーテは顔をそむけてしまう。ヤスは戸惑うばかりだ。


「あ? いや、だから乗っているとは思わなかったんだって。てか、お前さ」

「とぼけない、で……あ、あああああーっ!!」


 ひどく頭が痛むようにマルガレーテは両手でこめかみを押さえつけ、苦悶した。


「お、おい! マル子、大丈夫か!?」

『さわ、るな……!』


 伸ばした手は振り払われてしまう。

 眼に殺意をみなぎらせ、マルガレーテは絶叫した。


『穢れた手で触れるなーッ!!!!』


 右手がすっと引かれた。横殴りに手刀を繰り出そうとしているらしい。



――ヤバい。



 唐突な直感。

 マルガレーテは素手だ。リーチも短い。軽くバックステップすればかわせるし、打たれたとしても女の細腕なら――



――いや、ダメだ。ヤバい。ここにいたら……死ぬ!!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] これは……修羅場ッ!(いろんな意味で)
[一言] ヤスの直感が凄いものがありますね。
[気になる点] 癒しの法術…ナオルバ… くそうっ…こんなのでっ(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ