イケイケ
エントランスに誰何が響く。
二人のチンピラが血相を変え、鬼島に駆け寄ってきていた。
ヤス達のカチコミスタイルを見れば当然の反応である。
「オイ、止まれ!! 止まらねぇと――」
一人が得物を出そうと懐に手を入れる。
だが、遅かった。
「じゃかあしいわっ、雑魚がっ! おらっ!!」
「ぐがっ!?」
「おうらぁっ!!」
「がはっ!!」
チンピラ達は見張りと同じ轍を踏んだ。瞬殺だ。
階段に向かおうとする鬼島を、ヤスは慌てて呼び止めた。
「兄貴、ちょ、待ってくれよ、兄貴っ!! 変だぜ、これ!」
「――ああ? 何じゃ、何が変じゃい」
「人数だよ! ここには標的を入れても五人しかいないはずなのに――」
表の一人にエントランスに二人。
これでは標的のそばには一人しか残らない。
ちょっと妙だ、とヤスは思った。
「何だぁ? ヤス、てめぇぶるってんのか?」
鬼島は苛立ったようだ。
ヨイショはいいが、ブレーキを踏まれるのは大嫌いなのだ。人を殴った興奮で戦闘意欲に拍車がかかっている。
「い、いや……だけど、聞いていた話と……」
「じゃかぁしいわっ! 全員、ぶっ殺せばいいだけじゃろがいっ!」
一喝され、ヤスは身を縮こまらせた。
「ガタガタ言うな、ボケッ!! オヤジの命令じゃろがっ!」
もう仕方がないとヤスは諦めた。
怖いから、鬼島が兄貴分だからだけではない。
ヤスはなめられているのだ。
一目置かれない限り、話を聞いてもらえない。軽く扱われてしまうのだ。
結局、男を見せるしかない。ヤクザの社会で人がましくなりたいなら、力を示すしかないのだった。
「事務所は三階じゃ、行くぞっ!!」
「へ、へいっ!」
鬼島に従い、ヤスも階段を駆け上がった。
ことここに至っては、奇襲効果に賭けるしかない。
だが、この調子では事務所に何人いるかわからない。本当に二人だけで相手取れる人数なのか――などと考える間もなく、鬼島はどんどん先へ行ってしまう。
――ヤバいんじゃないのか。情報が間違っていたんじゃないのか……?
怒声が聞こえ、ヤスの懸念は確信に変わった。
三階に着いた鬼島が、事務所から出てきた連中と鉢合わせしたのだ。
「んなっ、貴様らどこのモンじゃっ!? ここを――」
鬼島はいきなり銃を撃った。躊躇なく撃ちまくった。
「がはははははっ、喰らえっ!! おうらっ、どけ、どけぃっ! 邪魔じゃ、ごらあっ!!」
悲鳴と怒号、銃声が交差する。
ほどなくヤスも三階にたどり着く。
廊下には、四人の死体が転がっていた。
鬼島はもちろん健在だ。
しかしヤスは愕然とした。
――様子見に出てきた奴らだけで四人? なら、事務所の中にはもっと大勢いるだろ、絶対っ!!
予定の五人どころか、すでに七人も排除している。もはや事前情報は信用ならないとみるべきだ。
――こりゃ、出直しだ。このまま突っ込むのはまずいぞ!
この程度の判断は誰でもできる。せめて数秒間だけでも、考えてみるはずだ。
だが、鬼島は心底馬鹿だった。
弾の切れた拳銃を放り捨て、ちゅうちょなく事務所のドアを蹴り開けてしまった!
「うわああっ!? ちょ、兄貴ぃぃぃっ!?」
衝撃で『極道かのやま連合 田貫組』と記載されたドアプレートが外れた。
からからと音を立て、床を滑って行く。
「おうおう、いるじゃねぇか! ビンゴだぜ、がははははっ!!」
鬼島の影に隠れ、ヤスは恐る恐る室内をのぞき込む。
ヤクザ者が八名もいた。いや、九名だ。
絶賛武装中だったらしく手に手に銃やドスをつかんでいる。鬼島の勢いに呑まれ、固まっているようだ。
――嘘だろ、多過ぎる! いくら何でも多過ぎるだろ、これっ!?




