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32 特殊戦機パイドパイパー

 そのあまりにも戦場には似つかわしくない桃色の塗装に目を引かれたが、サブリナちゃんが乗ってきた機体がおかしいのはその機体色だけではない。


 角度の違う傾斜を組み合わせて作られた装甲形状に頭部の意匠は間違いなくマートレットやニムロッドの系譜であろう事は間違いないのだろうが、2本の腕部はまるでトヨトミ製の機体であるかのように細い。


 腕部に反して脚部はしっかりとしたサイズ感のフレームに装甲が張り巡らされたものでどうにもチグハグである。


 細い腕部に太い脚部の理由はその機体の背部バックパックと一体化したコンテナにあるのだろう。


 山小屋に人の足で荷物を上げる歩荷さんのように頭部よりも高い位置まである巨大なコンテナの重量に耐えるために脚部フレームは太く、腕部を細身の物にする事で積載量を稼いでいるのだ。


「なんとか間に合ったというところか? 悪いな、私がライオネスの救援要請を受けてすぐに依頼を仲介した傭兵組合が募集を締め切って、輸送機を出させるのに苦労したんだ……」


 スラスターを吹かして上空から舞い降りたピンクの機体は腰のホルスターから短剣を引き抜いて私の傍らにいた月光へと投げつける。


 よく見ると投げつけられた2本の短剣は“剣”というよりかはダーツの矢のような形状の代物。手に持って敵に斬りつけたり突き刺したりするための物ではなく、投擲して使うための物なのだろう。

 その証拠にサブリナちゃんの機体の手から離れた短剣は柄の部分からロケットの噴射で推進力を得て高速回転して敵機へと向かっていく。


 だがステルス機月光はその類稀なる運動性のステップですんでの所で躱して、短剣は虚しく月光の背後のビルへと突き刺さる。


「ま、ステルス機相手に当たるわけがないよな。でも……」


 サブリナちゃんの笑いを押し殺したような声が聞こえてきた直後、ビルに突き刺さった短剣は爆発して周囲に爆風と破片を撒き散らす。


 それを好機と見たのかサブリナちゃんの機体が背負ったコンテナからパンジャンドラムとかいうボビンの化け物が再び飛び出していく。


 2つは月光へ、2つは陽炎の元へ。


 月光はさらに私たちから離れて距離を取り、手にしたサブマシンガンでパンジャンドラムを迎撃しようとするものの、空も地面も関係無く飛び跳ねて変幻自在に軌道を変える爆雷を撃ち落とすのには苦労しているようだ。


 その隙にピンクのHuMoはコンテナから折り畳み式の手槍を取り出して私たちの元へと駆け寄ってくる。


「大丈夫? 随分と派手にやられてるみたいだけど?」

「助かったわ!! でも……」

「うん、なんだい?」


 陽炎の方から大爆発の轟音が鳴り響いてくる。

 大地を転がるパンジャンドラムが対空機関砲の射界の穴を突いて敵の懐に飛び込んでそこで起爆したのだ。


「……助けてもらってこう言うのはなんだけど、アレ、派手な割にはあんまり効いてなくない?」


 やっと人心地ついてディスプレーに表示されている情報に目を向ける事ができたので陽炎のHPを確認してみると「35,778/40,000」という表示が目に飛び込んできたのだ。


 私が見ただけでもあのボビンのお化けは少なくとも5個か6個は陽炎に体当たりして爆発のダメージを与えているハズである。


 なのに与えたダメージは4,000ちょい。

 いくらサブリナちゃんの機体がコンテナをかついでいるとはいっても直径1メートルほどのパンジャンドラムを大量に詰めるとは思えない。


 さらにいうならばステルス機の月光の方はニムロッドのプロセッサーかFCS、あるいは両方に認識されていないせいかHPの表示は無い。


 もはや手詰まりかと諦め半分、せっかく救援に来てくれたサブリナちゃんに黒星を付けてしまって申し訳なさが半分。

 だが私の心中とは裏腹、サブリナちゃんの声は随分と暢気なものだった。


「まあ、パンジャンドラムはもう打ち止めだけどさ、多分、これで……」


 右手で手槍を、左手に新たにホルスターから抜いた投擲用の短剣を手にサブリナちゃんの機体は月光を警戒しているようだが、月光は姿を消したまま。


 私は自機のHPを確認すると残り450、キャタ君のズヴィラボーイも残り762。

 HPを現すバーは2機揃ってミリ残りである。


 月光のサブマシンガンなりナイフなりの攻撃を受ければ撃破されてしまうだろう。

 だが月光は姿を現さない。


 息を飲んで次の襲撃の瞬間を待ち構えていると、陽炎のいた方向からホバー走行の轟音が聞こえてきて思わず視線をそちらに向けると陽炎は難民キャンプに背を向けて去っていくところであった。


「……あれ?」

「ああ、やっぱり」

「どういう事?」


 やれやれ……といった具合に溜め息をつくサブリナちゃんに尋ねると、何て事はない様子で答えてくれる。


「ライオネスから救援要請を受けて輸送機の用意ができるまでちょっと調べてたんだ。なんせ『難易度☆☆☆(ホシサン)』の大型ミッションなんか聞いた事無いし、そもそも現時点で大型ミッションがあるだなんて初耳だったからな」


 ピンクの機体はもう敵襲は無いと知っているかのように手槍と短剣をしまい、脚部を失ったローディーの烈風に肩を貸そうとしていた。


「ほれ、ライオネスは反対側を」

「いや、でも敵襲が……」

「もう、しばらく大丈夫だよ」


 サブリナちゃんに促され2人で両脚を失った烈風を左右から挟み込むようにして抱き上げる。

 やはり私と同じようにキャタピラー君もまだ敵の攻撃があるのではと周囲を見渡すものの、すでに陽炎と月光のみならず難民キャンプに殺到していたハイエナの機体たちは撃破された者の残骸を除いてその姿は無い。


「第一ウェーブはこれでおしまいっと」

「だいいちうぇ~ぶ?」

「ああ、攻略wikiにβテスト時にあった似たような大型ミッションの情報があったから多分そうだろうなと思ってたんだ。依頼主はゲスイカオ=トクシカで、場所は難民キャンプ。んで、敵のBOSSは陽炎に御供に月光……」


 サブリナちゃんは「似たような」なんて言うけれど、そこまでならまるっきり今回のミッションと同じ内容である。

 では、攻略wikiにあったβテスト時代のミッションと今回のミッションの違いとは?


「βテスト時代には陽炎のHPを1割以上削る事で一時撤退して第一ウェーブは終了って流れみたいだったようだけど、これも同じでよかったよ。なにせ私のパイドパイパーはトリッキータイプの入門機だけあって、そんな継戦能力は高くないからなぁ。ただ……」

「……ただ?」

「いや、βテストの時はこのミッション、『難易度☆☆☆☆☆』だったみたいなのに、なんで『難易度☆☆☆』になってんだろうなぁ……」

ちなみにダーツの名前は「ランケンダート」、手槍は「ホームパイク」。

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