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21 大型ミッション

 人間というのは不思議なもので、自分よりも優位であると認識してしまった相手へ面と向かって批判を述べる事には随分と勇気がいるものなのだ。


 前回のミッションではトミー君が身を隠していたクレーターから飛び出したのを切っ掛けに乱戦となり、その結果として私はともかくとして中山さんたち3人の誰が撃破されていてもおかしくはなかった。


 輸送機で中立都市へと運ばれてくる最中、通信で中山さんに「さっきのファミレスで反省会と次回の打ち合わせでもしましょう」と言った時には私は3人の機体の乗り換えを提案するつもりでいたのだ。


 意外とHuMoでの格闘戦に適性がありそうな中山さんが軽量高機動タイプの陸戦型へ、抑えの利くジーナちゃんは双月で索敵と管制、合間を見て爆撃で支援。敵に突っ込みたがるトミー君はタンクタイプの重装型に乗せ、ミッション開始時に後方の待機地点まで移動したら履帯を中山さんが破壊して固定砲台として運用する。


 こんなプランを提案するつもりであったのだけれども、なんともそれが言い辛い事になってしまった。


 まさか初日の緊急ミッションで貢献度ランキング1位を取っていたのが中山さんだっただなんて……。


 これで私がなんか言ったらランキングのドベがトップになんか言ってらみたいな空気にならないだろうか?


 いや、別にあの緊急ミッションの結果で全てが決まるだなんて思ってはいないし、そもそも緊急ミッションの貢献度と実際の戦闘能力とはそれこそ関係の無いものだという事も分かっている。


 それでもなんでかランキングという順位付けされた結果があるせいで私のハートにはブレーキがかかってしまうのだ。


「……話は変わるんだけどさ、中山(サンタモニカ)さんは途中まで上から索敵してきたデータを味方に送るだけのプレイって楽しい?」


 そこで私は切り口を変えていく事にした。

 双月の長時間の飛行能力は侮れないし、中山さんの思い切りの良い格闘スタイルも捨てがたい。

 サンタモニカ小隊の問題の1つはその格闘能力に目を見張るものがある中山さんが格闘戦には向かない双月に乗っている事なのだ。


 だが貢献度ランキングで順位付けされている以上は「こうしたらどうだろう?」とは言い辛い。ならば「こうしたら、もっと楽しめるんじゃない?」という方向性でいくしかない。


「試しに中山さんが陸戦型に乗ってみたらどうかしら?」

「う~ん……? 私の送ったデータでトミー君とジーナちゃんが戦っているのを見るのは楽しいでごぜぇますわよ? もちろん2人がピンチになったら私が助けに行きますけどね!」


 う~ん、駄目か。


 それにしてもなんとも上級国民らしい答えである。

 自分は高みの見物、実際に働くのは下々の者。


 柔らかい笑顔でそんな事を言われると皮肉を言う気にもなりゃしない。

 むしろトミー君たちがピンチになったら自分も戦闘に飛び込む意気があるだけ善良な上級国民といってもいいのだろう。


「まあ、私なりにも問題点がある事は理解しておりますし、そのせいでライオネスさんに負担をかけたのも分かっていますわ。そこででなんですが……」


 そういうと中山さんはタブレットを操作してとあるミッション依頼文を表示させてから私へと差し出してきた。


「これならライオネスさんのご負担も少なくなるのではないかと……」

「ええと、何々……」


 タブレットに表示されていたのは見慣れない形式のミッションであった。




 件名:難民キャンプの警護(大型ミッション 危険度:☆☆☆)

 依頼主:傭兵組合依頼斡旋係


 内容:中立都市南方、サムソン、ウライコフ境界線付近に存在する難民キャンプ警護の依頼がありましたので組合所属傭兵の皆様の参加を募ります。

 現在、当該難民キャンプにおいて慈善活動家としても知られる大富豪ゲスイカオ=トクシカ氏の支援事業が展開中となっており、トクシカ氏本人も事業の進行状況を視察するために当地に滞在中となっております。

 しかし、そこを狙った武装犯罪者集団(ハイエナ)の襲撃が相次ぎ、トクシカ氏に帯同した私兵(ハウンド)は消耗。そこで急遽、我々中立都市傭兵組合へと警護の依頼が持ち込まれました。

 依頼は「難民キャンプの警護」とはなっておりますが、当然ながら依頼主であるトクシカ氏本人の安全を最優先してください(本人には内緒にしといてください)。

 なお依頼主の要望により多数の傭兵の参加が望まれておりますので皆様お誘い合わせの上、振るってご参加ください。


 人数制限:7/12

 添付:難民キャンプ周辺地図

 タグ:大型ミッション 危険度☆☆☆




「これ、『難易度☆☆☆(ホシサン)』のミッションだけど大丈夫かしら?」

「大丈夫じゃないでしょうか? 何しろ他にも参加者がいるのですから。それに私1人の参加で3機のHuMoが加わるのです」


「難易度☆☆☆」の、しかも初めてとなる大型ミッションとやらに私は不安で眉間に皺を寄せるが、中山さんはのほほんとした笑みを崩さない。


 確かに彼女が言うようにプレイヤー12人まで参加できるミッションという事は数の力が必要になるのかもしれないわけで、1人で3機のサンタモニカ小隊は大きな力が期待できるのではないだろうか?

 もちろんサンタモニカ小隊の悪い癖が出た時も私1人でフォローしなくてもいいというのも大きい。


「マモル君はどう思う?」

「う~ん……、どうなんでしょう?」


 中山さんたちを1人で支えなくていいという事だけで私の不安は吹っ飛び、もう半分すでに受けるつもりでマモル君の助言を求めると彼は首を傾げていた。


 他に「俺に任せろ!」とばかりに腕に力こぶを作って見せつけてくるトミー君とは裏腹に妹の方のジーナちゃんも俯いてなにやら考え込んでいる様子。


 マモル君とジーナちゃんに共通しているのはこのミッションに対して難色を示しているというよりかは本当に不思議そうな顔をしているという事。


「いや、すいません。メタな話を言って申し訳ないのですが、僕たちユーザー補助AIには担当ユーザーが無茶なミッションを受けたりしないようにミッションの難易度とユーザーの保有戦力、操縦技能を比較して助言する機能もあるのですが、その機能が判断をできないでいるのです」

「私もです。ていうか、そもそも正式サービス3日で大型ミッションって解放されるんでしたっけ?」

「僕の記憶じゃ多数のプレイヤーが参加する大型ミッションは『アップデート待ち』になってますね」

「なんだっていいぜ!! どんなミッションだろうと俺の雷電で大暴れしてやればイチコロさ!!」


 どこからそんな自信が湧いて出るのか大言を吐くトミー君に中山さんが笑顔で小さく拍手をしてやると彼は満足気な表情を浮かべる。


 対称的にマモル君とジーナちゃんは「サーバーにアップデート情報を確認……」だの「アドバイス・プロトコルを更新……。更新内容無し」だの小声でぶつくさ言いながら互いの推論をぶつけている。


「すでにこのミッションに参加しているプレイヤーからの不具合情報も無いようですね」

「それにしても何の更新情報も無いというのはどういう事でしょう? βテストに参加してくれたプレイヤーと正式サービス開始後のプレイヤーの平均的な技量の差が集計されるまでは大型ミッションは実装されないハズで、現状の私たちにはこのミッションの受領が担当プレイヤーにオススメできるかどうかの判断基準がありません」

「ええ、そのとおりです。フレンド同士で小隊を組んで受領するミッションとは違い、見ず知らずの、それも多数のプレイヤーが参加する大規模ミッションの難易度判定は複雑なものとなるでしょうからね」


 マモル君が言うには大型ミッションというものはフレンド同士やユーザーと補助AIで組まれた小隊での戦闘のデータや、私がこれまでに2回受けた「砲兵陣地の護衛」ミッションなど少数の見ず知らずのプレイヤー同士での協力プレーを行った際のデータを元に実装されるハズのものなのだという。

 確かに「砲兵陣地の防衛」では護衛を担当する私たちの他に、別に砲兵役としてハイエナのアジトへの砲撃というミッションを受領していた他のプレイヤーがいたのだ。


 正直、私は小難しい話は理解しきれず、話をしている2人の飲み物のお代わりをドリンクバーに取りに行く事しかできない。


 それにしても年少の私よりも見るからに幼い2人が難しい話をしているのに、「次こそは大活躍だ~!」とイキるトミー君と彼を優しい眼差しで見つめる中山さんは幼稚園児と保母さんみたいで微笑ましい。微笑ましいがコイツらホントに大丈夫か? という気もしてくる。


 だがマモル君とジーナちゃんの議論は結局は結論が付かず、2人の口数が少なくなった頃に私はふと思いついた事を切り出した。


「そういえばさっきβテストの時の話が出たじゃない? その時の話で構わないのだけど、このゲームの運営ってバグか何かでユーザーに不利益が出た場合って補償してくれるのかしら?」

「はい! はっきりと損失の額が分かる場合はクレジットの補填があったハズです」

「その他、そのミッションを受ける以前の情報にロールバックした事例もありますね」


 となれば話は早い。

 サブリナちゃんと一緒に受けたミッションで異常とも言える報酬の額に不具合を疑い、後で回収される事を恐れてライフルを買うのを1日待ったのとは逆に、不具合で損失を被った場合は運営に補填を要求すればいいわけだ。


「だったら受けてみましょうよ。バグか運営チームのミスかは知らないけれど、どんなものが出てくるか楽しみじゃない?」

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