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9 奇襲部隊を奇襲せよ!

「そ、そんな事はいいからさ! そろそろ攻撃の準備に……」

「そ、それもそうね」


 強引に話を切り上げたサブリナちゃんは左手に持った小さい方のライフルを崖下の平原をこちらに向かってくる目標部隊へと向けて照準器を作動させた。


 同時にレーザー通信によって私のニムロッドへと雷電のライフルから得られた情報が送られてきてサブディスプレーへと表示される。


「感度良好ッ!」

「向こうの大概の連中が装備しているのはこれと同型のライフルだ。つまり……」

「こっちが撃てる相手は、向こうもこっちを撃てるって事ね!?」

「そういう事!」


 HuMoの通信方法には様々なものがあり、様々な波長の電波や赤外線を用いたものもあれば微弱なレーザー光線を利用したものもあるのだ。


 直進するレーザーの特性上、レーザー通信は傍受され難いが、大気の状況や双方の距離による影響を受け易い。


 サブリナちゃんがライフルの照準データをレーザー通信を用いて送ってきたのは、秘匿性を重視しての事だろう。


 ライフルのデータは光学照準器で得られたデータをデジタル補正されたものであり、電波やレーザーを用いた測距を行ったものではない。

 だがそのデータを私へ電波通信で送り、それを傍受されてしまえば向こうにライフルで照準を付けているという事がバレてしまう。


 サブリナちゃんの機体も目標部隊と同じ雷電であるので、雷電で作れる暗号は時間さえかければ敵の雷電でも解読できるという事を危惧したのだろう。


 すでに私たちが丘の上にいるという事は敵部隊からはバレている。

 先ほどから何度もレーダーの照射を受けた事を知らせるパッシブセンサーが幾度も反応を示しているし、アイカメラから得られるメインディスプレーの映像を拡大表示させるとこちらに頭部を向けている機体や私たちがいる丘へと指をさしている機体もいるくらいなのだ。


 向こうがこちらに攻撃をしかけてこないのは単に彼らがいる場所が中立都市サンセットの管理領域であり、私たち個人傭兵(ジャッカル)が中立都市の防衛を担う存在であるという事が周知の事実であるという事による。


 しかもこちらがただの2機しかいないのに対し、向こうはマモル君曰く「旅団規模」の大軍。

 向こうとしてはこちらの反応を見てから行動を起こしてもいいと思っているのだろう。


「ホント、馬鹿みたいですよね……」

「うん? どゆこと?」

「そりゃ向こうは大軍、こちらが攻撃してくるのなら対処すればいいというぐらいにしか思っちゃいないんだろうさ。確かに部隊全体としてはそうなんだろ? でも、最初に攻撃されるのが自分ではないとどうしてそう思えるのかって話でしょ?」


 マモル君の言葉の意味を説明してくれながらサブリナちゃんは雷電を片膝を付いた状態にさせる。

 左手の小さい方のライフルを腰のマウントラッチに取り付け、右手に持っていた大型のライフルを両手で構える。


 サブリナちゃんが今回のミッションに持ち込んでいたのは2種類のライフル。


 小さい方は……、小さい方と言ってもそれはニムロッドに比べて一回り小型の雷電にとっては標準的なアサルトライフルなのだが、もう1種のライフルが大型のために小型に見えてしまうのだ。


 いわゆるバトルライフルというものなのだろうか?


 このゲームではいわゆる「芋対策」とかいわれるものでスナイパーライフルは実装されていないらしいのだけれど、膝立ちになった雷電が大型のライフルを構える様は狙撃手を彷彿とさせる。


 だが、そんなことに感心しているとサブリナちゃんの機体とデータリンクさせているサブディスプレーの情報表示が一気に増えて私は思わず声を上げてしまった。


「敵機の数は216!? ていうか、なんでいきなり走査範囲が増えたの!?」

「あの雷電のライフルに搭載されている照準器がニムロッドに搭載されているセンサーよりも遥かに優れている物だって事でしょう。ポイント使って強化でもしてるんでしょうかね?」

「だからって……」

「もしかしたらあのライフル、元々は雷電用の物ではないのかもしれませんよ? マーカスとかいうプレイヤーの機体から拝借してきたんじゃありませんか?」

「ああ、だからか……」


 サブリナちゃんの機体にはいたる所に予備弾倉が取り付けられているのだけど、よくよく見てみると大きさの異なる2種類の弾倉が混在しているのだ。


 私がこのゲームを始めた当初に使っていた75mmアサルトライフルと、その次に購入して売り払ってしまっていたアサルトカービンは弾倉を共用できていた。

 それでもその性能はアサルトカービンの方が目に見えて高いのだけど、弾倉を共用できないほどとなると隔絶した性能を持つという事なのかもしれない。


「……ま、ご名答ってとこかな? ただ、雷電じゃこのライフルの反動を制御するのはしんどい、ってか連射したら弾がどこに飛んでくか分かったもんじゃないから、単発ずつ撃っていくしかないんだけどさ」

「なるほどねぇ……」


 その照準器だけでも驚異的な性能を発揮して私のド肝を抜いてくれたというのに、そのライフルについて語るサブリナちゃんの声は重苦しいものだった。まるで苦虫を噛み潰しているかのようで彼女のしかめっ面が容易に想像できるほどだ。


「それより攻撃を開始するよ! 準備は良い!?」

「了解ッ!!」


 私も気を引き締めて湿った両手をツナギ服の腿のあたりにこすり付けて手汗をぬぐうものの、今のところ私にできる事は何もない。

 せいぜいニムロッドが手にする120mm拳銃に装填されている弾の種類を確認するくらい。


 なにせ私のニムロッドはまともな射撃兵装を持っていないのだ。

 できる事といえば撤退を開始した時にサブリナちゃんの機体を守る事ぐらいか。

 たとえ驚異的な性能を持つライフルを手にしていようが、彼女が乗る機体は所詮はランク1の雷電なのだ。


 少なくともHP4,800というのは雷電の初期値であり、HPに限れば強化を受けていないのが分かる。

 いざという時はHP8,800のニムロッドを盾にしなければならない時もあるだろう。


 最悪でもサブリナちゃんだけでも生還させる事ができればミッションは失敗扱いにはならないハズ。


 覚悟を胸にただ唾を飲み込むとサブリナちゃんのライフルが火を吹いた。

 射撃の反動で大きく後ろへのけ反った雷電の姿勢が戻ったかと思うとさらにもう1射。


≪小隊メンバーが雷電を撃破しました!≫


「……は? たった2発で!?」


 私たちがいる丘のすぐ前まで近づいていた目標部隊の先頭機を狙った第1射で脚部を撃ち抜かれた敵は無様に転倒し、続く2射目で胴体を撃ち抜かれて爆発を起こしていた。


「ほら! 驚いてないで反撃を警戒して!!」

「りょ、了解!」


 続く3射目の直撃を受けた敵機は胴体が爆発して残る下半身はそのまま何歩か進んでやがてバランスを失って大地へと倒れた。


 つまりサブリナちゃんが使うライフルは1発で雷電のHP4,800を全て奪ってしまえる単発火力を有しているか、HuMoで装甲が厚いとされるコックピットかジェネレーターを抜いてクリティカル判定を出せる貫通力を持っているという事になる。


 一体、このライフルの本来の持ち主とはどれほどのものだというのだろう?


 あのマーカスというハンドルネームのプレイヤーに対して持っていた「冴えないおじさん」という評価を変えねばならないのかもしれない。


 3機目。

 4機目。

 5機目。

 さらにサブリナちゃんは撃破数を重ねていき、その頃になってやっと敵部隊は反応を見せていた。


 侵攻方向は変わらないものの、各個に減速と加速を繰り返してこちらの狙いを付け辛くするが、それでもサブリナちゃんの射撃は止まらない。


 高初速のライフル弾は乱数加速などどこ吹く風と言わんばかりに次々に敵機を撃ち抜いていき、致命的ではない脚部への被弾でも足が止まってしまえば続く射撃で確実に撃破されてしまうのだ。


「やっと反撃がきましたよ、迎撃してください!」

「任せてッ!!」


 やがて敵部隊の射撃が始まるものの、膝立ち状態でしかも丘に機体の下半身を隠して被弾面積を抑えたサブリナちゃんの雷電に走りながらの射撃がそうそう当たるものではなく、敵機の内の数機が装備しているミサイルが迫れば十分に引き付けてから私のニムロッドの拳銃から発射された散弾が迎え撃って空中に大輪の花を咲かせていく。


「機体も作業用の物を改修した急造品なら、パイロットも三流ってとこなんでしょうかね?」

「確かに判断が遅いわね」


 恐らくは対HuMo用の物ではないと思われる大口径迫撃砲弾が白煙の尾を引きながら大きな弧を描いてゆっくり迫ってくるのを起動した25mmCIWSに迎撃させながら私とマモル君は暢気に話をする余裕があるほどだった。


≪小隊メンバーが雷電を撃破しました!≫


「じゃ、そろそろバックレるよ」

「オッケ~!!」


 反撃を行いながらも前進する事を止めない大軍から中隊規模の敵が分かれて私たちがいる丘へと進路を変えた頃、サブリナちゃんが射撃の手を止めて私たちへ撤退を促す。


 その声色は私たちと同様にのんびりとしたものでった。

捕捉説明というか、本編中の登場人物は気にしない事だろうけど、ホワイトナイト・ノーブルの57mmアサルトライフルはウライコフ規格の76.2mm砲弾用の薬莢にトヨトミの57mm砲弾と取り付けて、しかも砲弾の材質はサムソン規格の物という設定。


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雑種犬@tQ43wfVzebXAB

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