表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
第6章 末世の荒野に唄えよ救世主
426/429

20 片鱗

 ミロクの改造によって軽量化を果たしたワイルドキャットの真価をミミはこの時になって初めて理解したといってもいい。


 スラスターを全開に吹かしながら機体の脚力で大地を駆けると、コックピット内の壁面に映る周囲の映像は流れるように動いていき、肉体に耐えられる程度のGの負荷がかかる。


 前方の窪地から上半身だけを出した敵機がこちらにライフルを向けているが、そんな事など構わずにミミはトリガーを引く。


 連続した振動とともに砲口からは火球と化した砲弾が飛んでいき、大部分は大地を抉るも、数発は狙い通りに敵機へ命中。


「へへっ! 弾が当たるって良いもんだなぁ~!」


 機体の機動力自体は先ほどからは変わっていない。いや、むしろ装備している銃の重量が増した分、僅かだが加速は鈍くなっているはず。


 だが慣れた75mmアサルトカービンに持ち替えた分、ミミには心の余裕が生まれていた。


 そうなればミロク発案の鳥籠装甲(スラット・アーマー)で被弾しにくい箇所の増加装甲を軽量化させた恩恵を感じられるというわけだ。


 相変わらず動き回りながらの射撃で命中精度は酷いものだが、単発火力以外の全てが酷い105mm低圧砲で四苦八苦した後では、そんな事など微塵も気にならない。


 むしろ命中せずに至近弾となった砲弾が盛大に土砂を巻き上げて、それが敵機のパイロットにプレッシャーを与えたのか、こちらにライフルを向けていた敵機は身を屈めて窪地に隠れてしまっていた。


「おいおい!? そいつぁ、悪手だろ!?」

「ミミさん、行っくよぉ~!!」

「あいよ!!」


 接近してくるワイルドキャットに対し、敵は身を隠していたが、それで何とかなるのは他の敵機が有効な手を打てる場合だけなのである。


 まだ敵機は数こそいるものの、ミミの相手ができる者などいない。


 通信で可愛らしい声が聞こえてきた数秒後、敵機が隠れている窪地へ2発のミサイルが降り注いだ。


 これには溜まらず敵機は身を潜めていた窪地から飛び出し、それを予期していたミミに連射を浴びせられる。


「サンキュ!」

「どういたしまして~!」

「そっちの後ろに回ろうとしてるのが2機ばかりいる。こいつらは私に任せろ!」

「は~い!」


 不思議な感覚であった。

 いくら上位の機体に乗っているからといって、まだ子供であるヨーコにばかりスコアを取られてたまるかよ。という対抗心であったはずがいつの間にか連携の真似事のような形となっている。


「焦っても良い事なんかないってことかね?」


 ミミは苦笑しながらヨーコの陽炎の背後を突こうとしている2機の元へ自機を向かわせる。


 敵機は街道沿いの丘陵でミミとヨーコから身を隠してケツを取ろうという腹積もりなのだろうが、そこをミロクのマートレットに捕捉されてしまっていたのである。


「ったく、良い位置にいてくれるぜッ!?」

「あら? 今、気付いたの? ミロク君、ずっと撃たれないようしながら偵察情報を回してくれていたのよ」

「……マジかよ」

「そうでもなきゃ、どっかの誰かさんが当たんない鉄砲に頭を茹でダコみたいにしてたのに、ヨーコちゃんが適切に敵機の元へ向かえるっていうのよ?」


 キディから言われてみれば、なるほどそのとおりである。


 てっきりヨーコの陽炎はランクが高いだけにレーダーやらセンサー類の走査範囲が広いのかと思っていたが、今、敵機がそうしているように遮蔽物に隠れられてしまえばレーダーでは捕らえられない。


 なのにヨーコは広大な担当エリア内をあっちに行ったりこっちに来たりと動き回って敵を潰し回っていた。

 ミミが1人で苦戦していたのにだ。


 となればミロクはただミミの後方で突っ立っていたというわけではなく、ミミやヨーコの現在位置とマップを照らし合わせて死角となる場所を見れるような高台なんかに行って偵察をしてくれていたという事になる。


「それで敵を撃ってくれりゃあ、万々歳なんだけどな」

「ミミちゃんね。お坊さんが敵を撃つわけないじゃない? カルトのイカれた教義に頭を焼かれてるんならともかく」

「分からんぜ? アイツはミリオタなんだ。ミリオタがHuMoみたいな自分1人で動かせる機動兵器に乗ってて、武器もあって、それでいてお堅い軍規に縛られていなければ撃ってみたくなる事だってあるだろうよ!」


 ミミに打算がなかったわけではない。

 確かに自分の所に身を寄せているNPCがHuMoに乗って戦ってくれるなら多いに助かるだろう。ミロクの偵察能力を考えれば、それなりに目端の利く人物だという事も分かるし、そのようなパイロットならば能力のムラこそあるかもしれないが充分に戦力になる。


 危険が無いわけでもないが、確か課金アイテムにNPCの死亡を無かった事にできる物もあったはず。


 だが、それ以上にミミの頭の中にあったのは先ほど襲ってきた虚無僧スタイルの僧兵たちの事である。


 次に僧兵たちがいつ襲って来るかも分からない現状、ミロク自信に戦う手段があった方が良いのではないかと考えるのは、ミミの半生を考えればむしろ必然であった。


「いやぁ……。『HuMoに乗ってみたい』とかと、『敵と戦いたい』とは大きな乖離があるんじゃない?」

「まっ、その話は後だ。そろそろ接敵するぞ!」


 タイミングはドンピシャ。

 ミミがキディとの会話を切り上げたその直後、ミロク機からのデータLINKでもたらされた情報通りに小高い丘から2機の敵機が勢いよく飛び出して来る。


 敵機と向かい合う形となったミミ、その1.5kmほど後方にはヨーコの陽炎が小隊規模の敵と戦闘中。


 ヨーコ機はミミを信用してかこちらに背面を晒している。

 陽炎という大型HuMoの装甲特性などミミは知らないが、常識的に考えたら戦車でも背面は装甲が薄いのだ。


 複数の敵機の火線を浴びてなおその動きに微塵も衰えも見せずに火力を発揮する陽炎も背面を撃たれたらどうなるかは分からない。


 これはミミにとって、ヨーコが「低ランクの機体の2機くらい余裕でしょぉ~!?」と言外に言っているように思われて、彼女の闘魂に火を点けた。


「ふん! やってやろうじゃんかよッ!!」


 2機の敵機は目の前に現れたワイルドキャットに一瞬だけ面食らった様子であったが、ミミがトリガーを引き始めた時にはもう動揺は失せ、左右に分かれてミミ機を挟み討ちにする動きを見せる。


 ミミは機体を全速で前進させて挟撃を躱す動きを取るものの、敵機も食らいついてくる。


 ミミと2機の敵機、互いはスラローム走行のように機体を左右に振っての回避行動を取りながらの射撃戦となる。


 互いにまだ命中弾はないが、1対2という状況、普通に考えたら敵の方が有利。


 ならば、まずは1機に攻撃を集中させて1対1(タイマン)に持ち込むのが定石と思われるが、敵だってそれは理解しているはず……。


「ったく、思考が人間並みのAIってのも面倒なもんだよなぁ~!!」


 やっと1機の敵機に命中弾が出たかと思えば、もう1機がカバーに入って、その敵機は格闘戦を挑んでくるかのように肉薄してくる。


 幸い、それはブラフであったようだが、まんまと敵に乗せられて後退していたミミは被弾して速度を落としていた敵機と距離を空けられてしまう。


 振り出しに戻ったか? いや、1機の動きが遅くなったのは事実、なら天秤はこちらに振れたか?


 しかし敵の数が減ったわけではない。自分に向けられた砲門が減ったわけではないのだ。

 まだ油断はできない。


 そうミミが考えていた時であった。


 まるで「ひゅるひゅる……」とでも擬音が聞こえてきそうな低弾速の山なりの砲弾が飛んできて、ミミに対して回避行動を取っていた敵機へと直撃したのだ。


 まるで砲弾に誘導装置が搭載されていたかのような、敵機が自分から砲弾に向かっていったかのような。


 あらぬ方向からの砲弾の直撃を受けて、敵機はそのまま大地に倒れ、そこにミミが半ば反射的に連射を叩き込む。


 その直後に通信で耳をつんざくような悲鳴のような叫びが聞こえてきた。


「うわああああああああぁぁぁッッッ!!!? あ、当たるじゃないですか!? 普通にこの銃、当たるじゃないですか!? ミミさん、さっきはしっかり狙ってなかったんですか!?」


 通信の向こう側で発狂したように声を張り上げているのはミロク。


「はあ? オメー、そのクソ銃で当てたのか? 距離2,000はあんだろ?」

「ど、ど、どうせ当たんないだろうし、援護にでもなればと思って、当てるつもりなんて!?」


 残る敵機は先に被弾して動きの遅くなった方。

 ミミは一気に勝負を決めるべく、フットペダルを踏み込みながら呆れたような顔をしていた。


「お坊さんは撃たないだっけ? キディさん?」

「……ミロク君も当てるつもりはなかったって」

「それで納得してもらえるかインタビューしてみるかい? ああ、もうできねぇか!」


 ミロクが敵機に当てるつもりはなかったというのは嘘ではないだろう。

 もしかしたらミミと自分で敵機を挟み討ちの形にしているという事を知らせるための威嚇射撃で、敵機に逃走を促したつもりなのかもしれない。


 2対2でも、挟み撃ちの形ならば無事にこの場を脱する事はできないだろう、と。


 不利な形で2対2の状況を切り抜けて、それから陽炎を撃破して味方を助け出せるんですか? もう逃げた方が良いんじゃないですか? と。


 それにしても、だ。


 2km以上も距離のある中で、あの酷い精度、遅い弾速、山なりの弾道の105mm低圧砲を敵機に直撃させるとは、さすがのミミも舌を巻かざるをえない。


 そりゃあくまで本人は威嚇射撃のつもりだから、威嚇に説得力を持たせるためにどうせ当たらないのだろうがと狙いはしっかりとつけても肩の力が抜けた状態というのはあったかもしれない。


 それでも、その程度の事であの105mm砲を直撃させるとは、ミミには俄かには信じられない事であった。

 ミロクを意識してではないとはいえ、回避行動を取って、右へ左へ機体を振っていた敵機に、だ。


 もしかして、ミロクには自分には分からなかった敵機の回避の癖とでもいうべきものが見えていたのか?


 そんな事を考えながら残る敵機を撃破し終えた頃、ヨーコの方も敵機を撃破して、それでミッションクリア―の報が入ってくる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ