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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
第6章 末世の荒野に唄えよ救世主
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19 経験値泥棒

「ああああああああッッッ!!!! クソがよぉぉぉぉぉッ!!!!」


 荒れ狂う野獣の如き咆哮。

 目の前の餌を奪われた獣のような叫びがワイルドキャットのコックピット内に響きわたる。


「ああん、もう! そんな怒鳴らなくたって! それにミミちゃん、素を出すにしても流石に言葉遣いが汚すぎて視聴者の皆が引いちゃうわよ!?」


 ミミの相棒であるユーザー補助AI、キディが両手で人間の耳とネコ耳の両方を押さえながら不平の声を上げるも、熱くなったミミは動画配信中であるにも関わらずせわしなく体を揺らしながら操縦桿を意味もなくガチャガチャと動かしていた。


「うっわぁ……。ミミさんって、いつもこうなんですか?」

「いや~。いつも熱くなっちゃうタイプなんだけど、さすがに今日ほどの事は初めてじゃないかしら?」


 通信越しに聞こえてミロクの声はいつも通りに丁寧な口調ではあったものの、その言葉の端からドン引きしている様子。


 今回、ミロクはミミのワイルドキャットには同乗していない。

 そもそもが一般的なHuMoは2人乗りなのだ。ミミの後席にキディが座っている都合、空いている席などないのだからしょうがないだろう。


 ミロクを拉致してきた際はその時点で目的が教団コミュニティ圏内からの逃走一択となったために、キディと気絶しているミロクを無理くりに後席に押し込めてきたものの、機動戦闘が予想される状況では取れる選択肢ではない。


 それに今回、ミミたちが受注したミッションは「街道警備」。

 一定のエリア内の敵性集団の排除が主任務となる定番のミッションであるが、ヨーコというNPCの参戦に合わせて担当範囲が広い「難易度☆☆☆」のもの。


 もっともミミとしてはヨーコはおろか、余っているランク1機体「マートレット」に乗せて連れてきたミロクすら戦力としては考えていなかった。

 精々、3機もいれば広大な担当エリアでもレーダー網の穴が小さくなるだろうというぐらいの考えだったのだ。

 ヨーコやミロクの機体が敵を探知したならば、ミミのワイルドキャットが駆けつけていって戦うという想定である。


 ところがどうだ。

 ミッションが始まってから一番の役立たずはミミ自身であった。


「ああ、もう!! クソも当たんねぇじゃねぇか!?」


 それというのも今回、新たに導入した新武装がミミから言わせれば、とんだ地雷、ハズレ武器であったのだ。


 ミミは敵機をレティクルの中に入れてトリガーを引く。

 ミッションが始まってから幾度目とも知れぬ同じ作業であったが、その結果もまた同じ。


 105mmライフルから放たれた砲弾は以前に使っていたアサルトカービンとは目に見えて弾速が遅く、オマケに低速の砲弾が大気の壁に負けたかのように山なりの弾道となって走っていくのだ。


 これでは敵HuMoに避けてくれと言っているも同じである。


 さらに当たらない銃に熱くなってしまい、回避が疎かになって被弾。


「チィっっっ!!!!」


 敵のライフルの火線に追われながらミサイルの軌道に誘い込まれてしまったが故の被弾。


 ミミの口から洩れる舌打ちは、己が失策がためというよりは、自分がヨーコというゲストキャラのいる状況で、自分だけ役立たずなのではないかという不甲斐なさからであった。


『ワイルドキャットの動きは良くはなってんだけどね~www』

『ミロっきゅんの肝煎りの改造は上手くいったみたいだけど……』

『ミミちゃんの選んだ銃はクソも当たんないねぇ(´・ω・`)』


 視聴者たちのコメント欄に書き込んでいるように、今回のミッションではワイルドキャットの様相には変化があった。


 全体的なシルエットは変わらないものの、ミミが視聴者たちと作りあげたお手製の空間装甲の一部に変更が為されていたのだ。


 具体的には機体の末端部位など、被弾しても機体に致命的な損傷を及ぼさない箇所の増加装甲が、細い鋼管を組み合わせた柵のような形状の物と入れ替えられていたのだ。


 元より軽量タイプの増加装甲を張られていたものが、これにより、さらなる軽量化を果たしてワイルドキャットの加速力は目に見えて改善されていた。


 だが、これはミミの差配によるものではない。

 ミミがログアウトしている間、ミロクがプラモデル制作の合間に視聴者たちと相談しながら勝手にやったものである。


 そういう意味では、ミッションを開始してからただ1発の砲弾すら撃っておらず、それどころか前回までワイルドキャットが装備していたアサルトカービンを腰部ハードポイントに取り付けられたままと戦うそぶりすら見せないミロクは彼なりの貢献をしていたのだ。


『もっと武器を買う前にWIKIを読むなり吟味してくりゃよかったのに』

『あ! やっと当たったと思ったら弾かれたwww』

『惜しい非貫通!』

『敵の中華鍋ひっくり返したような頭部の淵に甘い角度で命中したみたいね』


「はぁ!? なんだよ、馬鹿にしやがってッ!!」

「いや~、ミミさん。その銃、いわゆる低圧砲ですよ?」


 やっとの事で出た命中弾が虚しくも弾かれ、ミミは顔を真っ赤にしてコックピットの中で地団駄を踏む。シートベルトでシートに縛られていなければそのまま暴れていたかもしれない。


 そこでおずおずとながらミロクがミミの新装備に対して説明を加えてくる。


「単発火力は高いですし、榴弾の爆発加害範囲も広いですけど、それ以外の性能は捨てたも同然みたいな?」


 ミミは知らずに購入したものであったが、この105mmライフル、ミロクが言うように低圧砲故に反動が軽いもの。

 そのために薬室も砲身も軽量に作られているし、低反動のため低ランクの機体でも片手撃ちの状態ですら射撃後のブレが小さい。


 だが、逆を言うならば砲身内でしっかりと加速しきれないために弾速は遅く、弾道は山なりとなる。


「だったら買う前に、いや、せめて出撃前に言ってくれよッ!?」

「いや~。ヨーコちゃんもいるし、そんな危険なミッションには行かないだろうなって、またどっかの村でも焼き討ちに行くのかなって」

「お前、まさか恨んでるのか!?」

「僕を殺しに来てくれって依頼を出したのに、到着してすぐに村を焼き始めたじゃないですか? 恨みは無いですけど、僕の考えの及ばないレベルの行動をする人たちなんだなぁとは……」


 ミミとしてはこれまで使っていたライフルよりも軽量で、パンチのある銃を求めたつもりではあったが、あくまでそれは対HuMo戦を考えての事である。


 だが、結果としては新装備のライフルはミミが考えていた事とはことごとくが裏目となっていた。


 そして。

 800メートルほど前方で反転し、ワイルドキャットの方へと向き直って銃を構えた敵機が光の奔流となって消えた。


「……またか」


 新装備が虚しくあらぬ方向へと飛んでいくのと同様に、これも幾度目かの事。


「西側の装甲車とヘリの部隊は一掃してきたよ~! あとはこっちの窪地に潜伏してるHuMo部隊だけぇ~」


 遠く西の方角から高く舞い上がる土煙が見える。

 通信用電波の発信源もそこから。

 陽炎を駆るヨーコの声は意気揚々。


 使いこなせぬ新武装に苦しむミミに、仏法僧だからと機体の手に銃を持たせようともしないミロクに変わり、ヨーコはほとんど1人で広大なエリアに現れる敵機を撃破していた。


 大型機なれどホバー推進の陽炎は広大なエリアを縦横無尽に駆け周り、大小のミサイルの雨を敵機に降らせ、例え敵に囲まれようとも4丁のライフルを撃ちまくって逆に殲滅。

 そして胸部大型ビーム砲の直撃を浴びて無事な者はいない。


 さらにいえば、それほどの大立ち回りを演じながらもヨーコの陽炎にはほとんど損害がない。


 増加装甲だとか空間装甲だとか、そんなチャチなものではない重装甲は低難易度のミッションに登場する敵機の攻撃のことごとくを阻んでみせていた。


 これにはミミも焦る。

 子守りぐらいの気持ちでヨーコを連れてきたはいいものの、これでは逆に幼女におんぶにだっこではないか。


「おい、ミロク! こっちに来い!」

「ええ? いや、教団を離れたとはいえ、さすがに僧侶の身でドンパチってのは……」

「そうじゃねぇよ! お前のマートレットに持たせてるカービンを寄こせっての!!」


 もうすでに敵戦力の大多数は殲滅している。

 だが、このままでは全ての敵機をヨーコに持っていかれてしまうと、ミミは戦意を新たにしてミッションの大詰めへと向かう。

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