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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
第6章 末世の荒野に唄えよ救世主
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14 獣三匹

 鳥肌が立つような甲高い鋭い旋律。

 地の底から響いてくるのではないかというほどの重低音のビート。

 背筋が寒くなるサイバネCOM-僧が一心不乱にがなり立てる読経。


 だが何よりもミロクとヨーコの肝を冷やさせたのは理性の(たが)を外したヒトの咆哮であった。


「っHYAAAAAAAAAAAAッッッ!!!!」


 闘いの高揚感がもたらす心拍数の増加により、ミミの全身を駆け巡る血流は一気に急増。


 少女の全身が僅かに膨れたかと思った直後、獣に等しい咆哮とともに両腕を振り下ろすとメイド服の両腕が爆ぜてノースリーブ状態となる。


 もし、このゲームに性的表現の規制が無かったならば、両腕といわず上衣全体が弾け飛んでいたのだろうと思わせるほどの見事なパンプアップであった。


「え……? 何? ミミちゃんも、もしかしてサイバネティック?」

「ただの足立区生まれ足立区育ちだよ!! それよりもキディ! ミロクとヨーコちゃん親子を頼む!!!!」

「あらあら? 私なら大丈夫ですよ!」


 いつの間にかヨーコの母親の両手にはそれぞれ、おおよそ主婦には似つかわしくない大振りのコンバットナイフが握られており、錫杖を持った僧兵に斬りかかっていた。


 わざと外したと思われる牽制で引き出した、振り下ろされた錫杖の一撃を交差させたナイフで受け止め、鍔迫り合いのような力の均衡を作ったヨーコの母親。


 だが敵が次の手を考える前に、体格差で力負けしてしまう前に、交差されたナイフは横方向にズラされて錫杖はコンクリートの床を打つ。

 コンクリと錫杖に取り付けられた装飾が甲高い音を立てた瞬間には僧兵の脇腹には深々と黒塗りの刃が突き刺さっていた。


 真正面から戦うようでいて、相手をその気にさせたら、一瞬でそれをひっくり返す。

 正々堂々とは言い難いが、ミミの好みの戦い方であった。


 ミミは紫電迸る錫杖で殴りかかってきた僧兵の懐に飛び込みつつ、強烈なボディーブローを叩き込みつつ口笛を吹く。


「ヒュ~~~!! カーチャン、どっかで悪役(ヒール)でもやってたんかい!?」

「飼われていてもハイエナは犬にはならないんですよ?」

「ハハ! そりゃ良いや!!」


 正直、ヨーコの母親が何を言っているのかサッパリだったが、そんな事などどうでも良くなるほどにミミは歓喜していた。


 好敵手(ライバル)を倒すために鍛え上げた拳。当の本人にはまったくもって受けてもらえずに歯噛みしていた自慢の拳が面白いように当たる。


 百獣の王のような闘志の籠った双眸に反して、ちょこまかと動き回って猛禽のように意識の外から痛撃を加えてくる宿敵にはまったく通じなかった拳が、自信を失いかけていた拳が面白いくらいに有効打を与えてくれるのだ。


 オマケに敵の数は少ないが、自分が1人また1人と僧兵を殴り飛ばす度に、歓喜に打ち震えて天まで届けと叫ぶたびにこれまた面白いくらいに動揺してくれる。

 次は自分かと身の危険があるのだから当然かもしれないが、僧兵たちの反応は彼女にとってスレた観客たちよりもよほど好ましいものであった。


 両親からの虐待を受けて育ったミミにとって、周囲から恐怖の目で見られている時こそ安心していられる瞬間なのだ。


 僧兵たちが恐怖を振り払うために読経する声も、彼女の見せ場を盛り上げるためのバックコーラスにしか過ぎない。


「へへっ!! なんで『汎銀河ナントカ』ってカルトの略称が『メタル=ブッディズム』なのかと思ったけどよ。ヘビーメタル? いやスラッシュメタルか? 坊主は大人しく木魚でも叩いてろっての!!」


 搔きならされる鋭い刃を連想させるベースを全身で浴びるようにミミが身を反らせる。


 そもそもミミは現実世界において、デスメタルを入場曲に使うほどのメタル音楽好きであった。


 もしかすると他のプレイヤーならば、僧兵たちの読経を支えるメタル音楽の不気味な旋律を恐れる者もいたのかもしれないが、彼女にとってはかえって意気揚々、アドレナリン垂れ流しで僧兵たちへ襲いかかっていく副動力だ。


 掴みかかった敵の手首を握力で粉砕すると、僧兵の手から独鈷杵が零れ落ち、好機と見たミミはニンマリと笑う。


 そのまま力づくで姿勢を変えさせてパワーボムで敵の後頭部をコンクリートに叩きつけると、深編笠風のヘルメットは砕けて周囲へ破片が散らばる。

 その中にコーンやマグネットコイルを見付けて思わず苦笑。


「あんだよ!? それがスピーカーになってんのかよ!! アホクサってか!?」


 深編笠風のヘルメットの所々に空いた穴は低音を強調するための物だろうか。

 丁度、バスレフ型のスピーカーと同様の構造を持っているわけだ。


 ミミは円柱状のヘルメットがスピーカーの役割を持たされている事を知って、養父母宅のリビングにあるAIアシスタント付きのスマート・スピーカーを想起して笑ってしまったのだ。


 そして、僧兵たちの不気味な旋律に、さらに暴力的な音を追加する者がいた。


「あ~~~!! もう!! 2人して好き勝手に暴れちゃってさ!!」


 ヒステリックに叫ぶキディが自分の意思を込めたかのようにトリガーを引くたびに彼女の拳銃はスピーカーから再生されるものではない、生の爆音を鳴らしてミミの戦いを盛り立てる。


 いつもは彼女の面倒くさげな性格を現したかのように垂れ気味の猫耳がピンと立ち、音もなく背後から接近する僧兵も獣の感覚で見逃さない。


 ミロクとヨーコの手を引いて僧兵たちから距離を取りつつ、ミミとヨーコの母が守り易いような位置へと2人を誘導するキディの射撃は充分な援護射撃であった。


 猫の遺伝子を組み込まれた遺伝子改造人間。

 亡き夫の忘れ形見でもある娘を守るために戦う母親。

 理性を無くしたかのように嵐のような暴力を振るう者。


 まさに3人は“人間”というよりも“ヒトという(ケモノ)”であった。


 彼女たちはたった3人で、20人近くいた僧兵たちを圧倒。

 そこに敵襲という異常事態に当初は動けずにいた整備員たちも手にスパナや鉄パイプやらを持って参戦。


 あっという間の残る僧兵たちも袋叩きにされて制圧完了の流れとなった。

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