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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
第6章 末世の荒野に唄えよ救世主
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12 玩具店の幼女

 ミロクからプラモデルを取ってもらった幼女は、目を宝石のように輝かせて自分の胴よりも大きいのではないかというほどの大きな箱を抱えていた。


 そのパッケージにでかでかと描かれている朱色のロボットは人型とは言い難いものの、やはりそれも「鉄騎戦線ジャッカル」のキットである。


「へぇ。ヒューマノイド・モービルウェポンでHuMoだから人型ばかりだと思ってたけど、こういうのもあるんだな」

「ああ、ミミさん。これはトヨトミの重駆逐HuMo『陽炎』のキットですよ。ていうか、これなんかまだ人型って言っていいくらいのものですけどね」

「そうなんか?」

「ええ」


 そう言ってミロクが棚から幾つか抜き出して見せてきたキットのパッケージを見ると、そこには虫の胴体に人間の上半身を接続したような形状の機体やら、あるいはSF風味な味付けがされているだけの戦闘機にしか見えないキットのもの。


 それらに比べたら確かに「陽炎」は腕が4本もある以外は派手でスカート部の裾が随分と広がったドレスを着た人型と見る事もできるだろう。


「脚が何本もあるのがウライコフ系の砲撃戦タイプの機体で……」

「戦闘機型のが飛燕だにぇ~!」

「お! よく知ってますね!」

「うん? それよりもよ……」


 そのままほっとけば2人で長々と話し込みそうな雰囲気のミロクと幼女。

 だがミミも彼らの気持ちが分からないではない。


 これまでの人生、ロボット物にはあまり触れてこなかったが、それでもミミもミリタリーオタクなのである。

 あまり人口の多くない趣味だけあって、同好の士に出会った時の喜びというのはひとしおなのであろうと想像がつく。


 そもそもロボット兵器でドンパチやりあってる世界観の人物たちだけあって、ミロクたちにとってはHuMoこそがミミにとってのAFVや軍用機なのである。


 そう思えば、商品棚にずらりと並んでいるキットの中には成形色と付属品を変えただけのものも多いが、「○○戦線仕様」だの「○○連隊配備機」だのといったそういうものもハッキリいってミミの大好物であった。


 さらにはキットには商品名や「1/144」だの「1/100」だのといったスケール表記の他にも開発元やら「試作型」「量産型」「格闘戦型」「砲撃戦型」「汎用」「特殊任務仕様」など様々な注釈が小さな文字で書きこまれている。


 では幼女が抱える「陽炎」とはどのような機種なのだろうとミミはパッケージを覗き込むが、そこで気付く。


「え? この『陽炎』っての、このサイズの箱で1/144スケールなのかい?」

「そうですよ。実物は全高25メートルほどですが、全長も全幅もそれなりに大きいですからね」

「オマケに搭載できる兵装の数も多いしにぇ~!」


 ミミは箱のサイズから1/60スケールだと思っていたのだが、意外にも幼女が抱える「陽炎」のキットは1/144スケール。


 スラスターを用いて空を飛べるとはいえ、あくまでそれは限定的なもの。

「飛燕」のような例外を除いてHuMoという兵器は陸戦兵器であるというイメージを持っていたミミにとって、それはあまりに意外なものであった。


 故にミロクから「重駆逐HuMo」という単語を聞いていたのに、勝手に「陽炎」のサイズ感を一般的なHuMoを大戦中の中戦車だとするならば重戦車くらいだろうと想像していたのだが、それはあまりに的外れなものであった。


 よくよく考えてみれば大戦中の重戦車はあくまで量産できるエンジンや足回りの性能や、輸送網の制約によってそのサイズに制限されていたものである。

 そんな制限の無いフィクション世界、SF世界においては想像力の赴くままにサイズが肥大化するのは致し方ないのかもしれない。


「そういうもんかねぇ……」

「あ、それよりもお兄さん。迷惑ついでにアレも取ってぇ~」

「『アキリーズ』ですか、こっちも大型のキットですね。作るの大変じゃないですか?」

「2体も作るんなら大変なんだろうけど、ミキシングしたいんだよにぇ~!」


 感慨に浸るミミに対し、2人はこともなげな様子で、幼女はミロクにさらに棚の上に並べられている大箱を取ってくれるよう頼んでいた。


 すでに両腕を広げるようにしていたのに、「陽炎」のキットの上に新たに「アキリーズ」のキットを乗せると、それで幼女の視界は完全に箱で塞がれてしまう。


 それを見てミロクは苦笑して幼女の腕から大箱2つを取ると「お付き合いしますよ」と恩着せしない表情で笑いかける。


「ありがと~!」

「ええと、貴女は誰かと一緒にお買い物に来ているのですか?」

「ううん! ヨーコは1人~!」

「それじゃ、こんな大きな荷物を持って外を歩くのは危ないですから家まで送りましょう。いいですよね、ミミさん?」

「ま、乗りかかった船ってヤツだな」


 今度はミミの方が苦笑する番であった。

 そもそもミロクという人間は他者を助けるために火に飛び込んで死ぬような人物なのである。

 お節介だのお人好しだの言うのは簡単だろうが、造られた聖人だの人工弥勒如来だのというよりはよほど良い。そして、彼のそういうところがミミは嫌いではなかった。


 すでに周囲に並ぶ模型から興味を無くしてその辺を所在なさげにしていたキディを呼び寄せ、一行は会計を済ませてからヨーコを送る事にする。


「ところで、ええと、ヨーコさん。貴女のお家は近いのですか?」

「うん! 傭兵団地のマーカスさんとこ!」


 店を出てエアタクシーを待つ間、ミロクが幼女に尋ねると防犯意識の欠片もないのか、すんなりと答えてくれた。


 これが大人が相手ならば、いくら大きな荷物があったとしても相手の家まで付いていく事はなかったであろう。

 だがヨーコと名乗る幼女はミミの感覚では未就学児にしか見えないような小さな子供である。


 中立都市は例えば彼らのいる商業区などは華やかな明るいイメージの都市だが、一歩、裏路地へと入ればスラム街があるような二面性を持つ。


 一般的な日本人の感性からすれば、ヨーコのような年頃の子供を1人で歩かせるのはどうかと思ってしまうような街なのだ。


 これではミロクをお節介だのいってられないなとは思うものの、ミミとてヨーコを家まで送る事にやぶさかではない。


 だがヨーコの家を聞いて驚いた。

 彼女は傭兵団地に住んでいるというのだ。

 その口ぶりから「マーカス」という傭兵は親ではないようだが、ヨーコがどのような事情でその者の所にいるのかは分からない。


 マーカスという傭兵がプレイヤーなのか傭兵NPCなのかは分からない。

 ミミが言葉もなくキディの方を向くと、彼女にも真相は分かりかねている様子。


「少なくともユーザー補助AIとその関係者にはこの子みたいなのはいないけど……」

「なんか複雑な事情のありそうなNPC。こりゃ撮れ高の予感だな!」

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