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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
第6章 末世の荒野に唄えよ救世主
410/429

4 1対2

 下半身だけとなったオライオンがゆっくりと倒れていく。


 それは何よりも雄弁な宣戦布告となった。


「ち、血迷ったのですか!? ミミさん!!」

「理由があるのならば聞かせてもらおうか!?」


 僚機を撃墜した事で既にミミと残る2名との小隊は解除され、レーダーマップでは敵対関係を示す赤の光点で表示されている。


 かつて日本のネット黎明期においては「1発だけなら誤射かもしれない」というジョークが流行した事があるが、味方機に何発も連射を浴びせて、しかも、それが弱点となる箇所を狙ったもので完全に撃破してしまっては誤射だとか冗談だとか、そんな言葉では済ませられないのだ。


 少年も青年もただちにミミの裏切りという事態を正確に把握して各々の武装をミミの機体へと向けるが、対HuMo戦用の装備を疎かにしてきたツケが回ってきて命中弾は得られない。


 ケシ畑にグレネード弾やロケット弾が着弾して爆発とともに土砂を巻き上げるが、既にそこにミミの姿はない。


 弾速の遅い武装の代わりとばかりに2人は非難の言葉を浴びせてくるが、ミミの返答は75mm砲弾である。


「……うるせぇよ」


 ミミにも共に同じミッションに参加したプレイヤーを裏切る罪悪感が全くなかったわけではない。


 胸を突く言葉が煩わしいとばかりにミミは通信を完全にOFFの状態にして怒気をはらんだ呟きを零す。


「あ~あ、どうすんの、これ?」

「知った事かッ!!」


 後ろから飛んでくる相棒の溜め息混じりの言葉に怒声で返し、敵となった同業者に向けてトリガーを引く。


 そもそもミミにだって明確な理由があっての事ではない。


 生活の場を焼かれ、虐殺される人々を見て3人組が許せないと思ったのは確かだが、それは正義だとか、あるいは義侠心だとか呼べるものなのかどうか、当のミミ自身にだって分かっていないのだ。


 キディに対して叫んだ言葉は何も戦闘の最中に気が散る事を言う相棒に対して黙っていろというわけでもなく、そっくりそのままミミの現在の心境であった。


『おっしゃ! やったれ!!』

『で、勝ち目はあるんです?』

『向こうはランク4が2機』

『対してミミちゃんのワイルドキャットはランク3とはいえ、実質2.5の格下機体』


「はん! そんなんいつも通りにやるだけだッ!!!!」


 ミミの戦闘スタイルとはとにかく動きまくって、撃ちまくるだけ。


 後先考えずにスラスターを全開に吹かしてアーチャーとオライオン・キャノンの周囲を回り続けるように駆け続けて、75mmアサルト・カービンを撃ちまくる。


 敵はグレネード・ガンやロケット・バズーカだけでは命中弾は期待できないと判断して、非効率なのを分かった上で対人用の機銃すら向けてきていたが、いくら低ランクのワイルドキャットといえど12.7mmの機銃弾で装甲を抜かれるほどの紙装甲ではない。

 ただただ曳光弾が派手に見えるだけで、あとは心理的なプレッシャーと、脆弱なセンサー部にラッキーショットがあるかどうかというぐらいでしかない。


 対するミミの方もライフルの命中精度はさして高くはなかった。


 そもそもワイルドキャットは低ランクの機体。駆け回りながらの射撃はどうしても精度が落ちる。


 本来ならば加速を緩めて、機体の振動を抑えながら行うのが低ランクの機体での射撃戦のセオリー。


 なのにミミは全速で機体を駆けさせながら撃ちまくるのだから命中精度など二の次、三の次。

 だというのにミミの乗機が装備していたのは通常のアサルト・ライフルよりも軽量小型のアサルト・カービンなのだから精度の低下は輪をかけて酷い。


 ミミは片手でも振り回し易いようにとアサルト・カービンを選択していたのだが、軽量という利点はそのまま発砲の際の銃口の跳ね上がりが大きいというデメリットともなっていたのだ。


 そのせいでこれまでのミッションでは報酬に比べて弾薬の消費が大きく、見栄えこそするものの収支は酷いものであった。


 だが、今回の戦いばかりはそれが幸いした。


 初手でランク3ではあるがバランスタイプのオライオンは撃破してある。

 中年男の駆るオライオンを真っ先に撃破したのは、バランスタイプの機体の総合性能を危惧したのと、かの機体が装備していた低威力だが連射の効くガトリング砲を警戒しての事ではあるが、ともかく残るはアーチャーとオライオン・キャノンの2機。


 アーチャーは細身で軽装甲の機体で、中長距離戦での火器管制装置(FCS)性能に優れた機体。

 アウトレンジでの撃ち合いを制すれば、装甲などいらないだろうという発想。装甲で機体を重くするくらいならば有利ポジとなる射撃地点へ一刻も早く着けるようにと、あるいは素早い射撃地点変更ができるようにというコンセプトの機体である。


 オライオン・キャノンも同じく射撃戦の性能を重視した機体だが、アーチャーとは逆に固定式の大口径砲の反動に耐えるため機体全体にカウンター・ウェイトを盛りに盛った重厚な機体。

 WIKIで見た記憶だと、カウンター・ウェイトは装甲の代わりにもなるらしく、なるほど確かに機体正面から撃ち込まれたミミの75mm砲弾は弾かれてしまっていたが即背面ならば話は別だ。


 対人機銃はともかく、両機の大火力兵装はミミのワイルドキャットにとっては脅威的な火力であるのは間違いない。


「当たんねぇなら、どうってこたぁねぇッ!!!!」


 ミミは自分を鼓舞するように叫びながら操縦桿とフットペダルを操作する。


 2機の周囲を回り続けるように動き続けるミミを追うように撃ちまくるアーチャーとオライオン・キャノン。


 集落のあった盆地はまるで地獄絵図のような酷い有り様であったが、それでも先ほどまでのような人々を直接的に狙った射撃ではないのだから、避難のしようもあるだろう。


 そう自身に言い聞かせながらミミは乗機を駆けさせる。


 いくら命中精度が悪いとはいっても、それでも命中弾はあるのだ。

 既にアーチャーは黒煙を噴いていたし、オライオン・キャノンが手にしていたロケット・バズーカも破壊済み。


 それでも栽培している植物と、その精製プラントさえ気にしなければのどかな農村といえるような集落が流れ弾で破壊されていく様にミミの心は痛んだ。


「ッしゃあああああッあああ~~~!!!!」


 そうミミは自らを奮い立たせなければ戦えなかったのだ。


 機と見てミミは機体を跳びあがらせて山の斜面の棚田へと降り立つ。


 スラスターの噴炎に稲は焼かれ、泥水が飛び散るが、気にするのは後だと、ミミはレティクルをアーチャーに合わせた。


 ミミが跳んだ位置は3機を一直線上とするもの。

 奥のオライオン・キャノンはアーチャーが邪魔で肩に背負った砲を撃てず、アーチャーは旋回中。


 この瞬間。

 この瞬間だけはミミは敵の火線を気にせずに、足を止めて敵を撃てるのだ。


「くたばりやがれぇッ!!!!」


 いくら格上でHP(ヘルス)が多いとはいえ、これまでの戦闘で複数発の被弾を重ねたアーチャー。

 残りHPは少ないだろうと踏んだミミのアーチャーの背面を狙った連射は、敵の機動力によって側面へと吸われていったが、それでも結果は同じであった。


 動き回りながらとは比較にならない小さなレティクルの中に収められたアーチャーに次々と75mmの火球は命中していって、ついには爆散。


 その余韻を味わう間もなく、ミミは再び機体を加速させる。


『アーチャーの敗因はオライオン・キャノンと一緒にいた事で自機の機動力を捨てちゃった事だね(´・ω・`)』

『結果的に僚機の射線を塞いでやられるとかwwww』

『せやかて、いつ教団のHuMo部隊が駆けつけるか分かんない状態で僚機と離れられるか?』

『それな。』


「うっせぇ!! そんな事よりアタイのテクを褒めろや!!」


『こっわwww』

『(´;ω;`)』

『止めてください。泣いている子だっているんですよ?』


 1対1となった事でミミの中で余裕が生まれつつあった。


 機体を駆けさせながらライフルの弾倉交換をしつつ、コメント欄に対するリアクションを取る事も忘れない。


 残る敵機はオライオン・キャノン1機。

 オマケに手持ち武装であるバズーカは既に破壊してある。残るは装甲の塗料を剥がすくらいしか能のない機銃と大火力だが取り回しの悪い大口径砲のみ。


 ミミはひとまずの勝利を確信したのも無理はないだろう。


 スラスターを併用してのジャンプの中で、スラスターに強弱を付けて軌道を読まれ辛いようにしながら敵の側面を狙う。


 だが、ここにきてミミの経験の浅さが出た。


『あっ、アカン』


「あん……?」


 次の着地地点に定めた地点は敵機から見て右側面。

 ちょっと前に敵機の砲に穿たれて小さなクレーターができている場所であった。


 コメント欄に流れてきた危険を知らせる声に気付いたが、もう遅い。


 既に着地のために弱めたスラスターを今から全開に吹かしても、慣性の付いた大質量のHuMoは止められない。少なくとも低ランクのワイルドキャットでは。


 着地の寸前にクレーターの中心に爆発が発生した。

 しかも爆発とともに凄まじい火柱が生じて、ミミはHuMoの全高よりも高く舞い上がる火柱の中に自ら飛び込む事となってしまう。


『さっき、着弾したけど起爆しなかったのがあったんや……』

『先に言えやw』

『時限信管? だったらタイミングがドンピシャすぎるよな。遠隔操作の信管?』


 ミミにも視聴者たちにも把握しきれていなかったが、この手のゲームでいうところの“着地狩り”。


 ミミはすぐに火柱の中から機体を離脱させたが、それでも飛び散って機体表面に付着したゲル状の燃焼材は燃え続け、少しずつだがワイルドキャットのHPを削りはじめた。


 そこにいつの間にか旋回し終えたオライオン・キャノンが突っ込んでくる。


 だがオライオン・キャノンのパイロットには誤算があった。


「はっ!! こんなんでビビるとでも思ったかよ!?」


 オライオン・キャノンの大口径砲から放たれる特殊焼夷弾。

 本来ならば、その火柱の中に飛び込んで全身に燃え盛る燃焼材を浴びたのならばランク3の機体のHPなどあっという間に削られて、パイロットに及ぼす心理的な影響もけして軽視できないものであっただろう。


 そこに大質量のオライオン・キャノン本体で体当たりをしかけて押し倒し、倒れた所に砲を撃てばランク3の機体くらい簡単に仕留められていたハズだ。


 だが、ミミは冷静に乗機にビーム・ピックを取りださせ、迫る敵機を迎え撃つ。


 そこに動揺は見られない。

 当たり前だ。

 動揺するほどミミの機体はダメージを負っていない。


 ミミのワイルドキャットは全身を炎に焼かれながらも意外なほどにHPの喪失は少なかった。


 実の所、ワイルドキャットが全身に燃焼材を浴びたのは事実だが、そのほとんどはダメージ判定の無い増加装甲に付着していたのだ。


 ワイルドキャットの全身を覆い尽くすように取り付けられた増加装甲は軽量の物ながら、炎で溶けるほどの“紙”ではなかった。


 迫る敵機をミミは良く見て、タイミングを計る。


 ビーム・ピックを起動した今となっては出力不足でスラスターは使えない。

 つまり後戻りはできないという事。


 だがミミは僅かな足捌きだけで体当たりをいなして、敵機の側面から超高熱の光の刃を刺し込む。


 ジェネレーターか、それともコックピットだったか。

 ビーム・ピックの切っ先がどこに入っていったかは分からない。


 だがオライオン・キャノンからは力が抜けて、体当たりの勢いそのままに大地へと倒れていった。

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