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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
第6章 末世の荒野に唄えよ救世主
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3 花が咲いていた

「にゃにゃにゃにゃ……!?」


 警告灯が点灯し、警報音が鳴り始めてすぐに輸送機後方のハッチが開き始めて、暗かった貨物室内は外から入ってきた光によって明るさを増していく。


 ミミとキディの搭乗しているワイルドキャットは一瞬だけメインディスプレーが白飛びしたものの、すぐに光量が調整されて外部の光景を映し出す。


 その光景を見てミミが驚いたのも無理はない。

 すでに目の前には今回のミッションの舞台となるカルト教団とやらのコミュニティらしきものが視界一杯に広がっていたのだ。


 周囲を山々で覆われた小さな盆地には無数のあばら家や、そんな粗末な住居とは比較にならないほど進歩的な白い建造物。

 建造物同士を結ぶ非舗装の道路の他には様々な植物が並んでいる田畑。


 どこか牧歌的な雰囲気すらある光景ではあったが、それにしても輸送機が接近するにはあまりにも近すぎた。


 ミミのこれまでの経験から考えれば、侵攻作戦の場合は輸送機が撃ち落とされないようある程度は離れた地点でHuMoを降下させるハズ。


「なんだ、事前に配布された地図を見てないのか? 山の向こうには中立都市が管理している幹線道路があるから輸送機が接近してもおかしくはないし、むしろ

 手前でHuMoが降下したら向こうに警戒されるだろうよ」


 すでにHuMo固定用の器具はロックが解除され、中年男がミミに説明しながら自分は機体を降下させる。


 対空砲火はまだ無い。


「それじゃ、お先に……!」

「僕も」


 中年に続いて、青年と少年も降下。


「ほれ、ミミちゃんも降りないと。もしかして対空砲火が上がってる中を降下する方が映えるんじゃないかって?」

「そ、そんなんじゃないお!!」


 意を決してミミも自機を前進させて貨物室から飛びだたせる。


 充分に減速ができるほどにスラスターを吹かしながら降下しつつも配信画面を映している増設サブディスプレーを確認。


 配信画面の右下にはアクションカムで撮影されたコックピット内のミミの姿。右上にはコメント欄。

 それ意外はワイルドキャットの前方カメラからの映像という形。


「ミミちゃん! 脚部各関節を緩めて!!」

「おっと!!」


 キディから言われて慌ててミミはフットペダルの操作で脚部を歩行モードから着地モードへと変更。


 足首、膝、股関節の関節部やサスペンションを柔らかい状態にする事で着地の衝撃をいなす事ができる。

 これらの動作もこのゲームを開始する時に脳内にインプリンティングされているのだが、今のミミは未だ初心者の若葉マーク状態。


 少しモード変更が遅かったかとサブディスプレーを確認するが、幸いにも着地の際のダメージはない。


 ホッと胸を撫で下ろして再び脚部のモードを歩行/走行モードへと切り替えつつ周囲を見渡すと、敵機の姿は無いものの僚機は既に攻撃を開始していた。

 ミミも自機にライフルを構えさせるが、攻撃目標は何も無いように思われた。


「おいおい。ミミちゃん、榴弾は持ってきてないのかい?」

「も、持ってきてはいるけれど……」


 青年の言葉で反射的にミミはライフルの弾倉を変更。

 低ランクのライフルの火力の水増し用にとミミは対HuMo用の徹甲弾や徹甲榴弾、対空用の炸裂弾を装填した弾倉の他にも榴弾や焼夷榴弾ばかりを入れた弾倉を持ってきてはいた。


 だがミミの目に映るのは砲弾に撃ち抜かれて火を噴きながら容易く崩壊する土と草でできた家屋に、穿たれ砲弾の炸裂とともに周囲に土砂を撒き散らす田畑。

 そして黒煙と紅蓮の炎に追われ逃げ惑う人々であった。


 ミミとともにミッションに参加した3人は暗殺対象である教主とやらを探そうともせずに集落への破壊活動に勤しんでいたのだ。


「どうした? こんなん弾を外す方が難しいイージー・ゲームだろ?」

「はは、ミミさんはお優しいって事でしょうよ」

「そんなら足元の植物をよくよく観察してみなよ」

「足元……?」


 すでに青年風の男が駆るオライオン・キャノンが担いだ短砲身大口径砲の直撃を受けて、山肌に造られたHuMoの格納場はその出入り口が崩落を起こしていた事で無力化されていた。


 遠くの部隊が駆けつけてくるまで幾らかの猶予があると踏んでか、3人組は余裕の声である。


 彼らの言葉に従って、ミミが足元の映像を拡大表示させてみると、盆地内でもっともたくさんの陽光を受けられるであろう、いわば1等地の畑で栽培されていた植物には細い5枚の葉が放射状に広がるミミもニュースなどで見た事がある特徴的な葉が映し出されていた。


「こ、これって……」

「そう。麻だよ、麻! 麻っていえば衣類にも利用される繊維だけど、ミッションの説明文にもあったでしょ」

「ほれ! あっちの建物の拡大画像だ」


 青年風から送信された画像は民家と思わしきあばら家とは明らかに違うコンクリート作りの白い建物の脇に茶色いブロック状の物体が山のように積まれているというもの。


「ここの坊主どもも農民でございって顔してる連中も、違法薬物の製造に手を染めてやがるってわけよ!!」

「つまり違法薬物の製造プラントも、それらの作業に従事する連中も、ミッションの追加報酬の対象ってわけだ!」

「大体、HuMoに乗ってるわけでもない、たった1人の暗殺対象をわざわざ探すなんて面倒な事してたら敵がわんさと押し寄せてきますよ!」


 なるほど、とミミにも得心がいった。

 違法薬物の原料となる植物の栽培にさえ目を瞑れば牧歌的と思える集落を焼く事への是非についてではない。

 御同輩3名の乗機の不可思議に思えた武装の数々についてだ。


 中年男のデカい割に口径が小さく対HuMo戦には不向きであろうガトリング砲も、少年の機体が装備する弾速が遅く至近距離からでもなければHuMo相手には直撃させる事は難しいであろうグレネードガンも、ただでさえ短砲身の巨砲を背負っている青年のオライオン・キャノンがさらに同系統で低弾速のバズーカを装備しているのも、全ては彼らが最初から集落を焼くために選択してきた彼らなりの合理性の故なのだ。


 オライオンがガトリング砲を振り回せば家屋も田畑も工場も関係なく吹き飛び、アーチャーのグレネード弾は兵舎や車両を焼き、さらに狙いすましたように道路の要所に火柱を立てて、それが逃げ惑う人々の避難を遅らせる事となっていた。

 オライオン・キャノンの巨砲から放たれる大口径砲弾はそれらにさらに輪をかけて凄まじい地獄絵図を作り出している。


 一応、ミミもすでに農民が逃げ出した後の大麻畑にライフルを撃ち込んでは見たものの、それでもやはり乗り気にはなれず、むしろどこか後ろめたい気持ちになり、それが徐々に心の中で増していくのを感じていた。


「……あれは」

「どうしたの、なんか見つけた?」


 後ろで退屈そうに欠伸をしていたキディが自分では小さく呟いたつもりのミミの声を聞いて乗り出してくる。


「なんか面白いもんでもあった?」

「ううん……。ただ……」


 ミミの目の前にあったのは何の変哲もない畑。

 良く日の光を受けられる広大な平地部に作られた大麻畑ではなく、山肌を切り開いて作られた棚田の脇に作られた本当に小さな畑である。


 このコミュニティの住民の食料を作るためなのであろう畑に白い花が咲いていた。


 集落を焼く炎によって生み出された気流によって翻弄され激しく揺れる白い花はそれでも心が奪われるほどに美しいものに思えた。


 そして、それはミミにとっては懐かしいものであったのだ。

 ニュースや教科書でしか見た事のない大麻の葉とは違い、その白い花を咲かせる植物をミミ自身、小学校の授業の一環で育てた事があったのだった。


「……オクラの花が咲いている」

「……は? オクラ? あのネバネバの?」


 揺れる花を見てミミは自身の小学生時代の事を想起する。


 自分が育てたオクラの花の白さに感動し、その花を友人たちにも見せたくて花を摘んで教室に持っていった時の事。

 白かったはずの花はいつの間にか、くすんだクリーム色のものになっていた。

 大好きだった担任は「お日様の光の下だったから綺麗に白く見えたのでしょう」と教えてくれたものだった。


 陽光の元でしかその美しさを保てない白い花。

 それは自分でも気づいていなかったがミミの中では汚してはいけないもの、犯してはいけないものの象徴として深く心に刻み込まれていたようであった。


 このままでいいのか?

 ミミは救いを求めるようにディスプレーのコメント欄を流れる視聴者たちの声を

 見た。


『う~ん、理に適ってるっちゃ、そうなんだろうけど……』

『なんか引くわぁ……』

『教団に洗脳されてるとは書いてたけどさぁ……』

『それでも生身の人間を撃てるか? ゲームでもここまでリアルだとさぁ』


 視聴者たちのコメントも、その大多数は同行の3名への非難である。

 それを見てミミは弾倉を交換。

 榴弾が装填されている弾倉から、数発の対空炸裂弾の他は徹甲弾ばかりの弾倉である。

 続けてライフルの薬室に収められている砲弾を強制排出して徹甲弾を装填。


 徹甲弾。

 対HuMo用の砲弾である。


 だが、まだミミには踏ん切りがつかない。


 そこにまた新たなコメントが流れてくる。


『3人を裏切って、せめて農民たちが避難する時間を稼いでくれたら赤スパ投げちゃるよ?』


 そのコメントがミミの反骨精神に火を付けた。


「……いらねぇよ」


『え? ミミちゃん?』

『話し方どしたの?』

『なんか怖くない?』


 赤スパとはミミが使用している動画配信サイトで1万円以上の投げ銭を行う際に赤い枠で表示されている事から使用される、いわゆる高額の投げ銭を意味する言葉である。


 本来であれば配信者ならば高額の投げ銭を貰う事は喜ばしい事であっただろうし、逆に「〇〇したら赤スパを投げる」という指示は今後の活動に障りが出るような蛇蝎の如く忌み嫌われるものである。


 だがミミの反応はそのいずれとも違った。


「いらねぇってんだよ!! 赤スパ投げてぇんなら、アタイのスーパープレーに見惚れてからにしな!!」


 ミミの意思が宿ったようにレティクルがするりと動く。

 先ほどはあれほど重く感じたトリガーがフェザータッチのように感じる。


「な、何を……!?」

「くたばれ、外道!!」


 裏切る事を決意したものの、あくまでシステム上は未だ味方機のまま。

 後ろから撃たれている事に気付いた中年男のオライオンは機体を振って回避しようとするがミミはロックオン機能の使えないマニュアル照準で照準を合わせ続ける。


 そして、すぐにオライオンが背負っていたガトリング砲用の弾薬箱から火を噴いて大爆発が起き、その次の瞬間にはそこにはオライオンの下半身だけが立っていた。

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