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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
第6章 末世の荒野に唄えよ救世主
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2 同業者

「よう、嬢ちゃん。さっきから一人で何ブツブツ言ってんだ?」

「わあ! 傭兵ロールプレイが堂に入ってますねぇ!! 申し遅れました。私、新人猫耳現役女子高生ヴァーチャルItuberの黒猫ミミだお!」


 輸送機が現場付近へ到着するまでの場繋ぎとしてミミが視聴者たちと雑談をしていると、コックピット内のスピーカーから見ず知らずの男の声が流れてくる。


『なに? ミミちゃん、今回のミッションは1人じゃないの?』

『ちょっと首を回して輸送機内を見せてよ』


「は~い! 今回のミッションは私の他に3人の同業者の方と一緒なのです!」


 同行者の3人はフレンド同士のようで、それぞれの機体には同じエンブレムが張られていた。


 ミミも同じミッションに参加するという事で彼らの小隊に加わってはいたのだが、何分、ミミはこのゲームを始めたばかりで小隊を組んだ経験は初めて。

 そういうわけで小隊間通信のボリュームが低かったようだが、ボリュームを上げるとミミと視聴者との会話を聞いて得心がいったような声になる。


「あ~、なるほど。今、配信中なのか」

「あ、もしかしてマズかったですか?」

「いえ、大丈夫ですよ。僕らは皆、リアルの容姿とはかけ離れたアバターを使ってますから顔バレの心配はありません」

「ていうか、君、有名なライバーさんだったりするの?」

「……一応、登録者数5万人ほど」


『同接198人だけどなwwww』

『お、さっきからちょっと減ってるwww』


 3人は全員が男。

 だが声から受ける印象はなかなかバラエティに富んでいた。


 最初に話しかけてきたのは苦み走った中年男風。それから朴訥な青少年風とチャラそうな青年風であった。


 このゲームの仕様上、アバターは好き勝手に弄り回せるので現実の3人はどうかなどは分からない。

 そもそもがミミ自身もまたこれまでの配信で使っていた3DCGをインポートして使っているわけで現実の自分とはかけ離れたものなのだ。


 だが、現実ではありえないような髪色だとか、日本人離れした体形だとか、いちいち突っ込む方が野暮というもの。

 それが2050年代におけるネトゲのマナーである。


 そんな事を考えていたところでコメント欄を表示させているサブディスプレーにまた1件のコメントが流れてきた。


『ところでさ、お仲間さんたちの装備、なんかおかしくね?』


「うん? どういう事だお?」

「どうかしたか?」

「なんかウチの視聴者さんたちが皆さんの装備がおかしくないかって」

「いや、それを君が言うかね?」


 青年の言葉に同意するように少年も力無い愛想笑いの声を上げる。


 3人がそう言いたくなるのも無理はない。


「素体はマートレット? いや、テレビでもCM流してる警備会社のロゴが入ってるって事はアレか? 配信者用の『ワイルドキャット』ってヤツか?」

「当たりだお~!」

「まあ、そこまではいいけどよぅ……」


 ミミも、ミミの配信の視聴者も彼ら独特の常識によって気付いていなかったものの、ミミのワイルドキャットの独創性は中々のものであった。


「どこで売ってんだ? その増加装甲……」

「普通にショップで売ってるランク3の増加装甲ですお!」

「はあ……? そんなんあったか?」

「た、確かに形状は似てますけど、その……」


 本来は細身と言っていいようなワイルドキャットが、ミミの機体は随分とマッシブなシルエットとなっていた。


 だが、普通はランク3の、低ランクの増加装甲を機体のシルエットが変わるほどに取り付けてしまえば重量がかさんでマトモに動けなくなると思うだろう。

 それが可能となるのは高ランクのパワーに余裕のある機種に、サイズの割に軽量にできている高ランクの装甲材を取り付けた場合である。


「実はこれ、主装甲に鋼管パイプやら鉄筋やらを溶接して、その上に増加装甲を取り付けているんですお!!」


 ミミがワイルドキャットに取り付けている増加装甲はランク3の物の中でも最も軽量で薄いもの。


 本来であれば気休めになるかどうかすら怪しい増加装甲もミミがやったような間に鋼管やら鉄筋の骨組みを挟む事によって効果は倍増する。


 これはミミやその視聴者たちが元々はモデラ―界隈の者たちであったからこそ思い付いた手法であっただろう。


 彼女たちは戦車やAFVに施される“空間装甲”をHuMoに実装したわけだ。


 主装甲の上に施された空間装甲は徹甲弾にもいくらかの効果を発揮するが、その真価を発揮するのはミサイルなどの弾頭に使用される成形炸薬弾(HEAT)に対してだ。


 事実、前回の配信においてミミのワイルドキャットは敵HuMoが放ったパンツァー・ファウストの直撃を受けてなお小破で済んでいたほどなのである。


「……なるほどね。アンタらの創意工夫に比べりゃ、俺らの装備なんて別に何もおかしかないぜ」


 ミミが一通りの説明を終えると、途中から興味無さそうに聞いていた中年風が苦笑いしつつ、お返しとばかりに自分たちのHuMoの武装について説明し始める。


「あ~……。こっちの声はしっかりそっちの視聴者にも聞こえてんだよな?」

「もちろんだお!」


 まず中年風のオライオンが装備していたのは中型のガトリングガン。背部に巨大な弾薬箱を担いではいるものの、その口径は37mmとHuMoにとっては小口径といってもよいようなもの。


 少年風のアーチャーが手にしている大柄の銃はリボルバー式のグレネード・ガン。機体のあちこちのハードポイントには交換用のシリンダーがいくつも取り付けられていた。


 そして青年風のオライオン・キャノンは肩に担いだ2門の短砲身砲の他に、小型で取り回しの良さそうなロケット・バズーカ。


 その他に3機は一様に幾つもスモーク・ディスチャージャーを装備し、機銃も増設されているが、それはミサイルの迎撃や牽制などに使われる類の物ではなく、12.7mmと小型の物。


 揃いも揃って、とても敵HuMoと戦えるようなものではない。


「おいおい。お前ら、今回のミッションの依頼文、ちゃんと読んだのか? 攻略WIKIはどうだ?」


 オライオンのコックピットで顔も知らない中年男が笑っているのが容易に想像できるような嘲るような声だった。


 ミミがその真意を問いただそうとした瞬間、幸か不幸か、輸送機の貨物室内でアラート音が鳴り出して、オレンジ色の回転灯が作動しだす。


 オレンジ色の警告灯。

 赤ではない。

 危険はあるが、いつも通りの危険。


 輸送機が目標付近へ近づいたために効果のための作業を開始するとの通知であった。

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