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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
第6章 末世の荒野に唄えよ救世主
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1 Vtuber

 大きく息を吐いてから、肺胞の1つ1つにまで酸素が染み渡るように深く空気を吸い込む。


 まだ慣れてはいないが、それでもこれほどリアルに仮想現実の肉体を構築するとは技術の発達は凄まじいものだと少女は思った。


「キディ。配信準備は?」

「ハードウェア、ソフトウェアともにオールグリーン! 回線遅延許容範囲内! “こっち側”の準備もこれでOKっと……」

「オーケー! カウントダウン、よろ!」


 少女は後席から伸びてきた自撮り棒に取り付けられたアクションカムのランプが待機状態を示す緑である事を確認し、相棒であるユーザー補助AI「キディ」に配信開始を促す。


「配信開始まで5……4……3……2……1!」


 カメラのステータスランプが赤になったのを確認してから少女は再び深呼吸しておきまりの挨拶を画面の向こうの視聴者へ。


「こ~んに~ちニャンニャン! 新人猫耳現役女子高生ヴァ~チャル・Ituberの『黒猫ミミ』だお!」


 挨拶に合わせてゲーム内アバターの頭部に付属する猫の耳を動かしてみせる。


 現実世界の肉体に存在しない猫耳を動かすのは未だに違和感があったが、それでも「鉄騎戦線ジャッカルONLINE」の配信は今回で2回目。いくらかコツは掴んできていた。眉間に皺を寄せるような筋肉操作を頭頂部の左右を行う感覚だ。


『おつニャン!』

『またゲームなの?』

『ハセヤマの新作「F-15XX」買った?』

『88888888』

『おっ、耳の動かし方、憶えてた!』


 配信開始と同時に動画配信サイトのコメント欄への書き込みは増えていくが、それも一時期に比べれば明らかに少ないものであった。


 黒猫ミミのItubeチャンネルの登録者数は現在5万人ほど。だが現在の視聴者数は200人にも満たない。


 現実世界では土曜の22時というVtuberのライブ配信としてはゴールデンタイムとでもいうべき時間帯。

 故に同業者とパイの取り合いになっているのか? いや、そうではない。実の所、黒猫ミミのチャンネルは昨年に開設してからずっと視聴者と雑談しながらプラモデルを作るというスタイルであったのが、前回からゲーム配信を始めたが故に客離れを招いてしまっているのだ。


 一応、「鉄騎戦線ジャッカルONLINE」の配信を始める前フリとして、1週間に渡って発売されたばかりのキット「1/144 雷電」を作ってみたのだが、その配信自体は中々に好評で、ミミもこれならばゲーム配信もイケると踏んでいたわけなのだが、結果はこれである。


 だが黒猫ミミというVtuberはこの程度の事でめげるようなメンタルの持ち主ではなかった。


 視聴者が離れたのならば、新たな視聴者を掴んでいけばいい。

 離れていった視聴者が戻ってきた時、見ていなかった時の事を後悔させてやるぐらいの負けん気がミミにはあった。


『ていうかキディちゃんは?』

『リアルデブはいいからキディちゃんを映せ!!』

『ていうか、もうコックピットの中?』


「あ~! 今、誰か私の事をデブって言った~!! プンプンだお!!」

「私もいるよ~」


 視聴者が言う「リアルデブ」とはヴァーチャル世界のアバターがいくら見目麗しくとも現実の世界のミミは肥満体なのだろうというお決まりの軽口である。

 これは以前の配信でプラモデル作成中に画面に映り込んだミミの手が白魚のように細いといえるようなものではなく、むしろ太いだけではなくてゴツいと揶揄されるようになってからの定型文のようなものであった。


 だがミミはそれで良いとすら思っている。


 ミミは自分自身のキャラクターとして密かに属性過多系を目指していたわけなのだが、新人キャラも猫耳キャラも、そして現役女子高生キャラだってネットの世界にはごまんといるのだ。

 そんな中で自分で狙ったわけではなく降って湧いたような「実はリアルじゃ肥満体疑惑」というキャラクターはむしろ願っても得難いキャラクターであったといえよう。


 もっともゲーム配信をはじめてみると自身のユーザー補助AIであるキディの視聴者人気が思ったよりも強くてミミも危機感を感じ始めていたわけなのであるが。


 キディというユーザー補助AIは細身でショートカットの女性。

 惑星開発のために造られた遺伝子改造人間という設定の猫耳キャラクターである。


 そう。ミミもキディも猫耳キャラ。

 いわゆるキャラ被りである。


 ミミとしてはシンプルなキャラ造形のキディにキャラを盛りに盛った自分が負けるわけがないと、キディの事を単なる引き立て役くらいにしか思っていなかったのであるが、彼女の思惑は外れ、細身ながらもへそ出しキャミにホットパンツという露出の多い服装に面倒臭がりというキャラクターは視聴者の猫の擬人化像と上手く嚙み合ってミミ本人を食う勢いであった。


『そういや、おじいちゃんのぼどぼど焼きさんって今日いる?』

『そういや見てないね』

『前回の配信の終わり頃に「俺もキディちゃんと一緒に傭兵やるんだ」って言ってなかったっけ?』


「マジかお!?」

「あっはっはっは! 貴重な視聴者にまた逃げられたってわけだ!!」


 後席で大笑いする相棒が盛大に前席のミミのシートを蹴ってくるが、ミミにとってはそれどころではない。


 件の視聴者は昨年のチャンネル解説当初からの古参ファン。

 収益化ができて初めて投げ銭をしてくれたのもかの視聴者であった。


 だが、いつまでも気落ちしていても仕方がない。

 今は今見てくれている視聴者を楽しませなければという義務感からミミはわざとらしいくらいに陽気に話を変える。


「そういえば話は戻るけど、今はもうミッションに向かう途中の輸送機の中なんだお!」


『輸送機? 今回のイベントには参加しないの?』

『他の配信者さんは宇宙に行ってるみたいだよ?』

『宇宙じゃ結構、盛り上がってるみたいよ? なんでも戦艦を沈めるプレイヤーが出たとか』


「ふふふ。頭の良いミミは考えました! つい一昨日、このゲームを始めたばかりのミミがランク3の機体に乗って宇宙に出ても大して活躍できないだろうと」

「まあ、宇宙に行って無重力に酔っちゃってゲロインなんて呼ばれたらたまんないってね~」

「あっ! バラすな!?」


 キディは茶化して宇宙酔いがどうのこうの言っているものの、宇宙で果たして十分な撮れ高が取れるのかと2人で考えた故のイベント不参加であった。


 そもそもキディが乗るランク3HuMo「ワイルドキャット」はランク2.5相当の機体。


 チャンネル登録者数5万人という数字が幸いして「鉄騎戦線ジャッカル」運営元のクリエイター支援プログラムの対象となって付与された機体である。


 この機体自体はランク1「マートレット」をランク2.5相当に強化しただけの機体なのであるが、特筆すべきは本来は3つのサブディスプレーが2つ増えて5つとなっている点。

 ミミは増加分のサブディスプレーを1つは配信画面の確認用に、1つはコメント欄用にセットしていた。


 さらに現実世界に存在する大手警備会社のロゴとともに機体は、警備員の制服を思わせる紺と濃紺に塗装されている。

 いわゆる広告塔代わりに使われているわけなのであるが、ミミは愛機の外見を案外と気にいっていた。


「オホン! そんなわけで今回、私たちは宇宙に行かずに地上でミッションをこなそうというわけなのでございますお! で、今回のミッションがこちら……」




件名:カルト教団教主の暗殺(危険度:?)

依頼主:不明


 内容:中立都市東部の高山地帯に独自のコミュニティを形成するカルト教団「汎銀河仏法帰依者の会」教主の暗殺依頼です。

 汎銀河仏法帰依者の会、通称「メタル=ブディズム」は信徒の洗脳、違法薬物の製造など複数の違法行為の疑惑があり、HuMo部隊を含めた独自の戦力を保有している事が確認されるため傭兵の皆様に依頼が出される事になりました。


 本依頼における二次被害について市議会上層部はコラテラルダメージとして承認する事を決議、また教団の違法行為の産物を破壊した者へ追加報酬を支払う事を決定しました。

 よろしくお願いします。


添付:教団コミュニティ周辺地図、暗殺対象の画像3種

タグ:追加報酬有り 危険度?

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