63 3人目と4人目
敵戦艦内部には発艦直前であったのか、多数の敵機が既に起動状態で私たちを待ち受けていた。
幸いであったのは、その中にとても戦闘任務には耐えられないような機体が多数混じっていた事だっただろう。
「でぃぃぃやあああああッッッ!!!!」
現実世界にある建設用重機を思わせる黄と黒で塗装された非装甲の機体はすぐ近くに着地したケーニヒスを見て驚愕したパイロットの動揺がそっくり反映されたかのように後退る。
私は素早くその作業用の機体との距離を詰めて腕を取る。
「マモル君ッ!!」
「あいよッ!!」
私は掴んだ腕を振って敵機を放り投げるが、そこにプロレスのようなロープがあるわけがない。
そこにいたのは敵機。
艦内に侵入してきた私たちを排除するべくやってきた戦闘用のHuMoが3機。
固まってやってきた敵小隊は飛んできた作業用の機体をぶつけられ硬直。
そこへ私の合図でマモル君がバトルライフルを撃ちまくる。
非装甲の作業用HuMoは叩きつけられる84mm徹甲弾の前にあっとういう間に爆散。
その爆発に巻き込まれた敵小隊も甚大な被害を受け、そのままニムロッドのライフル弾の標的となって何もできないまま爆発。
「相変わらず一方的に強く出れる相手にはやるじゃない?」
「そっちこそ! やっぱり無重力は馴染めなかったようですね!」
艦内の人工重力発生装置によって低重力環境ながらいつも通りに近い戦い方ができるのはその通りだが、別にそれは私だけの恩恵というわけではない。
マモル君だって敵の射線を切るために私を盾にする動きが宇宙よりもキレがある。
そこに更にヒロミチさんたち仲間も次々とハッチから飛び込んできて合流。
「思ったよりも広いが……。スマンが飛燕じゃそう長く持ちそうにないな。ジーナちゃんもガレージに帰る前にありったけの弾を吐いておけ!」
「は、はい……!」
私たちが侵入した格納庫は数百機のHuMoを搭載できそうなほど広大な広さではあったが、逆に高さはHuMoを整備するのに幾らか余裕がある程度のものでしかない。
戦闘機タイプの機体として脆弱な耐久力しか持たない代わりに他の機種とは隔絶した機動性を有する飛燕ではその強みを発揮できずに長く戦い続ける事はできないだろうとヒロミチさんは敵機といわず周辺の壁や床であろうと構わずにガンポッドや余ったミサイルを撃つ。
これまで私ととも最前線を張っていたヒロミチさんに代わって指揮官役を張り切りだしたのがクリスさんだ。
「へへっ、後は任せとけっての!! こりゃU-ボート秘密基地か異星人が乗り込んできた宇宙船かって具合だな! 具志堅も続け!!」
「だからゲーム中じゃキャタピラーって呼んでほしいさぁ~!!」
右手にアサルトライフル、左手に大型拳銃を携えたクリスさんのナイトホークはわざと敵中に飛び込んで敵をかく乱するつもりのようだ。
実際のとこ、β版での経験がある分、ノウハウやセオリーといった面ではヒロミチさんの方が上であるというのはクリスさんも承知の上。
指示役としてはヒロミチさんには及ばないのを、彼女は最前列で味方を率いる形で指揮官としての役割を果たそうとしているのだろう。
キャタ君のロジーナもちょっと前までクリスさんと確執があったとは思えないほどの連携を見せ、クリスさんが飛び込んで敵の連携を切り崩したところにライフルを撃ち込み、あるいはスラスターを使って一気に距離を詰めてはパイルバンカーを叩き込む。
ロジーナの本来の武装である大型のパイルバンカーを装備したその姿はシオマネキを思わせるほどに片腕だけが肥大化したものであるがその分その威力は抜群。
敵が密集しているところに叩き込めれば2、3機まとめて始末できるほどだ。
「私たちも負けてられないわね!!」
「味方に遅れを取ろうが取るまいが、目の前に敵がいるんだからやるしかないじゃないですか!?」
「はいはい! そんな事より暇があったらマモル君も壁とか床とかあったら撃っちゃいなさい!」
クリスさんとキャタ君の連携に私は奮起していたが、マモル君は周囲から私たちめがけて殺到してくる敵集団にそれどころではない様子。
私を盾にしているんだからもう少し余裕を持ってもよさそうなものだけれど、マモル君にそれを期待するだけ無駄だろう。
むしろ逆に私の方こそマモル君を見習ってやるとしようか。
とはいえ私まで味方を盾にするつもりはない。
私が盾にするのは敵機だ。
これまでの戦いで敵がフレンドリーファイアを恐れる思考パターンなのは把握済み。
さらに敵は格納庫内部でHuMoが誘爆して艦内に被害を及ぼすのを避けようと白兵戦を挑んでくる傾向にある。
それならば私が一方的に有利だ。
私は敵の刃を躱しながら懐に潜り込んで拳を叩き込み、あるいは首相撲からの膝で敵機のコックピットを潰して無力化するも、敵機からは判断が付かないのか主を失ってでくの坊と化した敵機も十分に盾の役割を果たしてくれる。
オマケに投げ飛ばしたり、蹴り飛ばして近寄ってくる敵機にぶつければその行動を阻害する事もできて至れり尽くせり。
私たちは“私とマモル君”、“クリスさんとキャタ君”の2組を主軸にヒロミチさんが援護に入るという形。
ジーナちゃんは援護や支援というよりかはヒロミチさんの言葉もあってか残弾を撃ち切る勢いで弾をバラ撒いていた。
私たちの目的は敵HuMo部隊の殲滅ではなく、敵戦艦の無力化なのである。
そういう意味では辺り構わず撃ちまくるジーナちゃんの姿勢は正しい。
敵戦艦の重装甲も艦内部までは及んでおらず、大口径の主砲弾が、大型箱型マガジンを取り付けられて軽機関銃のようなライフルが周囲の壁や床に穴を穿っては艦内奥深くで信管を作動させた爆風が破孔から噴出してくるのを見るに、着実に艦内の破壊は進んでいるようだ。
だが、それを考えてもなおジーナちゃんは焦っているようである。
彼女のサポートをこなしながらサンタモニカさんは戦っていたが、やはり敵は多い。
敵小隊が私やクリスさんたち前衛を突破し、サンタモニカさんとヒロミチさんが相手をするも、その内の1機がビームソードを振り上げてジーナちゃんのコアリツィアに斬りかかった。
不運にもジーナちゃんは己に降りかかる凶刃に対し、背後を向けた状態。
せめてそこでスラスターを吹かして前へと逃げれば、その1手は凌げたのかもしれないが、そこで彼女は腰部関節を回して胴体だけ振り向き敵を迎え撃とうとした。
だが間に合わない。
ジーナちゃんはコアリツィア最大の弱点である背部液体装薬のタンクを切りつけられて一瞬の内に大爆発に包まれてしまう。
「ジーナちゃん!? ジーナちゃんッ!?」
「サンタモニカ! 動きを止めるなッ!!」
敵機もジーナちゃんが振り返ろうとしていたために狙いが逸れてしまったのか、コアリツィアの爆発に巻き込まれて不本意ながら刺し違えてしまった形。
それにジーナちゃんとはこれで今生の別れというわけではなく、一足先に帰ったトミー君と同じくガレージでリスポーンしているハズ。
それでもサンタモニカさんが動揺しないわけもなく、ヒロミチさんが動きを止めてしまった彼女のU2型を蹴り飛ばすような形で突き飛ばすと、そのタイミングで敵の捕縛用ワイヤーガンが飛んできて飛燕の右主翼に鋼線が巻き付く。
「~~~ぃッッッ!? スマン! 後は任せたッ!!」
ワイヤーから伝わる電撃によって機体のあちこちはスパークとともに小爆破を起こし、パイロットのヒロミチさんも苦悶の声を上げる。
さらに敵はこれまで被害を抑えるために発砲を控えていたのが、千載一遇のチャンスと踏んだのか、それとも私たちに散々に暴れられてもうそんな事かまっていられないという事なのか、動けなくなった飛燕に複数の火線が伸びてきてヒロミチさんもジーナちゃんの後を追ってガレージへと帰る事となってしまう。
「ヒロっ!?」
「すいません! 私のせいで……」
「……オメーのせいじゃね~よ」
「それにやられたらやり返すだけよ。ガレージに帰った後でヒロミチさんに胸を張れるだけの戦いをしましょう!」
「……そうでごぜぇますわね」
まあ正直、発育の羨ましいサンタモニカさんの事であるので、何もできずにガレージに帰る羽目になっても、胸を張ってゴメンナサイすればその辺の男なら許してくれるのではないかとも思うがさすがにそれはセクハラというかオヤジ臭いんじゃないかと口には出さないでおく。
代わりに立て続けに2人の仲間を失ったチームを鼓舞するように私は手近な敵機を自分の肩の上に背負ってアルゼンチン・バックブリーカーを仕掛け、敵機のフレームを粉砕するその僅かな時間の間にも別の敵に跳び蹴りをかます。
「キャタ君ッ!!!!」
「応さぁ!!!!」
背負っていた敵機のフレームが完全に圧し折れると同時にそのHPはゼロとなり、私はそいつを放り投げて、また別の敵機を掴んで再びロープスロー式に放る。
敵機は私の狙い通りにキャタ君のロジーナが突き出したパイルバンカーの切っ先へ。
串刺しとなった敵機は杭が巻き上げられると同時に床に倒れた。
「良い事言うじゃねぇか!! まだやれんだろォ!!!!」
「もちろんでごぜぇますわッ!!!! まったくライオネスさんはいつも私に勇気をくれます!!!!」
ジーナちゃんを失ったサンタモニカさん。ヒロミチさんを失ったクリスさん。
2人にとって切っ掛けさえあれば良かったのかもしれない。
その感情の爆発の向かう先、方向性はすでに彼女たちに与えられていた。
HuMo用のミサイルの弾頭などに使われている成形炸薬弾のように、指向性を与えられた感情の行く末を私は知っている。
そして彼女たちも私を通じて知っていた。
徐々に2人の動きが良くなっていく。
すでに敵中に飛び込んでいたクリスさんは発砲を辞さなくなった敵が相手でも紙一重の所で砲弾と凶刃を躱し続けながら、それでいて撃破スピードを増していた。
さながら旋風が成長して全てを飲み込む竜巻が生じるように。
ジーナちゃんのサポートが必要無くなったサンタモニカさんは最前線に飛び込んで、敵弾を躱しながらライフルの先端の銃剣を敵機に突き立てて打ち倒していく。
それはまるで彼女が駆る濃緑の機体の持ち主であるだいじんさんとよく似た動きで、HuMo自体が鋭い切っ先に、1発の砲弾になったかのような研ぎ澄まされたものであった。
坂道をボールが転がるように2人の動きはみるみる内に激しさを増していき、それがいつだったのかは私には分からない。
だが当の本人である2人はいつしか気付いた。
「そうか……、これが……」
「これが『CODE:BOM-BA-YE』でごぜぇますか……」
私としては驚愕するのも忘れて「あれ? 自分で気付けるもんなの?」と思ってしまうくらいであった。




