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58 巨大戦艦

 私とマモル君が取り付いた敵駆逐艦はほぼ全て、味方攻撃部隊に指向できる砲の全てを潰され、艦橋も破壊されてはいたものの、それでも艦としてはまだ死んではいない。


 実際のとこ、艦船にもHuMoと同じようにHPが設定されているかどうかは分からないが、そうでなくともこの駆逐艦が穴だらけになって戦闘能力を喪失し、艦橋とともに指揮官を失っていたとしても、それでもこの艦はまだ生きてはいる。


「ちょっと! そんなバカスカ撃ちまくらないで!」

「だって!?」


 ふと気付くとマモル君が自身の足元近くにライフルを向けていた。

 その砲口の先には宇宙服を着た人間が携行ミサイルランチャーを構えている。


 大方、艦自体の戦闘能力を失ってなりふり構わなくなった敵兵が歩兵用装備で一泡吹かせてやろうと艦外に出てきたのだろうが、ニムロッドの88mmライフルは歩兵など軽く消し飛ばし、それは良いのだが、さらに艦体深く貫通してしまうだろう。


 それがすでに多数の被弾で穴だらけとなった駆逐艦の最後への一押しとなりかねないと判断した私はケーニヒスを動かして、ニムロッドを押しのけさせ、スマートマインを1発だけ射出。


 爆発とともに艦体表面に大穴を空けたが、だがそれは艦の中枢深くにまで被害を及ぼしてはいない。


「この艦はまだ生きているから敵は撃ってこないのよ! “大破した友軍艦”が“友軍艦だった残骸”になったら敵も平気で撃ってくるわ」

「な、なるほど……」

「良い判断だ!」


 敵がこの駆逐艦を平気で撃ってこられるようになったなら、私たちはここから他の艦を狙撃だなんて楽な事はやっていられなくなる。


 マモル君も同意してくれ、丁度、そのタイミングでヒロミチさんも私たちの元へと戻ってきた。


 周囲の小型艦は今も味方部隊の攻撃によって爆散しているが、味方も私たちがここにいると分かってこの駆逐艦への攻撃は控えてくれている模様。


「少し負荷をかけ過ぎた。敵が来るまで、俺は少し休憩させてもらうぜ?」

「敵? あっ……」


 輪形陣の奥、空母やら戦艦やらが布陣している辺りから小さな火砲やビームとは違う赤い光が幾つも浮かび上がってくる。


 HuMoだ。


 敵は自分たちの対空火力に随分と自信があったのか、それとも巻き添えを食らう事を恐れていたのか、艦隊直掩のHuMo部隊を上げていなかったのを私たちの攻撃によって輪形陣が崩れ始めた今になって続々と発進させはじめたのだろう。


 艦砲射撃では私たちが人質にとっているような状況の駆逐艦を取り戻す事ができない以上、すぐにここにもHuMo部隊の大軍が押し寄せてくるのだろうが、ヒロミチさんもそれは分かっていように本気で休憩を取るつもりのようだ。


 通信に彼の声とともに宇宙用飲料パックの封を切る音や勢い良く喉を鳴らす音が混じって聞こえてきていた。


 とはいえ私自身もそれほど事態を深刻には考えてはいない。


 敵HuMo部隊がこちらに向かって来るのと同様に、味方攻撃部隊の大半も前進を再開しているのだ。


 輪形陣の対空網の穴が広がった事で接近に対するリスクが減ったと判断したのだろうか?


 未だ加速を再開していない味方部隊は砲戦タイプの機体を主軸とする小隊、中隊あたりで、むしろ彼らはそのまま援護射撃を続けてくれていた方がありがたいくらいだ。


 とりあえず敵部隊の接近には今しばらくの猶予があるようで、周囲の敵艦への狙撃を続けるマモル君の隣で私はとりあえずといった具合に敵部隊がまっすぐ近寄ってきたらこの辺を通るのではないかと思われる辺りにスマートマインを散布しておく。


「んん……?」

「どうかしましたか? そんな事よりもスマートマインは撃ち切りでしょう。こっちを手伝ってくださいよ」


 対空砲火の雨霰によほど恨みつらみが溜まっていたのか、マモル君は敵艦への攻撃に私も加わるように言ってくるが、どうも私にも気になって仕方ない事があった。


「『馬鹿の考え、休むに似たり』って諺もあるでしょうに」

「……いや、聞かせてくれ。ライオネス」

「なんか、敵の動きがおかしくないかなって……」


 私自身、確証のある話ではなかったのだが、マモル君の毒舌を制してヒロミチさんが私に話を促してくれたので考えがまとまらないながらに思いつくまま言ってみる事にする。


「いえね、私は私たちがこの駆逐艦に取り付いている以上、この艦を取り戻すためにHuMo部隊が向かってくると思ってたんですけど、むしろこっち方面は無視されているような……?」


 ウライコフ艦隊も数千隻の威容を誇る大艦隊。

 当然ながらそこから発艦した第一次攻撃部隊は様々なコースで敵艦隊へと攻撃を仕掛けている。

 私たちが攻撃を仕掛けている箇所はあくまで一方面にしか過ぎないのだ。


 だが敵大型艦から発艦したHuMo部隊は途中で編隊を組む様子まで把握できているほどなのに、こちらに向かってくる部隊は1つたりとて捕捉されていない。

 敵のHuMo部隊は揃いも揃って他の方面へと向かっていってしまっている。


 月光のようなステルス機がいるのなら捕捉されない可能性もあるのだろうが、スラスターの噴炎は隠しようがないハズ。スラスターも使わずにステルス機だけの部隊が向かってきているというのは考え難い。


 ならば私たちなど放っておこうと敵が考えるくらいに他方面の味方が順調に攻略を進めているのか?

 これも違うと思う。

 むしろレーダー画面を見る限りでは、各方面の中でもっとも私たちが被害も少なく順調に事を進めているように思えるのだ。


「で、代わりになんですけど、動いている艦があるんです」

「あのですねぇ。宇宙だから分かりにくいでしょうけど、この艦隊も止まっているように見えて、ず~っと動き続けているんですよ?」

「そうじゃなくて、艦隊の軌道コースから外れてこちらに近付いてきてる艦があるって言ってんのよ?」

「あん? そりゃあ、おかしい。輪形陣に空いた穴を埋めようって腹積もりだろうが、HuMoの護衛無しってはどういうこった? その特異な動きをしてる艦の種別は分かるか?」


 周辺の敵艦への狙撃に忙しいマモル君だけではなく、ヒロミチさんもレーダー画面は見ていないらしい。


 大方、先ほど見せた凄まじい戦闘機動の代償としてGに全身を苛まれ、水分補給の後に目の周りでもマッサージしていたのだろう。


 だが、私がレーダー画面に表示されている敵艦の表示を読み上げると、驚愕とともに彼も一気に事態を把握する事になる。


「ええと……、『IK3=ギョー級戦艦』だそうです。え!? せ、戦艦ッ!?」

「戦艦!? それは本当か!? クソッ!!」


 私たちの下方、とはいえ宇宙に上も下もないのだろうがあくまでも私とケーニヒスの足の方向にすでにそれは姿を見せていた。


 まだ遠い。

 だが遠いのに周辺の駆逐艦やらフリゲート艦なんかよりもよほど大きく見える。


 そして私たちの攻撃によって輪形陣の外縁部が削られ、対空砲火が薄くなっていた周辺も、気付けば元の濃密さに近付いていた。


 丁度、学校帰りに土砂振りの雨に出くわして、コンビニかどこかに雨宿りをしていたら小降りになってきたので外に出たら、また雨脚が強くなってきたような気分である。


 それは全て接近してきた巨艦、「IK3=ギョー級戦艦」からのものであった。


「味方が……」

「急いで! 敵艦に取り付けば敵艦も撃ってこれないから!!」


 接近中であった味方機が次から次へと撃ち落とされていく。


 さらにこちらに向かってくる敵戦艦には砲戦タイプのHuMoが装備する砲も通用せずに装甲で弾かれ、遥か遠方よりも飛来するウライコフ艦隊からの長距離艦砲ビームもその艦体に触れる前に掻き消えてしまっている。


 全長2kmにも迫ろうかという巨大戦艦の有り余る火力は後方の砲戦タイプの部隊すら易々と撃ち落としていく。


 彼らは鈍重な砲戦タイプの機体に乗っていたとしても、これまで敵艦隊の対空砲火を躱し続けていたなりの腕の持ち主のハズ。

 彼らは艦隊に近付いて濃密な弾幕を躱す事は難しくとも、距離を取って弾幕が薄まった状態ならば生きながらえる事ができるのに、敵戦艦の火線は長距離であっても彼らを落とすだけの濃密な弾幕を形成できるという事か?


「これが……、戦艦……!?」

「そうだ。そもそも運営がHuMoみたいな小型の機動兵器で落とす事なんて想定していないような艦種だ」


 さらに敵戦艦は搭載しているHuMo部隊の発艦作業を進めている。


 有効射程の長い濃密な対空射撃の弾幕に、長距離ビームを無効化するバリアー。

 生半可な実体弾を容易く弾く装甲に、空母に匹敵するのではないかと思われるようなHuMo搭載数。


 確かにこれはマトモに戦うべき相手ではない。


 ヒロミチさんはβテスト時代に沈められた戦艦は1隻だけだなんて言っていたが、それも確かにと頷けるだけの強力な威力の兵器である。



β版時代の戦艦の落とし方

・まずマモル君のスキルをコンプできるほどの能力と暇があるババアを用意します。

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