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57 対艦攻撃

 懐に潜り込めさえすれば艦船なんて何もできないだろうと私とマモル君、そしてヒロミチは突撃を敢行する。


 だが敵もそれは分かっているとばかりに大小の火砲にビーム砲、さらにミサイルでもって迎え撃つ構え。


「2人とも、常に進路を変え続けろ! 敵に的を絞らせるなッ!!」

「分かってますって!!」

「ひ、ひぃっ……!?」


 私たちを追いこしていく味方の火線。

 私たちに向かって飛んでくる敵の火線。


 そして私のケーニヒスの周りを右へ左へ、上へ下へとちょこまかと動き回りながら突っ込んでいく飛燕にニムロッド。


「ライオネス! 動きが悪い! そんなんじゃ敵に辿り着く前に蜂の巣だ!!」

「チィ……!? ……っス!」


 私だってGに耐えながら左右の操縦桿をガチャガチャ動かしながらフットペダルを早足踏みするように踏んでいる。


 結果、私の体はシートに押し付けられたり、反対に前方に引っ張られたり。

 頭に血が昇ってきたかと思えば、今度は逆に脚の方へと血液が降りていってサーと寒気が襲って来るといった塩梅。まさに物理的に「血の気が引く」というヤツだ。


 だというのに意外な事だが、私よりもマモル君の方が動きが良い。


 ケーニヒスもニムロッドも前方の敵艦へ突撃をしながら、敵の火線を回避するために上下左右に動き回っているというのに、明らかにマモル君のニムロッドの方が細やかに軌道を変えている。


「マモル君、案外とやるじゃない!?」

「て、て、て、手も足も震えているんですよッ!!」


 そういえば、子供故に体力の少ないマモル君のために彼に機体を引き継いだ後で、操縦桿やフットペダルの抵抗を軽くしたんだっけ?


 その結果、改修キットを3つ使ってカスタムⅢ仕様となったニムロッドは彼の手や足の震えを機敏に受け取って機体に反映させたという事なのだろう。


 反面、突撃しながらニムロッドが撃つライフルの弾は標的(マト)が大きい艦船であるにも関わらずにほとんどが外れてしまっているが、それも彼の手が震えてしまっているがためか。


 まあ、この場合は差し引きでトントンどころかプラスの方が大きいような気もするので放っておこう。


「……ッ!? ヒロミチさん!?」


 少しマモル君に気を取られていた所で左手側の方で少し大きな爆発が起きた。


 つい先ほど、そちらの方にヒロミチさんの飛燕が飛んでいったのを思い出して、彼がやられたのかと声を上げると通信越しにすぐに返事が返ってくる。


「俺は大丈夫だ!! 十分に距離が近づいたと思って対艦ミサイルを撃ったんだが、そいつが撃ち抜かれて爆発を起こしたんだ!!」

「そら良かったですよ!」

「そんな事よりも気を引き締めろ……!」

「分かってますって!!」


 これほど濃密な対空射撃の雨霰の中にいながら、ヒロミチさんは対空ミサイルを発射しても命中の公算が高いと判断した。

 不運にも飛燕から発射されたミサイルは加速し始めの低速の段階を撃たれて爆発してしまったが、それはすでに十分に標的に接近しているという事を意味している。


 私の目の前、真正面には緑色の不細工な敵艦がいて、それがグングンと大きさを増していく。


 減速はまだだ。

 まだ減速してはこっちが的にされてしまう。


 すでに距離としては艦隊防空の網を抜け、個艦防空網という所。


 だがレーダー画面には「Ⅴ型駆逐艦」と表示されている敵艦だって、必死の抵抗を見せ、まだ手を抜ける段階ではない。


 私はケーニヒスをニムロッドの前に出そうとさらにフットペダルを踏み込むが、操縦桿を握る手が痺れてしまうのではないかというほどの細かく、かつ激しい振動が起こってしまう。


「マモル君、気持ち、気持ち程度に加速を緩めて、私の後ろに!」

「はい!」


 さらに敵艦に接近し、マモル君が意図的に加速を抑えるようになった事でニムロッドのライフルは劇的に命中率を向上させていた。


 甲板へ、こちらへ向けて高く仰角を上げた高角砲へ、艦舷に取り付けられたミサイルランチャーへ。

 次から次へと88mm弾は突き刺さり小爆発を起こす。


「今ッ!!」


 艦内の空気とともに宇宙空間へと出た火災の煙が良い煙幕となっている。


 期せず発生した煙幕を隠れ蓑とし、私はもう限界だという所で思い切り左右の操縦桿を引いた。


 それまで敵艦へ頭を向けて突撃していたケーニヒスは私のこの操縦によって、姿勢を正反対に、敵艦へ足を向ける形となる。


 スラスターを吹かして減速をかけているものの、それまでの加速で付いた速度は殺しきれず、そのまま私へ敵艦へと突っ込んでいった。


 無論、これは私の思惑通りの操縦である。


 先の戦闘では彼我の合成速度が速すぎる状態で敵を殴った時に機体フレームまで損傷するようなダメージを負った。

 正直、ケーニヒスのフレームがどれほどの衝撃に耐えられるのかは未だに分かりかねているが、今回は腕部よりも頑強であろう脚部を使って、即ち蹴りを使おうというわけだ。


 狙うは2つ並んだ巨大なコンテナ上の直方体の先端付近に飛び出た艦橋と思わしき箇所。


「っっっぅッッッぅっっっ…………!!!!」


 それは蹴りというよりも、強行着陸とか衝突と呼ぶべきものに近かったかもしれない。


 私はコックピットの中でシェイクされたかのような錯覚を、事実、シートベルトが無ければ私は狭いコックピットの中で全身を天井やら壁面やシートに強かに打ち付けていたであろう衝撃を味わっていた。


 そして聞き覚えのある警報音。


 慌ててサブディスプレーに目をやるとやはり衝突ダメージを受けている。


 だが、先の敵を殴りつけた時よりも遥かに小さな数字。

 それに機体フレームの損傷は無い。

 いや機体フレームにダメージを負ったために、それがHPの減少という結果に表れているのであろうが、それでも機体機能の喪失や低下は無かった。


 それが充分に減速できていたからなのか、それとも私の予想していたように脚部フレームが頑丈だったからなのかは分からないが、結果として私は無視できるほど軽微なHPと引き換えに敵駆逐艦の艦橋を完全に破壊する事に成功していた。


 だが、この一撃で破壊したのは艦橋だけ。

 まだ生きている砲やミサイルランチャーは今も盛大に発砲中。


 私はケーニヒスのライフルを腰部ラッチから取り出させて、目前の砲塔群を潰していく。


「マモル君、こっち!」

「了解です!」

「ヒロミチさんも!」

「おう!」


 私が残存する砲塔やらを蹴散らして作った安全地帯にニムロッドがゆっくりと減速しながら着地する。


「この! この!」


 これまで散々に撃たれて頭に血が昇っていたのか、マモル君が駆るニムロッドは半壊した駆逐艦に着地してすぐに近隣の敵艦へ射撃を開始。


 そのすぐ後ろに脚部を展開した飛燕が降りたってくるが、着地するにしては減速が足りないような?


「よし! じゃあ、次は俺の番だな!」


 そう言うと、着地するかのように見えたヒロミチさんは着地と同時に機首の向きを変えながらそのまま駆逐艦の艦体を蹴って、そのまま飛び去っていってしまう。


「け、蹴りの反動で機体を加速させた!?」

「そういう事!」


 ヒロミチさんが向かう先、5kmほど前方にはまた別のV型駆逐艦が。


 私は駆逐艦の艦上からヒロミチさんを支援すべく、その周囲の艦へと攻撃開始。


 正直、空気抵抗の無い宇宙空間では貫通力の距離減衰が起きないとはいえ、単発火力の小さな57mmを遠距離に弱いケーニヒスで撃ちまくっても効率は悪いのだろうが、今から追いかけて追いつけるわけでもなし、それくらいしかできなかったのだ。


 そしてヒロミチさんが向かった駆逐艦付近の「117防空艇」とやら2隻にいくばくかの損害を与えた頃には弾倉2つを撃ち切り、そして、それがいくらかの援護になったと信じたいが、ヒロミチさんは至近距離から敵艦に対艦ミサイルを撃ちこんで撃沈。


 艦中央からばっくりと折れ曲がりながら爆発を起こしていった。


「見事なものねぇ……」


 全長200mほどとはいえ、現実世界での感覚では十分に大型艦といえる駆逐艦の轟沈。


 その爆発はまるで近くに太陽が出現したかのように眩いもので、私はしばし炎に飲まれていく艦から目が離せないでいた。

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