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54 攻撃部隊発艦

「ッッッっッッッッッッッッ……!?」


 今までに感じた事がないような強烈なGに全身がシートに押し付けられる。

 未知の衝撃ではない。

 だが、かつてないほどにただただ強烈な重力加速度。


 それほどまでにポチョムキンの電磁誘導カタパルトがもたらすGは凄まじいものであった。


 当たり前といえば当たり前かもしれない。


 これから私たちが向かう敵艦隊は外縁部でさえ1,000km以上も離れているのだ。


 ただ1,000km先に行けばいいだけではない。

 1,000km向こうで敵艦隊に直掩のHuMoやら戦闘機とドンパチやって、戦闘後は帰還しなければならないのだ。


 当然、戦闘とそこまでの往復を考えれば限りある推進剤を無駄に使うわけにもいかず、カタパルトで撃ち出された時の加速を使わなければならないというわけ。


「マモル君、そっちは大丈夫ッ!?」

「だ、だ、黙って……、し、舌を……噛み……」


 リニアレールガンなんていう兵器が現実にもあるが、さしづめ私たちはレールガンの砲弾の中にいるようなものだ。


 カタパルトデッキから宇宙の中に放り出されて強烈な加速は納まったものの、一度ついた慣性は空気抵抗の無い宇宙空間では自発的にスラスターを吹かして殺さなければ弱まる事もない。


 オマケに放り出されたそこは今まさに敵が押し寄せてきている戦場なのである。


 カタパルトで撃ち出された攻撃部隊は圧倒的な速度で戦場を突っ切っていくものの、そこがビームや砲弾、ミサイルが飛び交う場所である事に変わりはないのだ。


 2列並んだカタパルトで一緒に発艦したマモル君に注意するよう促そうとするも、とっくに加速は終わったというのに「舌を噛む」だの言っている。


「落ち着きなさい。とりあえず周囲に注意して部隊から離れないようにしましょう!」

「は、はい!」


 私基準で前方のやや上に青白いスラスターの噴炎を見る事ができる。


 2列並んだその青白い光跡の左がヒロミチさんの飛燕。右も知り合いではないがプレイヤーの機体。


 さらにその先にも2列ずつ発進したプレイヤーやNPCのHuMoが宇宙を駆け抜けている。

 後方の映像を別にウィンドウに出して見てみると、後続の味方部隊も順調に続いているようだ。


 私たち第一次攻勢部隊に参加しているHuMoはプレイヤーにその補助AI、さらにウライコフのNPC合わせて80機。

 80機というのは空母ポチョムキンから発艦した分だけで、その他にもウライコフ艦隊の各艦から時刻を合わせて同時に発艦した部隊もいる。


 ウライコフ艦隊と敵艦隊は真正面から砲撃戦の真っ最中なわけで、部隊はやや上向きに角度を付けて撃ち出され、味方と敵のビーム飛び交う回廊を避けるよう山なりのコースを取る事になっていた。


 上向きに撃ち出されるのはカタパルトによる加速で行われるため、推進剤は微修正くらいにしか使わないものの、敵艦隊に近づいた時にはスラスターを吹かして進行方向を変えなければならないわけだ。


「ライオネス! 聞こえるか?」

「ヒロミチさん、どうかしましたか?」


 敵攻撃部隊と味方直掩部隊によるHuMo同士の戦場からはほぼ抜け出したようなタイミングで前方の飛燕から通信が入っている。


 だが、それは電波によるものではなく、レーザー光線によって行われる形式のもので私はいささか訝しんでいた。


 HuMo部隊の戦場からはほぼ抜け出したとはいっても完全に抜け出したとは言いかねる状況。


 HuMoやら何やらの残骸、破片も濃密ではないがあって、レーザーが遮られる可能性もあるのにレーザー通信とは一体、何事であろうか?


 レーザー通信といえば直進する性質上、傍受される危険が少ないのが利点であるが……。


「ちょっと先行する味方の通信を聞いていてちょっと気になったもんでな」

「はい……?」

「いやな、どうも俺たち以外の連中は艦内の戦闘で1回、死亡判定を食らった連中が多いみたいようだ」

「リスポーン組って事ですか。でも、それが何か……」

「何というか、雰囲気的な話になるんだが、どうもデス・ペナルティ食らって今まで発進できなかった連中が一発逆転狙って無茶するんじゃないかと思ってな」


 これは確かに味方とはいえ、そのリスポーン組には聞かれたくない話かもしれない。


 味方同士とはいえ私とヒロミチさんは中隊編成を行っているために部隊間の暗号通信を行う事もできるのだが、それでも情報解析能力に長けた機体がいれば解析されてしまう危険性もある。

 となれば、秘匿性の高いレーザー通信を使う理由も分からないではない。


「いざとなったら他の味方機は切り捨てるって事ですね!」

「いやいやいやいや! そこまでは言わねぇよ!? 何なら熱くなっちまってピンチになった味方を助けてもイベントの貢献ポイントはもらえるハズだ」

「なら何を警戒して……」

「味方が突っ込んでっても、あまり乗せられるなよって事だ。のこのこ後ろを付いてっても、そこは敵のキルゾーンって事もありえるぞ、こりゃ」


 なるほどと思って私は新たなウィンドウを1つ作ってそこに後方の味方艦隊を映し出す。


 敵の奇襲部隊の襲撃によって私たちの母艦ポチョムキンのみならず艦隊全体に被害は及んでいて混乱をきたしていたようだが、それも今はほぼ治まりかけている。


 ヒロミチさんの言う輪形陣の効果だろうか?


 大型艦部隊の上下に前後左右の小型艦の配置はいささかの欠損があってもなお効果的で濃密な対空砲火で上手く艦隊全体を守っている。


 奇襲を受け被害を受けたウライコフ艦隊ですらこれなのだ。


 これから私たちが向かう敵艦隊は仕掛けてきた側、混乱などあるわけもない。

 ウライコフ艦隊との砲撃戦で損害は受けているのかもしれないが、砲撃戦で戦闘の趨勢を決めきれないから私たち攻撃部隊がいるわけで、敵の輪形陣に上手く穴が空いていてくれるかもしれないというのは希望的観測が過ぎるだろう。


 つまりデスペナを受けて戦場に出るのが遅れた結果、功を焦ってしまった味方に釣られて迂闊な真似をしてしまえばデス・ペナルティの出撃制限を食らうのは今度は私たちかもしれない。


「それじゃ、俺はこの事をクリス隊とサンタモニカ隊にも伝えるから……」

「あ、ハイ」


 敵の対空網に迂闊に入るとヤバい。


 それは分かった。


 だが、そうなると私は何をすれば良いのだろうか?


 薄々とながら気付いてきているのだが、もしかして第一次攻勢部隊はそんなバッタバッタと敵の艦艇を沈める事は難しいのではなかろうか?


 敵輪形陣の外縁部の防空部隊に損害を与えて、穴ができれば大型艦に攻撃を仕掛けて、沈める事まではできないにしても対空能力だとか砲戦能力を奪うくらいの事しかできないのではという気がしてくる。


 だが「大型艦に攻撃を仕掛けて」とは言っても、きっと私とケーニヒスの得意とする格闘戦の役割ではないのではないか?


 ちょっとやそっとの対空網の穴でそう易々と懐に飛び込ませてくれるのだろうか?


 だが、私の考えに答えが出る前に黒い宇宙と白い星の宇宙に赤い光点がぽつぽつと姿を現す。


「敵……! 迎撃部隊!?」

「いえ、これは僕たちと同じ対艦攻撃部隊と出くわしたのでは?」

「対して変わらないでしょ!」


 赤い光点たちは今はまだ米粒のように小さくしか見えない。


 だが、それは今回のイベント用の敵、宇宙イナゴの機体が使う赤い噴炎のスラスターの色に他ならない。


 私たち攻撃部隊の道中はまだ往路の5分の1ほど。

 それを考えれば確かにマモル君が言うように敵の対艦攻撃部隊と進路がカチ会ったというのが正しいのかもしれないが、かといって自分たちの母艦を攻撃しにいく私たちを素通ししてくれるとは思えない。


「どうします?」

「どうしますって、戦うしかないでしょ! まさか、お互いの健闘を祈念して手を振り合いましょうって?」



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