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41 優先攻撃目標

 左右のフットペダルを踏み込む度に私の体は振り回されてシートに押し付けられる。

 シートベルトが無かったならば、天井に頭をぶつけていたかもしれない。あるいはフードプロセッサーに入れられた食材のように酷い有り様になっていたのかもしれない。


 だがペダルを踏み込み力に手心を加えてスラスターの推力を抑える気にはならなかった。


 つい一瞬前まで私がいた場所を敵機のライフル弾が駆け抜けていく。


 敵機が引く赤いスラスターの尾、「宇宙イナゴ」が使用するHuMoは敵専用の機体という事もあってかスラスターの噴炎が赤いのだ。


 その赤い尾と私のケーニヒスの青白い尾が交差するも互いのライフル弾は虚しく宙を切り、私が慌てて自機の四肢を振った慣性も使って反転すると、敵も緩やかながら反転しようとしていた。


「何やってんですか!? そのHuMoは接近戦用の機体でしょうが!! ぶつけてでも止めてくださいよ!!」

「相対速度が速すぎるのよッ!! そっちこそ手が止まってるわよ!?」


 敵が近づいてくるまではマモル君のニムロッドは敵のミサイルの迎撃のためにテンポ良く炸裂弾を吐き出していたものの、今はこちらの戦闘が気になってそれどころではない様子。


 幸い、敵機は反転している事からも分かるように私と決着を付けるつもりのようだし、他の敵機は私が散布した機雷原に飛び込んでしまい速度を殺されてしまったようだ。


 だが、スマートマインは少しでも広範囲をカバーしようと広く薄くの散布。

 それで敵機を撃破しきれるわけもなく、とっとと目の前の敵機を倒さなければ敵の数が増えて不利な状況になってしまうだろう。


 そんな事など分かっているのに先ほどの交差で敵に仕掛けられなかったのは、敵がこちらに向かって来る速度と、私の機体が敵へと向かっていく速度。その合成速度があまりに早すぎて接触してしまったならば、けして軽視できないような損傷を負ってしまうだろうと予感したからだ。


 サブディスプレーに目をやると、敵機は「ランク4 デック」と表示されている。


 ランクが2つも格下なのに随分と動きが良いのは敵が高機動タイプだからか、それとも私に比べて敵パイロットが宇宙での戦闘に慣れているキャラ設定だからか。


 だが、仮に敵が軽装甲の高機動タイプだろうと両機のスラスターを全開にした戦闘機動の最中に正面衝突してしまったならばただでは済まないだろう。


「手を貸しますか!?」

「いらないわよ!! ていうか、そっちも新手よ!! ミサイルと宇宙戦闘機ッ!!」

「ああ! もう!!」


 敵も私がしているように機体を前後左右にクルクル回りながらライフルの連射を浴びせてくる。


 だが先ほどから互いに命中弾が出ないのは、敵は低ランク故に、こちらは格闘戦機故に火器管制システムの性能が低いからだろう。


「なら……!」


 再び両機は接触しかねないようなコースを取って接近しはじめる。


 敵機はライフルを両手で構えている状態から、右手に持ったライフルをこちらへ向けたまま左手を腰の後ろへと回して鉈のように厚手のナイフを取り出そうとしていた。


 だが私にはその必要がない。

 私も敵と同じように接近戦を挑むつもりだが、ケーニヒスはそもそも格闘戦用の装備など持ってきていない。


 接近戦。

 だが、かといって馬鹿正直に敵とぶつかってやるわけにもいかない。


 この宙域で母艦から出撃できているHuMoは現状、私とマモル君だけなのだ。


 そんなつまらない事で機体を破損させるわけにはいかないと私は戦闘が始まったばかりながら秘策を使う事にした。


 敵が赤く赤熱したナイフを振りかぶる。


 その瞬間、私は操縦桿を使って機体各所のスラスターの推力線を変更。

 前進のみに推力を集中させ、フットペダルを一気に踏み込む。


「ッッッ~~~……!!!!」


 背筋に冷やりとしたものが走る。


 私は敵機のすぐ脇を通り過ぎるように機体を駆け抜けさせるが、もし敵が私の予想を外れた動きをしていたならば正面衝突してしまっていただろう。


 だが、賭けの第1段階には勝った。

 そう。まだ私の賭けは終わっていない。


「くぅぅぅぅぅ……!!!!」


 ジャイアント・スイングを駆けられてブン回された時だって感じた事がないような全身の血が偏って、頭から血が抜けていくような感覚。


 次第に頭に黒いヴェールでもかけられたかのように視界は暗くなっていく。


 だがブラックアウトの兆候に耐えきって私は成功した。

 急速旋回により私は完全に敵機の背後を取る事に成功したのだ。

 それも無理をしただけあって敵は手がすぐにでも届くような位置にいる。


 だがこちらは完全に速度が死んだ状態。それに対して敵機は私から距離を取る砲口に速度が乗った状態。


「逃すかッ!! マグネットぉッ! アンカァァァァァ!!」


 ケーニヒスの腰部の右から射出された電磁石の錨は狙い通りに食らいつき、超極細のワイヤーに塗られていた液体形状記憶合金が電気信号によって硬化、強度を増す。


 もちろん、それでもワイヤーが耐えられたのは1秒か2秒。


 それで充分だった。


 敵はワイヤーで引かれた事によって速度を殺され、逆に私は極短時間であっても敵に引かれた事によって速力を強奪したのだ。


「ふんッッッ!!!!」


 気合一閃、トリガーを引いて敵へ拳を叩き込む。

 ケーニヒスの拳は敵バックパックごと胸部を突き抜けて完全に撃破していた。


 そのまま力の抜けた敵機を蹴り飛ばして拳を引き抜くと、私の愛機の腕部はヌラヌラと滑る機械油で汚れている。まるで血のように。


 次の獲物を探そうとサブディスプレーに視線を落とすと、そのタイミングでレーダーマップに表示される情報量が増えた。


「ライオネスさん、援護します!」

「少しずつですが、格納庫にパイロットが到着しだしてます。ここは私たちに任せてライオネスさんとマモル君は優先攻撃目標へ!!」


 それは出撃したプレイヤーの搭乗機による援護であった。


 ドローンに追われて私やボリス大尉たちと合流したプレイヤーたちの1人は電子戦装置とミサイルを搭載した重武装タイプ、もう1人は軽機関銃を装備した細身の機体のようだ。


 2機はそれぞれ動き回れるような機体ではないが、だがカタパルトデッキのトンネルの出口付近で味方機の出撃の支援をするつもりのようで、彼らがいればマモル君がこの場を離れても問題はないだろう。


 電子戦装置によってレーダー画面はだいぶ情報量が増えて目標の取捨選択がやり易くなっているし、軽機関銃タイプも機体自体は細身なものの、膝撃ちの構えを取ると増加装甲が上手くHuMoの弱点を隠して継戦能力は高そう。


「了解ッ! それじゃこっちは傭兵らしく稼がせてもらうわ!」

「ライオネス聞こえるか!?」

「ボリス大尉?」


 黄や橙、赤、またはそれらの点滅によって優先度が指定されている攻撃目標。


 まずは手近な物から様子見していこうかと思っていたところ、艦内のボリス大尉からの通信が入ってきた。


「優先攻撃目標リストが更新された。特に最優先で破壊してもらいたい目標が2つある……」

「了解ッ!」

「まずはこれ……」


 マップ画面にボリス大尉が指示を出したポイントが一際大きな光点となって表示される。


 それは我らが母艦に取り付いた小型艇であった。


 すでに母艦に取り付かれてはいるがサイズ的にそう大した脅威にはならないように思えたが……


「コイツは艦内に対人ドローンを送り込んでいる艇だ。制御信号もこの小型艇から出されている」

「なるほど! コイツを潰せば……」

「そういう事だ」

「行くわよ! マモル君!」

「はいはい」


 目標はスラスターを吹かせばすぐ目と鼻の先とでも良いような近い距離。

 先ほど辛酸を舐めさせられた借りを返す機会がせっかく回ってきたというのに後回しにする道理はない。


 私がマモル君を引き連れて目標を向かい始めると、私を追おうとしていた敵小隊が味方機のミサイルと機銃の連射で爆散していく。


「……で、その次の目標だが……」

「どうしたの、大尉? まさか大怪我でもした!?」

「いや、そういうわけでもないのだが……」


 2つ目の攻撃目標として大尉が指定してきたポイント。


 珍しく言葉を濁す、というか言い淀んだ大尉を不思議に思いながらも自爆ドローンの制御艇を目指しつつ2つ目の攻撃目標を確認してみると、そこは宇宙空母ポチョムキンの艦橋であった。

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