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30 柱

 3人が敵襲の可能性について思い至った時、既に事態は手遅れの状況。


 いや、仮にキャタピラーが空間がぐにゃりと捩じれたのを視認した時点で光学迷彩を使用した敵の奇襲の可能性について指摘したとしても事態は何も変わらなかったであろう。


 これはそういうふうに仕組まれているイベントなのだ。


「きゃああああああああ!!!!」

「う、うわぁッ!?」

「な、何さッ!?」


 突如として彼らを襲う激しい揺れ。


 直下型の大地震にも匹敵する揺れに3人は耐えようなどと微塵も考える事ができず、むしろ揺れが始まってすぐに床に膝と手を付いて、それでも不燃性タイルがトランポリンになってしまったかのような感覚にさらにうつ伏せの状態になって揺れが通り過ぎるのをただ待つしかなかった。


 やがてやっと揺れが弱まりだしたかと思った瞬間、第2第3の揺れが来て、それからも断続的に幾度かの揺れが起こって3人もその他の展望デッキに来ていた者たちもこの悪夢のような時間をひたすら怪我をしないよう気を払いながら過ごすしかない。


「おい! 3人とも無事かッ!? そっちは!?」


 そして、やっと揺れが治まったかどうかというタイミングでけたたましい警報音が鳴り始めて非常事態を演出し、その大音量に負けないよう声を張り上げてゾフィーが3人や他の者たちへ声をかける。


 仮面の上からでも分かるほどに彼女の表情は緊迫したものとなっていて、普段ならば世の男性、いや例え女性であろうとも笑いかけられたら思わずドキリとさせられてしまうであろう魅力的な唇は今は固く結ばれて戦士のそれとなっていた。


 キャタピラーたちは揺れが治まった今でも、先ほどまでの揺れで感覚が狂わされてしまったのか、ゆっくりと立ち上がっても今だに床も壁も動いているかのような錯覚すら覚えているというのに、ゾフィーのすらりとした立ち姿は1本筋が通ったようにしゃんとしたもので、まさにパオングが憧れるカッコイイ大人の女性そのもの。


「皆、怪我は無いか!?」

「たたた、怪我は無いけど、酷い目にあったさぁ~!」

「おい……、あれ……」

「何……? 何なの、アレは……?」


 友人たちを代表してキャタピラーが無事をゾフィーに伝えた時、透明な建材で覆われた展望デッキの天井付近で鈍い音がしてゆっくりと装甲シャッターが降りつつあった。


 だが、パス太とパオングは未だ装甲のかけられていない箇所の外に、つい先ほどまで無かった巨大な柱のような物が聳え立っている事に気付いて、不安さを隠しきれない声を上げる。


「アレがさっきキャタ君が見た“ぐにゃり”の正体だよ。全領域迷彩を解除して突っ込んできたんだ」

「アレがッ!?」

「え!? まさか体当たり!?」


 宇宙空母ポチョムキン号へ突き刺さっている巨大な柱。


 ゾフィーはそれが“宇宙イナゴ”のステルス突撃艇なのだという。


 だが、その船体は異様に細長く、3人は柱が生えたと思ったほどで、その船型よりもことさら異様であったのは敵の戦術である。


 いくら宇宙艦艇としては小型の部類のものとはいえ、全領域迷彩でそこにいる事を悟られていない艦艇が、1発の砲火を放つ事もなく数十倍はあろうかという巨大な相手に体当たりを行うとは。


 キャタピラーたちにとっては敵兵や敵HuMoの姿すら見ていないというのに不気味さすら感じるような衝撃である。


「そのまさかだ。私もウライコフもサムソンもトヨトミだって、そんな事は考えないだろうがね。奴ら“宇宙イナゴ”はヨソ様の資源の強奪で活きているような連中なんだ。大方、この艦に歩兵を送り込んで占拠、ブン捕ってやろうって考えなんだろうさ」


 なるほど、ゾフィーからの説明を聞いてみれば一応は敵の戦術も理解する事はできた。

 とはいっても3人の胸に巣食っていた不気味さが澱となった黒い影を振り払うほどの納得ではなかったが。


 だが、言われてみれば敵のやたらと細長い突撃艇とやらは治安の悪いアフリカ沿岸やら東南アジアやらの漁船を改造した海賊船に似ているのかもしれない。


 その場合、ハイパワーのエンジンを積んだだけの雑な改造を受けた海賊船に襲われる哀れな商船の役は彼らが乗るポチョムキン号という事になるのだろうが。


「それじゃ愚図愚図していないで、とっとと行くぞ!?」

「い、行くってどこへ!?」

「格納庫だよ! 君たちだってHuMoのパイロットなのだろう? まあ、HuMoを駆って戦うより、生身で艦内の戦闘に加わる方が役に立ちますって言うのなら、むしろそっちをお願いしたいくらいだがね」

「いやいやいやいや!!」


 冗談だとは分かっているが、それでも全力で否定したくなるような冗談であった。


 初手艦艇での体当たりから敵艦に乗り込んできて制圧なんてぶっ飛んだ戦法を取ろうという敵と生身で戦うだなんて3人にとってはそれ以上に遠慮したくなるような事は他にない。


 第一、ゾフィーが敵の戦術を知っているという事は“宇宙イナゴ”とやらはそのような戦法が常套手段なのだろう。


 つまり敵艦へ乗り込んでの戦闘に適した装備を十二分に用意しているハズ。

 対して3人が持っている武器といえば、ゲームを始めた時には既に持っていた初期装備の拳銃が1丁に予備の弾倉が2つずつだけ。


 拳銃1丁で、恐らくはボディアーマーを着込んで艦内戦闘に適した火器、アサルトカービンやらサブマシンガン、ショットガンなんかを装備している敵と戦おうなど自殺行為でしかない。


「わ、わ~たちもHuMoに乗って戦うさ~!!」

「良し! 君たちはライオネスさんたちとチームを組もうって予定だったんなら機体は第8格納庫だな。私の“とっておき”もだ! 旅は道連れといこうじゃないか!?」


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