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17 決別

 何が何だか分からない。


 陽気な少年という印象であったキャタ君もパス太君が、斜に構えてそんな感情を前面に押し出してくるとは想像もできなかったパオングさんも嫌悪感を剥き出しにしてクリスさんを睨みつけている。


「なんで……、なんで栗栖川先生がこんな所にいるのさぁ」

「なんでって土日はハロワも休みだからな」


 一方のクリスさんは傍から見てるこっちまで背筋が寒くなるような冷たい視線で3人を見据えていた。


 キャタ君が言う「栗栖川」というのがクリスさんの本名なのだとしたら4人は現実の知り合いなのだろうか?


 いずれにしてもゲームの世界の彼らしか知らない私からすればキャタ君たちもクリスさんも人当たりの良い者たちなのだが随分と険悪な関係のようである。


「おいおい、ライオネス~。仲間にしたいって奴らはコイツらの事か~? こんなん何の役にも立たねぇよ」


 クリスさんはキャタ君たちに対して話す事もないとばかりに私に向き直る。

 だが、その声の大きさは私に対してだけではなくキャタ君たちにも聞こえるように言っているのは間違いない。


 どうしたものかとクリスさんの婚約者であるヒロミチさんの顔色を窺ってみると彼も事情を知っているようで「あちゃ~……」と額に手を当てて困り顔。


「ああ、そういう事……。ライオネスさん、ホワイトナイト・ノーブルに雪辱を晴らすって集めたお仲間さんに栗栖川先生もいたって事?」

「え、ま、まあ、大まかなとこは……。よ、4人ともちょっと冷静に、ね?」


 3人組とクリスさんとの間に漂う空気は剣呑そのもの。

 マモル君なんかはぴったり私の後ろに隠れているほどだ。


 そんな雰囲気の中でも彼らの過去に何があったのかさっぱりで私の頭はどうしたものかといっぱいいっぱいなのだが、そんな中で何かを察して口を開いたパオングさんの口から出てきたのは白騎士の王の名であった。


 その言葉を聞いて何故かゾフィーさんまでピクリと反応を示していたものの、こっちは4人を宥めるので精一杯でそちらまで気が回らない。


「栗栖川先生、私たちの事を役に立たないだの言ってくれてますけど、それじゃあ自分はどうなんです?」

「……チィ」

「あんだけコテンパンにやられておいて恥って概念は無いんですか? それとも健忘症か何かで? 良いお医者さんを紹介しますよ?」

「こン餓鬼ぁ……」

「ちょ! パオングさんも、ね?」


 貴女、そんなに他人を煽る人だったの? というくらいにパオングさんはクリスさんに言葉の弾丸を撃ちまくり、それに対してクリスさんもいい歳した大人なんだから受け流せばいいものを眼輪筋をピキらせて怒りを隠そうともしない。


 そして、あまりの怒りに耐えかねたのかクリスさんの手が動いた。


 それが前に出ようと腕を前に出そうとしたのか、それとも腰の拳銃のホルスターに手を伸ばそうとしたのかは分からない。


 だがどちらにしろマズいと慌てて彼女の両腕を抑えて止めると、その私の背後から3人組の声が聞こえてきた。


「悪いけど、ライオネスさん。小隊の話は無かった事にしてほしいさぁ~」

「そういう事で」

「それじゃあね……」


 何でこんな事になってしまったのだろうか?


 背後から聞こえてくる軽い足音が離れていくのに私は慌てて3人と話をしたいと駆けだしていた。


 だってそうだろう。

 私はクリスさんともキャタ君たちともそんなに長い付き合いというわけでもない。

 それでも彼らの事は好ましく思っている。


 そりゃ世の中、皆仲良くだなんて綺麗事だっていうのは分かっているけれど、それでも世の中綺麗な方が良いに決まっているだろう。


 今回のイベントのチームだの小隊だのという事はひとまず置いておいて、4人の中を取り持つ事ができれば理想形だし、それができないにせよ彼らの仲が悪い理由が納得できれば私だってもう何も言わない。


 いずれにせよ私は話がしたい。


 そう思って小走りで去っていく3人の背を追って駆けだしたのだが、私は何でキャタ君たちが歩幅の小さな小走りなのかを考える余裕は無かった。


「ちょっと! 3人とも!? って、きゃっ!!」


 大きく脚を出して床を蹴り、走り出したその直後、追い風を受けているわけでもないというのに私の体は思っていた以上の加速に壁に顔面から飛び込んでいた。


「大丈夫ですか?」

「…………」

「本艦の人工重力区画は0.8Gとなってますので、慣れない方はいきなり走らない方が良いと思いますよ」


 乗組員のNPCだろうか?

 その者の顔は激痛によって涙ぐんでしまっていたがために見る事は叶わなかったが、慇懃な口ぶりながら呆れたような声からどのような表情をしていたかは見なくとも分かろう。


「3人の事は私に任せてくれたまえ!」


 うずくまって鼻を抑える私の肩を叩いてから駆けだしていく足音。

 その声の主は他の誰でもない。NPCのゾフィーさんであった。


 まあ、動きだした私は顔面強打で足を止め、中山さんはどうしたものかとおろおろしており、クリスさんに至ってはキャタ君たちがいなくなってせいせいしたと言わんばかり。ヒロミチさんもクリスさんの怒りの原因が遠ざかってホッとしているくらいだ。


 後を追ってくれるのは人の良いゾフィーさんしかいなかったというのも納得である。


 幸い、未だ私たちが乗り組んでいる宇宙空母は乗員の搭乗中。

 戦闘開始までゲーム内時間でも数時間はあるので痛みが収まってからでも後を追う余裕はあるだろうと今はゾフィーさんに3人の事を任せるとしよう。

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