14 どこの艦隊へ?
「ところで心の中に中学二年生を飼っているウチの馬鹿はさておいて、ここ、見ました?」
わしわしと頭を撫でられて髪型がぐしゃぐしゃになったマモル君は恨みがましい目を私に向けながら話題を切り替える。
「ええと、何々? 『フレンド間で最大12名(ユーザー補助AIを含まず)の小隊を編成した状態でイベント参加申請を行う事で同じ母艦に配属される事ができます』?」
「それじゃ、皆で小隊組んで一緒に参加しようさ~!」
「ちょっと! それじゃライオネスさんたちに迷惑がかかるんじゃ……」
次回の宇宙戦イベントではそれぞれプレイヤーが選択した勢力の航宙艦を母艦とし、中立都市のガレージから一時的に拠点を移す事になるようだ。
フレンドで小隊を編成して母艦を同じにしておけば、色々と融通が利く事もあるのだろう。
それを聞いてキャタ君はここにいる皆で小隊を組んでいこうと提案するものの、パオングさんは遠慮しようとしていた。
何でも彼ら3人はゲームができる時間が限られるという事もあり、イベントに参加できる時間が少なくなることで戦力が低下する事を危惧しているようだ。
「別に構わないと思うのだけど、サンタモニカさんはどう?」
「ええ。もちろん構わないでごぜぇますわ!」
「ほら~、2人も良いって言ってるんだし、ここは甘えさせてもらうさ~!」
「……そういう事なら」
キャタ君たち3人はゲームをプレイできる時間は限られるだなんて言うが、私とサンタモニカさんだってそれは同じ。
というかゴールデンウィーク目前とはいえ、私だって中間テストに向けてそろそろ勉強しなきゃいけないのだから大して変わらないだろう。
「済まんのう……。儂は週末は老人会の温泉旅行が入っとってのぅ」
「そもそも大叔父様の事は誘ってませんわ」
「酷いのう」
「あ、どうせ使わないのなら、ニムロッドのU2型を貸してくださいませ」
「……それは良いが、他人から借りた機体じゃと、借りた機体の貢献値の3割は貸主の方に加算されるぞ?」
せっかくフレンドになったばかりのだいじんさんが参加できないのは残念だが、旅行が入っているのならしょうがない。
だが、そのおかげで中山さんが頭を悩ませていた宇宙に持ってくHuMoが無い問題は解決したようだ。
中山さんとしても貢献地の3割を持ってかれるのは苦しいだろうが、クレジットを温存しておきたい考えのようである。
「ええと、私、サンタモニカさん、キャタ君、パオングさんにパス太君。プレイヤーが5人だとまだ誘えるわね」
「ヒロミチお兄さんとかも誘ってやったらどうじゃ?」
「それもそうね。あとマーカスさんも」
ヒロミチさんとクリスさん、それにマーカスさんを誘っても8人。
あと4人まで誘えるのだが、生憎と皆、他には誘うあても無いようだ。
それよりも何でかキャタ君たちは私がマーカスさんを誘う事に付いて気になっている様子。
「え……? ライオネスさん、マーカスさんを誘うつもりさぁ?」
「ええ、そうよ。ああ、パオングさんとパス太君は知らない人だから心配? 大丈夫、見た目はくたびれたオッサンだけど、意外とやる人だから」
「いや、マーカスさんってあのマーカスさんよね?」
「別にあのオッサンが戦力になるか心配ってわけじゃねぇんだけど……」
意外にも難民キャンプでの戦闘で面識のあったキャタ君以外の2人もマーカスさんの事は知っていて驚いたが、彼らが気にしているのはどうもそういう事ではない様子。
「ライオネスさんの目的ってホワイトナイト・ノーブルに勝つ事だったさぁ?」
「ええ、そうよ。……ああ、もしかしてマーカスさんにおんぶにだっこで腕を磨けるのかって?」
「いや、そういうわけじゃないというか……」
「うん。なんというか……」
私の言葉を聞いて言葉を濁しながら3人はチラチラと互いに目配せしながらも何か言い辛そうにしている。
まあ、言わんとしている事は分からないでもない。
要するにキャタ君たちは私がホワイトナイト・ノーブルに勝つつもりでいる事を大言壮語の妄言だと思っているのであろう。
もしくはあまりに現実味の無い話に冗談なのか本気なのか判別付けかねているといったところか?
そりゃ私には「コックピットを潰してパイロットを倒す」だとか「本来のパイロットであるカーチャ隊長が乗っていない以上はノーブルの性能を100%活かす事はできないだろう」とか考えている事はあるのだけれど、今は敢えてキャタ君たちには何も言わないでおく。
未だ機来たらず。
ノーブルのHPがいかに多かろうがコックピットを潰してパイロットを殺せばそれでおしまい、だがノーブルの懐に飛び込むまでの策は無い。
ノーブルを奪ったパイロットがノーブルの性能を100%活かす事はできないにしても、それでもノーブルの性能と火力は脅威的。
今、何かを語れば多分に希望的観測や嘘が混じって私の言葉の真実が薄れてしまうような気がするのだ。
私は話題を変えて胸の奥の闘志を隠しておく事にした。
「ヒロミチさんとクリスさんは会った事は無いと思うんだけど、こないだのバトルアリーナイベントで対戦はしたから実力は知っているでしょ?」
「ああ、烈風とカリーニンの?」
「そうそう」
私がヒロミチさんたちに話題を変えた事でキャタ君たちもほっとしたような顔をしている。
「で、どこの勢力に加わるかなんだけど……」
イベントの告知ページにはそれぞれ三勢力の艦隊の特徴が書かれていたが詳細は実際に見て確かめろといった具合に端的なもの。
・サムソン艦隊:各艦の火力と索敵通信能力が高く、手厚い援護が受けられます。
・トヨトミ艦隊:他勢力よりも艦隊の艦隻数が多く、損害をカバーしやすいです。
・ウライコフ艦隊:エンターテイメント性が高いです(笑)
こんな具合に具体的な事は良く分からないが、サムソンとトヨトミの艦隊についてはそれぞれのHuMoの性能と似通った傾向なのだろうと予想は付く。
サムソン艦は性能が高く。トヨトミ艦は小型のものが多く、代わりに数が多いのだろう。
となるとだ……。
「私、なんか凄い気になる勢力があるのだけど……」
「ええ、私も……」
「“釣り”ってやつかしらね?」
「まあ、気になったら行って確かめてみたらいいさ~!」
「だよな! 実は俺もすげぇ気になってた!」
私はどことは口に出さずにタブレット端末を皆の中間に出し、一指し指を上げてからゆっくりと画面に向けていくと皆もそれにならって人差し指を出し始める。
「それじゃ、せ~ので……、せ~の!!」
プレイヤーたち5人が指し示したのは全て同じ。
それを見て補助AIの皆もやいのやいの騒ぎ始めた。
「ウライコフ!? 揃いも揃って馬鹿なんですか!?」
「HAHAHA!! 良いぜぇ! こんなん気になってしょうがねぇわな!!」
「まあ、確かにこんな書かれ方をされたら気になっちゃいますよね」
「でも、これ、アレでしょう? イベント告知にこう書くって虎さんでしょ?」
実の所、私もそう予想していたのだけど、マサムネさんの言葉で確信に変わる。
「エンターテイメント性が高いです(笑)」って何だよ!?
姉さん、もっと真面目に仕事をしてくれよ……。
(笑)を付けるな、仕事で。
そんなん書かれてもまったくもって何があるか予想の付けようも無いのだけれど、β版経験者であるだいじんさんとマサムネさんにはいくつか思いつく事があった様子だ。
「エンタメ性のう……。こりゃ単純に敵が強いとか数が多いとかそんなんじゃないだろうな」
「ええ、何かしらシナリオの流れで他とは違う変則的な戦闘になるのかもしれませんね」
「こう、虎Dの色が出ているとなると……、鬱シナリオではなく、プレイヤーの実力や努力しだいでどうとも転がるようなタイプのかの?」
これもいわゆるメタ読みというヤツなのだろうか?
2人は過去のイベントから色々と考えていたが、宇宙戦イベントがβ版時代は存在しなかったという事もあってかさすがに読み切れはしないようだ。
「まっ、どんな事があるのかは分からんがの、『CODE:BOM-BA-YE』が使えるようになって損は無いハズじゃ。そろそろ特訓を再開しようかい?」
「げっ……」
何のとっかかりもない掴みどころすら見つけられない不毛とも思える特訓の再会が告げられ、つい私の口から声が漏れてしまう。
そもそも模擬戦を繰り返して、本当に例の特殊コードが使いこなせるようになるものなのだろうか?




