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13 宇宙戦に向けて

 新イベントの告知に対して私の周囲の人たちの反応は様々であった。


「へぇ~、宇宙? 面白そうじゃない?」

「俺もイベントに合わせて何か新しい機体でも買おうかな!?」

「わ~も楽しみさ~!」


 パオングさんにパス太君、キャタ君の3人組はノリ気。

 それぞれタブレット端末を操作してイベントの情報を漁っている。


 中でもランク5の機体である「ロジーナ」を購入したばかりのキャタ君は新機体を活躍させる機会がさっそく来たとばかりに張り切っていた。


 だが、私としてはそのロジーナにはいささか不安を感じてしまうのだが。


「ええと、キャタ君? ロジーナのパイルバンカーなんだけど、前に乗ってたズヴィラボーイに装備していた物を換装してみたらどうかしら?」

「ふぁ!? ライオネスさん、何て事をいうさぁ~!? 積載量が上がって大型のパイルバンカーを装備できるようになったのがロビちゃんのウリなのに!?」


 先の模擬戦では私の特訓が目的であったためにキャタ君も援護に徹していて使う機会は無かったものの、ロジーナの左腕に取り付けられた杭打機はズヴィラボーイに装備された物と比べても1周りか2周りほど大型のもので、見るからに大重量の物。


 当然、その威力も凄まじいのだろうし、杭の長さからリーチも幾らか伸びてはいるのだろうが……。


「重量面ならパオちゃんのオライオン・キャノンの方がまだ重いハズさ~」

「いえね。機体重量っていうか、機体の左右の重心はどう?」

「じゅ~しん?」


 実の所、キャタ君が言う機体重量の面については私は心配していない。

 というかロジーナの事は私はよく知らないので心配のしようがないといった方が良いだろうか。


「普段の陸上での戦闘なら地面もあるから心配いらないのかもしれないけど……」

「え? もしかしてスラスター吹かしたが最後、駒みたいに周り始めるってオチ?」

「さすがに機体のバランサーがそんな事にならないようにスラスターの推力を調整してくれるでしょうけどね」

「なるほど、0Gの宇宙空間では真っ直ぐ進むために重い側のスラスターを強めて軽い側を弱める必要があるから、あまりに重心位置のバランスが悪いと推力を活かせないと?」


 私が何となく思っていた事をパオングさんが言語化して言ってくれたので頭の中で靄が晴れたような気がした。


 ああ、そうか。

 そういう理由で重心位置を機体中心位置に近づけた方がいいのか。


 軽食を終えて来たる新イベントの話題になったとみてマサムネさんが持ってきてくれたフライドポテトを摘まみながら話は続く。


 新イベントの報に盛り上がっていたキャタ君たちとは対称的に渋い顔をしていたのが中山さん。


「イベントに持ってく機体がありませんわ……」

「そうよねぇ。サンタモニカさんとこで普通に使えそうなのは紫電改くらい?」


 現在、中山さんが保有しているHuMoはコアリツィア、紫電改、双月カスタムⅡ、雷電陸戦型カスタムⅠ、雷電重装型、ライトニングの6機。


 だがイベントの告知でも例として挙げられたように雷電陸戦型は宇宙に持ってくとランク1雷電と同様の性能になってしまうらしい。

 バトルアリーナイベントの勝利数報酬のライトニングもほぼ雷電と変わらない物。


 また積載量を確保するために下半身が戦車の車体のような履帯式となっている雷電重装型も宇宙で戦うイメージが思い浮かばない。


 双月は両肩部の先に取り付けられたターボプロップエンジンなどは宇宙に持っていってしまえば無用の長物に過ぎないだろう。


 バトルアリーナイベントの上位入賞報酬のチケットで交換したばかりのランク6コアリツィアも8本脚の機体と宇宙空間で運動性が著しく落ちてしまうのではないだろうか?


「でも動きが鈍くなってもコアリツィアは長距離砲戦機だし使いようはあるんじゃない?」

「そうですわねぇ……。あと1機なんですが、コアリツィアの装備品が思ったよりも高くて……」

「なるほど、ランク6か、せめてランク5の機体が欲しいところよねぇ」


 ジーナちゃんが乗るコアリツィアはそれまで彼女が乗っていた雷電重装型に比べても大量の火器を搭載されている。


 武装もランクが上がれば上がるほど価格が跳ね上がっていくのでコアリツィアの装備品だけでもランク6のHuMo本体が買えるほどのクレジットを使っている中山さんのお財布事情は厳しいのだろう。


 かといってここでランク4あたりの機体を購入してもすぐに陳腐化してしまうのではないかと彼女は危惧しているのだ。


「お姉さん、お姉さん、さっきの機体の重量バランスの件にも関わるんですけど、ニムロッド用の盾を買ってくださいよ」

「良いわよ」


 思案に暮れて中山さんの言葉が少なくなったタイミングを狙ってマモル君が切り出して来る。


 どうも前から狙っていた物があったようで、私からタブレットを受け取るとすぐにブックマークしておいたページを開いて返してきた。


 そこに表示されていたのは小型の盾で、横に並べていたニムロッドの比較CGを見るにその盾を装備しておけばライフルを両手で構えた時に丁度コックピットの辺りを守る事ができるようだ。


 逆にいえば小型故にコックピット以外は守れないが、継戦能力よりも自分の身の安全を重視するのがなんともマモル君らしいとクスリと笑いながら私はそのまま購入決定ボタンをタップする。


途中で体調不良で抜けてしまったとはいえ、ケーニヒスの武装はジーナちゃんのコアリツィアよりも遥かに少ない。結果的に言えば今の所のお財布事情は温かい。

このくらいは即決で買っても平気なくらいだ。


「ありがとうございます!」

「いいわよ、このくらい別に……」


 実の所、私にも懸念点があったのだが、それはニムロッドに対してではない。


 ニムロッドは優等生的な汎用機らしく宇宙への適性も高い。

 確か発売予定であるマートレットのプラモデルの作例として模型雑誌に掲載されていたジオラマの画像では宇宙空間で宇宙ステーションを警備するマートレット部隊の指揮官機としてニムロッドも写っていたっけ。


 あのニムロッドはマートレットのキットを改造した物と注釈があったが、その記事には運営であるVVVRテック社が監修していたハズで、その記憶が確かならばニムロッドの宇宙適性は運営のお墨付きといってもいいだろう。


 問題は私のケーニヒスだ。


「ところでだけど、宇宙を飛び回る敵機を相手に格闘戦って挑めるもんなのかしら?」


 不意に切り出した私の言葉を聞いて皆の反応はほぼ同じ。


 最初はきょとんとしてから私の言わんとしている事を理解してから首を傾げたり眉間に皺を寄せたり。

 言葉にはしないものの否定的な感想を持っている印象。


 まあ、私だってさすがにどうなのかと思うくらいだ。


「お姉さん、前に『私の前で膝を付いたらオシマイ』とか言ってませんでしたっけ?」

「そ、そこまで言ってたかしら?」

「で、何でしたっけ? シャイニング……?」

「シャイニング・ウィザード」

「まあ何でもいいですけど、それ、宇宙でもできます?」


 マモル君の「お前は馬鹿なのか?」という勝ち誇った顔は癪に障るが言わんとしている事は分かる。


 地面に膝を付いても何も、宇宙には膝を付く大地が無いのだ。


「あとアレ、何でしたっけ? 相手の顔面を抑えながら足をかけて転ばせて後頭部を地面に叩きつけるの」

「STRよ! S・T・R!!」

「Sって?」

「スペース! スペース・トルネード・ライオネスよッ!!」

「へぇ。良かったですね、ホントに宇宙で使う機会があって。 ま、頑張ってくださいよ、スペース・トルネード……」


 そこまで言うと堪えきれなくなってマモル君は腹を抱えて笑い出してしまった。


こういうのも誘い受けというのだろうか?

さすがにイラッとした私はマモル君の髪型がぐしゃぐしゃになるくらいに力強く彼の頭を撫でまわしてやる。


とはいえ、彼の言っている事もまるきり的外れというわけではない。


「……となると、隙を見て一気に距離を詰めて殴りかかれという事ね!」


 幸いにして私のケーニヒスには増加スラスターも取り付けられている。相手次第ではあるが距離を詰めるだけなら可能だろうし、前後方向だけではなく左右方向へも推力を向けられるケーニヒスは宇宙空間での回避にも役立つだろう。


 ライフルはニムロッド以下のFCS性能しか持たないがどうだろうか?

マグネット・アンカーは役に立つ気もするがスマートマインレイヤーはどうだろう?

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