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10 CODE:BOM-BA-YE発動できず!

 トクシカさんとこの試乗会での襲撃、その後にガレージに戻ってきてから2対2の模擬戦を行った月曜日の翌日。


 私たちはだいじんさんに連れられて山奥のとある施設へと来ていた。


「う、うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!?」


 突風に吹かれた新聞紙のように私のケーニヒスのすぐ横を紫電改が吹き飛ばされていく。


「パス太君ッッッ!?」

「そんな機体では賑やかしにもなりませんよ? ……それに」

「くっ……!!」


 あっという間に目の前に迫ってきていた白い機体の速度に圧倒されるものの、側面から援護射撃を行なってくれたキャタ君とマモル君のおかげでなんとか私も態勢を整える事ができた。


「おっと、邪魔が。けど残念ですね……」

「な、7対1だってぇのにッ!!」

「今日の主役は貴女なんでしょう? ほら、早く見せてくださいよ! 『CODE:BOM-BA-YE』を!!!!」


 白い機体、ホワイトナイトを駆るマサムネさんが私を煽るも、私には歯噛みしながらトリガーを引く事しかできないのがもどかしい。


 このマサムネさん、姉さんの所のマサムネさんではない。


 だいじんさんに連れてこられた「VR療養所」なる施設の職員であるらしく、そしてβ版時代にだいじんさんのユーザー補助AIであった個体でもあるらしいのだ。


 昨日、だいじんさんから「CODE:BOM-BA-YE」なる特殊コードの存在を聞き、さらに詳しい情報を得るために私とマモル君、そして中山さんたちはVR療養所のマサムネさんの元を訪れていたのだった。


 そこでキャタ君と再会し、バトルアリーナイベントでも対戦した彼のリア友でもあるパス太君、パオングさんとチームを組んでマサムネさんに模擬戦を挑んでいるというわけ。


「ライオネスさん!!!!」

「巻き込まれても知らないわよ!!」


 至近距離といってもいいような距離から放たれたライフルの連射は白騎士に掠りもせず、ならばと通信で入ってきたジーナちゃんとパオングさんの声に合わせて後退。


 後方のだいぶ距離の離れた場所から飛来してきたコアリツィアとオライオン・キャノンの砲弾をもマサムネさんのホワイトナイトは掻い潜り、さらに右方向からのニムロッド・カスタムとロジーナ、左方向の紫電改の十字砲火も躱しきって私に迫ってくる。


「くっ! 調子に乗ってくれちゃって!!」

「そりゃあ、こんな良い玩具(オモチャ)を渡されたなら、調子にも乗るでしょう!! それで貴女はどの程度の玩具なのか、早く教えてくださいよ!!」


 マサムネさんとはこれほどまでに強力なパイロットであったのか。


 私とマモル君、キャタ君にパス太君とパオングさん、さらにトミー君とジーナちゃんの7人がかりだというのに彼の白騎士はただ1発の被弾すらしていないのだ。


 繊細かつ大胆。

 16m級の巨人を操っているにも関わらず数cmにこだわるかのような足捌きに、機と見れば一気に詰めてくる決断の早さ。


 それは姉さんとこのマサムネさんと同様であったが、βテスト時代を戦い抜いてパイロットスキルの育った個体は取り付く島が無いというほどに強力であった。


 そしてついに長距離砲撃と十字砲火の雨霰を抜けてきた白騎士がケーニヒスの眼前にビームソードを突きつける。


「やられた!」そう思った時には白い騎士然としたHuMoは姿を消し、慌てて彼の姿を探すと、いつの間にかホワイトナイトはケーニヒスの背後にいて背部へ光剣を突きつけていたのであった。


「……っっっ!? も、もう1本!!」

「ええ、どうぞ。今度は負ける前に『CODE:BOM-BA-YE』を発動できるといいですね」

 ………………

 …………

 ……




 砲声と地響き、それらに負けないくらいの歓声の中、老人と少女は遠くで行われている模擬戦の様子を双眼鏡で窺っていた。


「モニカちゃ……、サンタモニカちゃんは混じらんでいいのか?」

「ええ。雷電陸戦型や双月では性能差が大きすぎて足を引っ張るのではないかと」

「そんなら儂の建御名方を貸してやろうか? アレが気に食わんならセントリーでも借りてきてやってもいいぞ?」


 まるで積み木を乱雑に積み上げたような療養所の中層階。

 この場所の守護神とも呼べる白騎士が活躍を見せるたびに周囲の子供たちはスポーツを観戦しているかのように歓声を上げる。


 そんな子供たちの後ろ。

 老人と少女は壁面に背をもたれかけさせながら模擬戦の推移を見守っていた。


「大叔父様はどうなのでごぜぇますか? 久しぶりに元担当さんと戯れてきては?」

「いや、儂はいい……」


 口ではいいと言いながらも老人は遠くへ寂しそうな羨ましそうな視線を送っていた。


 それは美学であった。


 綺麗に終わらせた思い出を終わったままにしておきたい。


 老人はβテストが終わり、正式サービス版が始まった今でも自身の担当はあのマサムネしかいないと思っている。


 βテスト時代に「CODE:BOM-BA-YE」について幾度も運営の上級AIへ問い合わせ、自分以上にかの特殊コードについて詳しい彼の元へ後進を連れてくるところまではできても、ライオネスたちに混じって模擬戦に参加するというのはできなかった。


「……そうですか」

「何じゃい。儂とサンタモニカちゃんとの間じゃろ。とっとと本題に入ったらどうじゃ?」


 綺麗に言ってしまえば美学、ありていに言ってしまえば意地を張っているのを悟られるのではないかと老人は話題を変えさせる。


 少女は低ランクの機体しかないからと模擬戦へと参加を見送っていたが、多対1という状況ならば低ランクの機体でもいればそれだけ弾幕を密にする事ができるだろう。そしてそれを分からないような子でも、遠慮するような子でもない事は老人も良く知っていた。


「とりあえず、大叔父様とライオネスさんが使う特殊コードとやらがチートには当たらないのは分かりました。ですが……」

「おう、やはり話があったから、わざと模擬戦には参加しなかったんじゃな」


 老人の「本題に入れ」という言葉に対して少女は言葉を選びながら切り出す。

 それはとても話の本題とは思えない事から始まったが、言い辛い話だからというよりはサンタモニカの中でもまだ上手くまとまっていない話なのだろう。


 昨日、ライオネスは自身も「CODE:BOM-BA-YE」を使っていると告げられて、老人が知る限りの情報を伝えられた後、自身の補助AIであるマモルを通じて幾度もそれがチート行為に該当しない事を確かめさせていた。


 まず「私は『CODE:BOM-BA-YE』と呼ばれる特殊コードを使用しているのか?」という問いに対して上級AIの返答はYES。


 続いて「『CODE:BOM-BA-YE』はチート行為には該当しないのか?」という問いに対してはチート行為には当たらないというお墨付きを得られたものの、それで彼女は納得する事なく「その返答はβテスト時点の判断ではなく、現時点での最新の判断か?」「その他に私は何かチート行為をしている事はないか?」などマモルが辟易するほどに繰り返し上級AIへと問い合わせを続けていた。


「それにしても笑ったのう! 自分の肉体のようにHuMoを操っておいて『ここぞという時の集中力が凄いんだと思ってた』だなんてのう」

「あら、大叔父様の時は違ったんでごぜぇますの?」

「そら、そうじゃろ? 自分の視界が360度になって、頭の中にレーダーやらセンサー類の情報も浮かんできたら誰だって気付くわい!」


 βテスト時代、老人も昨日のライオネスのように自身の担当補助AIに何度も上級AIへと問い合わせをさせたものだが、両者が決定的に異なっていたのは特殊コードが発動した際にそれを自覚していたかどうかである。


「じゃから長引くかもしれんのう……」

「どういう事ですの?」

「儂の場合はどういう時に『CODE:BOM-BA-YE』が発動したか自覚しておったからな、訓練でそういう時の精神状態に持ってく事ができたんじゃが……」

「ああ。ライオネスさんは自覚できていないから、どういう精神状態の時に発動するか分かっていないから気持ちの持っていきようが分かっていないと?」


 だいじんとライオネス、両者の違いはもう1つ。

 老人が発声というルーティーンを経る事によって自身の精神状態を操作し、意図的に「CODE:BOM-BA-YE」を発動させる事ができるのに対して、ライオネスはそれができないという事。


 ライオネスにもその極意を悟らせるために老人はβテスト時代に自身のすぐ隣にいて、ある意味では老人以上に特殊コードの事を良く知るマサムネの元を訪れたのであった。


 だが、その首尾は今のところ芳しくない。


「むしろ逆効果じゃったかもしれんの……」

「ええ、実は私もそう思っていました」


 確かにパイロットスキルの育ち切ったマサムネにホワイトナイトは鬼に金棒という言葉がピッタリ。

 だが、ライオネスとはそのような強敵にこそ喜々として挑んでいく者ではなかったか?


 サンタモニカは思う。

 老人の言葉に嘘は無いだろうし、ライオネスという人物が強敵相手に根を上げる事もないハズ。


 だったらマサムネが駆るホワイトナイトを相手に飢えた野良犬が肉塊を見るが如くに脳内物質を垂れ流しにして特殊コードを発動させてもいいだろうに、それができない。


「サンタモニカちゃん、幼稚園の卒園式の事を覚えとるか?」

「さすがに昔の事ですのであやふやではごぜぇますが」

「それじゃ入場の時に緊張のあまり右脚と右手が一緒に前に出て普通に歩けんかったのは?」

「……覚えてませんが、言いたい事は分かります」


 極度の緊張で頭の中がこんがらがっていつもできていた事ができない。


 老人が例に挙げた歩き方もそうであろうし、他にもスキップや自転車の乗り方など、よく人の笑い話のネタにされるようなほどで枚挙にいとまがないだろう。


「まったく、どうせあの子も儂とおんなじで頭蓋骨の中身は筋肉だろうに、脳味噌なんて無いんだから変に考えずに思うがままにやればいいのに」

「あら? そんな馬鹿にされては困ります」


 そこまで話が進んでやっと少女は本題だとばかりにもたれかかっていた壁から背を離して老人へと向きかえる。


「あん……?」

「大叔父様、実は私もその……、HuMoが自分の体のようになった感覚を味わった事があると言ったら、どう思います?」

「え……?」

ロジーナってのはキャタ君が新しく買った機体ね。

その内、説明入ると思います。

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