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8 明かされる真実

「……何か言い残す事はごぜぇませんか?」

「しゅいましぇん。ちょっとだけ調子こいてしまいました……」


 既視感(デジャ・ヴュ)を感じる光景。


 意気揚々とドヤ顔で私のガレージへ現れただいじんさんは中山さんによってコンクリートの床に正座させられている。


 先ほどと違うのは老人の頭上には死亡判定を受けた後のデスペナルティーである「医療経過観察中」というメッセージウィンドウが浮かんでいるくらいか。


「いや、でも、ほら! 昨日、モニカちゃんもライオネスさんの目標はホワイトナイト・ノーブルを倒す事だって言っとったじゃろう?」

「ちょっと待ってサンタモニカさん。だいじんさんもさっき言ってたけど、つまりノーブルとそのパイロットにはあの自爆技が通用しなかったって事?」

「そういうこった。清々しいくらいにスカされてしまったわい」


 冷たく硬いコンクリの床に正座させられるのはさすがに堪えるのか、だいじんさんは私に向かって助けを求めるような視線を向けてくるが、生憎と私の脳内ではだいじんさんに上手く出し抜かれてしまったような悔しさと、かといって自分でどっちが上でどっちが下か白黒付けようと言っておいて自爆に巻き込もうとしてくるとか頭沸いてるんじゃなかろうかという気持ちがぐるぐると渦巻いていてそれどころではない。


 そうやってしばらく中山さんに怒られている老人を眺めていると、業を煮やしたのかだいじんさんは言葉に出して私を話に巻き込もうとしてくる。


 彼の話では私とだいじんさん、両者揃ってダブル・ノックアウトになってしまったあの自爆攻撃はホワイトナイト・ノーブルには通用しなかったのだという。


「……ちなみにだけど、ノーブルのパイロットはどうやってアレを躱したのかしら?」

「え? 口先で……」


 これまでも撃破されたHuMoが爆散したのは幾度となく見てきている。

 だが、だいじんさんの自爆技はジェネレーターの温度を極限まで上げて自壊させるものであるからなのか、普通に撃破されたHuMoの爆発とは数段上の威力を持っていた。


 それをどうやってノーブルは躱したものか、気になって聞いてみると何やら雲行きが怪しくなってくる。


「口先って、どういう事なのかしら?」

「いやのう。口先で丸め込まれて自爆する気が失せてしもうての……」

「それって……」

「何が試金石ですか!? そんなの大叔父様の匙加減次第でしょうに!!」

「ふんッ!!」


 次の瞬間、ほぼ同時に中山さんのハリセンと私の延髄切りが同時に炸裂していた。


「痛たた。ツッコミがキッツいのう……」

「キツいボケにはキツいツッコミでごぜぇますわ!」


 だいじんさんがボヤきながら両手で頭頂部と首の後ろを撫でていると重厚さの中に甲高いファンの音が混じった輸送機のエンジン音が聞こえてきて、ガレージの大型の扉が開け放たれる。


 垂直離着陸式の輸送機がガレージの前に着陸すると開放されたハッチからマモル君のニムロッドが出てきて、四肢を失ったシズさんの月光の搬出作業を手伝う。


 牽引車やらガレージ内のクレーンやらが急に慌ただしく動き出して、作業の邪魔にならないように私たちはプレハブ式の事務所へと退散する事にした。


「ねえねぇ~、ライオネスさん?」

「うん、どうしたの?」


 ガレージの中に雪崩れ込んできた輸送機のエンジンの熱い排気から逃れて、空調の効いた事務所内で一息付いていると、ヨーコちゃんが私の袖を引く。


「ライオネスさんはママが『生命保険』かけられてるって知らなかったのよね?」

「そらそうよ」

「へぇ~。ママのこと助けようとしてくれてありがと! でもさ……」

「うん?」


 私の顔を見上げる幼児はなんとも不思議そうな顔をしている。

 感謝の言葉も口先だけのものではないのだろうが、それ以上に気になって仕方ないといった様子。


「だったら何でまた実弾使って模擬戦やったの?」


 別にヨーコちゃんは自身の母を危険に晒した事を責めているわけではない。

 それを言ったらシズさんだって実弾を使ってきているのだから責められる筋合いもないだろう。


 本当に、本当にヨーコちゃんは「なんでまたそんな事をしたの?」と不思議に思っている様子である。


「私たちはイカじゃないんだからペイント弾でペンキ塗り合って楽しめるわけがないでしょう。なんていうか、そんなんじゃ収まりが付かないっていうか」

「はぇ~。それじゃ、お爺はそんな勝負に水かけるような真似したんだぁ~」

「そういう事ね」


 正直、私は演習用のペイント弾なんて使った事はないのだから、それがどのような物で、それで勝負の緊迫感が薄れるのかは実際のところは分からない。


 それでも私だけではなく、マモル君もだいじんさんもシズさんも、皆揃って示し合わせたように演習場に実弾を持っていったのだから、そのくらいの意気込みでというのは間違ってはいないだろう。


 ……まあ、マモル君に関しては事故に見せかけてシズさんをやるつもりもあったのではないかという気もしなくはないが。


「つまり、お爺はKYってこと?」

「そうね。とんでもないKY大居士ね」

「か、か、勝手に戒名付けてくれるな!?」


 だだっ広いガレージに響きわたるような大きな音を立てるハリセンも、私の全体重が乗った延髄切りも蛙の(ツラ)にションベンといった感じであっただいじんさんであったが、まだ幼い子供にKY扱いされるのはさすがに顔を真っ赤にしてきた。


「ああ! もういいわい! 負けじゃ! 今回は儂の負けでいいわい!!」

「あらそう?」


 歳を取っても子供の前では恰好を付けたいのか、だいじんさんは決着をぐだぐだにしてしまったのを自分が負けを認める事によって帳消しにしようとしてくる。


 まあ、私自身も自分が負けを認めるどころか、むしろあのままもう少し戦っていたら勝てただろうという気持ちでいるのでそのまま敗北宣言を受け入れる事にした。


「それじゃ負けを認めてもらったついでに、1つ教えてもらっていいかしら?」

「なんじゃ?」


 わけの分からない自爆技で勝負をぐだらせ、曾孫のような年齢の中山さんにコンクリの上に正座させられていたのがそれで無くなるとばかりにだいじんさんは態度だけは一丁前の良い大人。


 私は模擬戦の途中からずっと気になっていた違和感の正体について尋ねてみる事にした。


「あの裏ワザって一体、何なの?」

「裏ワザ……、はて……?」

「とぼけないで。あの『コードナントカ』って使い始めてから異様に動きが良くなったでしょ?」

「は……?」

「え……?」


 だいじんさんは鳩が豆鉄砲を食らったかのように固まってしまう。

 それはシラを切るというよりも本当に虚を突かれたかのようで、やがて固まった表情が動き出したかと思うと「お前は何を言っているんだ?」と言わんばかりの疑念の表情を向けられる。


「もしかして『こーど:ぼんばいえ』の事を言っておるのか?」

「そうよ。シズさんのは少し名前が違ったみたいだけど、だいじんさんのはそんなんだったわよね?」

「いや、おま、教えろも何も……。ライオネスさんも使っとるじゃろ?」

「え……?」

「は……?」

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