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28 身内の不始末

 トミーとジーナ、そしてサンタモニカが撃破した震電はたった1機。


 ランク6の砲戦機と旧式の機体だけでただ1機だけとはいえ震電を撃破できた事は奇跡的ともいっていい戦果である。


 だが、そこで止まるほどに少女の内に渦巻いていた炎は生易しいものではなかった。


「残りもやりますわよ!!」

「……いや、待て!?」

「……これは?」


 1機やれたのなら残りもやれるハズだと。

 3対11ではなく、3対1を11回繰り返すだけ。

 それが困難であろうとも今のサンタモニカにとっては何の問題だとも思えなかった。


 兄妹へ前進を促した時、トミーが緊張した声で止める。


 敵の砲弾の只中にいながらパーティーに来ているかのように騒いで自分を奮い立たせていた少年がだ。


 サンタモニカにもトミーが警戒しているモノにすぐに気付く。


 彼女の(レーダー)は西方より飛来する単騎のHuMoの姿を捉えていた。


「なっ……!?」


 光が奔った。


 視界が灼け付くような閃光が上空より降ってきて、そのまま敵部隊の後段にいた1機の震電を撃ち抜いたのだ。


 その機体は先にトミーに背後から撃たれ、バックパックのスラスターが使えずに僚機から遅れを取っていた機ではあったのだが、仮にその機が万全の状態であったとして何ができたであろう。


 肩口から入った強力なビームはそのまま胴を貫いて脇腹へと抜けて、それでは飽き足らずに大地を深々と穿っていた。


 そして、やや遅れて被弾した震電は爆散。

 それとほぼ時を同じくして狙撃手は上空より舞い降りてその姿を現す。


「ノーブル! ホワイトナイト・ノーブル!? 何でこんなところに……!?」

「うん。まあ、身内の不始末ってやつだ」


 その陽光を受けて七色に輝く白い機体を見た時に思わず口から出た驚愕の言葉。

 それに対して返ってきた言葉は意外にも何ともバツの悪そうな声色であった。


 声から察するにノーブルのパイロットは男性。

 それも意外と歳を取っている中年のように思われる。


 サンタモニカもこのゲームの正式サービス開始初日にとあるプレイヤーによってノーブルが奪われた時、運営から出された緊急ミッションを受けて双月で逃走するノーブルの手腕を見てきていたのだ。


 その鮮やかな手並み。

 そして今、自分たちの前に姿を現した時にとても人型のロボット兵器が出したものとは思えないような高速からスタリと地面に着地した時のような鮮やかな減速と慣性制御は優雅さすら感じさせるもの。


 それはとても電波に乗って聞こえてくる中年男性がやったものとは思えず、サンタモニカも困惑。


 全身を支配する気怠さに耐えながらサンタモニカはどうしたものかと操縦桿を軽く指先で叩いて思案していた。


 まず動いたのは震電隊である。


 残り10機の震電隊は仲間がやられた事でノーブルを敵と認識して一斉に攻撃を開始。


 サンタモニカたちに側面や、機体によっては背面を晒す事すら躊躇しなかった事から震電隊にとってもノーブルは規格外の脅威という事なのだろう。


 ライフルが。

 サブマシンガンが。

 ビームライフルが。

 ミサイルが。


 震電隊のありとあらゆる火器がノーブルへ向かって牙を剥き、大地へ突き刺さり大空を切り裂く。


「ふむ。正確だな……」


 だが、震電10機の一斉攻撃を前にしてもノーブルはただ1発の被弾すらしなかった。


 パイロットの男はなんとも退屈そうに呟くと乗機の両手に持つライフルで射撃を始める。


 はらりはらりと身を翻しながら回避していたかと思えば、鋭い跳躍を見せ、それを数多の火線を完全に置き去りにしていた。


「お、おい。どうする?」

「わ、私たちも援護を……」

「止めておきましょう。かえって邪魔になるだけでごぜぇます」


 サンタモニカたちは今現在、今回の戦場に限っていえばノーブルとそのパイロットと敵対しているわけではない。


 なのに、なのにだ。

 彼女の心中は圧倒的な敗北感で満たされていた。


「正確だからこそ無意味だ。紛れもないからまぐれもない」


 ノーブルが持つ2丁のライフルの内、1つは実体弾式の物、1つが先ほどの大火力のビームライフルであるようだ。


 左手に持った実体弾式のライフルの連射に全身を撃ち抜かれて倒れた震電が死に際に放ったミサイルの全弾発射もノーブルは地表を滑るように駆けながら腰に右手のライフルを固定し、迫ってくるミサイルへ右手を向ける。


 直後に閃光が奔ったかと思うと10発以上のミサイルの内、半分近くは空中で爆発を起こし、白いHuMoが同じように残るミサイルへ右手を向けると同じように残るミサイルも爆発。


「ノーブルのCIWSは機関砲でもレーザーでもなくビーム砲って事でごぜぇましょうか?」

「アレ、CIWSじゃねぇぜ?」

「は? どういう事でごぜぇます!?」

「いや、だからアレは腕部ビームガンの拡散モード。拡散モードだから加害範囲は広いけど、いちいちパイロットが自分であたりを付けてトリガーを引かなきゃいけねぇんだ」


 確かに拡散ビーム砲はミサイルの迎撃において優れた性能を発揮するのだろうが、CIWSのようにオートモードで迎撃を任せておけるわけではないというのは難点のように思える。


 震電中隊のように数で勝る相手と戦闘中にあちこちから飛んでくる射線を切り抜けながらともなればなおさら。


 高性能だが優れた技量を持つパイロットですら扱えない。

 それがホワイトナイト・ノーブルなのであろう。


 少なくともサンタモニカには自分にはとても扱えた物ではないと素直に認めざるをえない。


 サンタモニカにだって、ノーブルの豊富なHPと堅牢な装甲でゴリ押して戦う事はできるだろう。


 だがノーブルを駆る中年男性は乗機の白さが汚される事すら厭うかのように徹底して敵の攻撃を回避していた。


 大空の青にも。

 赤茶けた大地にも負けないほどに白い機体が駆け回る様を見ていればその気持ちが分からないではないが、それをできるかどうかはまるで別物なのである。


 彼女の友人はノーブルの動きを見てもなお戦いを挑む事を止めないのだろうか?


 あるいは今日はディナーの予約を取っているからと来れなかったヒロミチやクリスもそれは同じ。


 ふと、そんな事を考えて戦いから意識が逸れていた所で再び閃光。


 それはまるで白騎士の王から視線を外す事を許されなかったかのようにすら感じてしまう。


 ミサイルの迎撃を終え、再び右手にビームライフルを持ったノーブルは銃を横に振りながら発射。


 ターボ・ビームの照射が終わるまで1秒にも満たない時間であっただろうが、横薙ぎのビームはまるで巨大なビームソードのように3機の震電をまとめて撃破していた。


 それにより二手に分かれてしまった震電隊。


 それを好機を見たか、ノーブルはマントを羽織る。


「え? あ、スラスターか……」


 サンタモニカが見間違えても無理はない。

 そもそもがそう見えるようにデザインされているのだ。


 全身に取り付けられたスラスターが稼働した時、青い噴炎は高貴さの象徴のようにたなびいて純白の機体を包む。


 今度は左手の実体弾式のライフルを腰部に固定し、代わりに取り出したのは剣の柄。


 一足で敵中に飛び込んだノーブルは1振りで2機ずつの震電を仕留めて4機を撃破。


 残るもう一方の敵からの火線を躱した時にはすでにビームライフルのクールタイムは終わっていたのだった。


「……さてと、こっちは終わりか。スマンね、さっきトクシカさんの名を出して敵を呼び寄せてしまったのはウチの身内の(もん)なんだ」

「あ、いえ。ありがとうございました」


 震電中隊を撃破しおわった後、その場でノーブルは立ち止まりサンタモニカたちに通信を入れる。


 その男の声にはたった今までの短時間ではあるが激しかった戦闘の余韻などは微塵も感じられない。

 ただ退屈そうな弛緩した声に申し訳なさが入り混じったものであった。


「あ、あの……!」


 サンタモニカは言い出した後で悩んでしまい言葉を詰まらせてしまう。


 自分たちはノーブルのおかげで助かったはいいが、まだ少し先ではライオネスとマモル、ゴロツキ乙女が戦闘中なのである。


 彼女たちの救援を頼もうかとも思ったが、ライオネスの事である。


 ノーブルを見た途端、震電そっちのけでノーブルに襲いかかりかねないと思ってしまったのだ。


 何の事はない。

 戦闘中はその圧倒的なノーブルの戦闘力を前に果たしてライオネスはノーブルに戦いを挑もうと思えるのだろうかと考えてしまっていたが、少なくともサンタモニカの中のライオネスは牙もおられる事はない獣のままであった。


 まあ、虎とか獅子ならともかく狂犬臭いのはサンタモニカもどうかとは思うが……。


「おっ! あっちもそろそろ終わりそうだな。それじゃ俺はこの辺で……」

「え……?」


 そう言うとノーブルは現れた時の逆再生のようにふわりと浮かび上がったかと思うと、そのまま遥か彼方まで駆け上がっていってしまった。


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