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27 It’s My Life

 トミーが駆けつけてきた事でジーナは意気を取り戻したようであったが、それでもサンタモニカは戦いにいまいち身が入らない。


 トミーからサブマシンガンの弾倉を受け取り残弾の心配はなくなっていたが、それもむしろ彼女が勝利を諦めていたからであった。


 HP22,000の震電が1個中隊なのである。

 仮にトミーの雷電陸戦型の全てのハードポイントに弾倉を取り付けてきたとしてとても倒しきれるものではない。


 全ての弾が貫通したとしてそうなのであるから、震電の装甲を貫通できなかった時や、弾が外れた時の事を考えればどう考えても弾が足りないのだ。


 それでもサンタモニカが紛いなりにも安堵する事ができたのは、自分たちがガレージに戻るまでの間は弾の事で心配する必要がなくなっただろうという、いわばネガティブな考えからであった。


「オラオラオラオラぁぁぁぁぁ!!!!」

「お兄ちゃん、そんなバカスカ撃ってたら……!?」

「どの道、頭のメインカメラが無くなって命中精度が落ちてんだ! 撃ちまくって弾幕張るしかねぇだろ!? ほれ! ジーナも撃て撃て!!」

「もう!!」


 頭部を失った雷電とコアリツィアはただがむしゃらに弾を撃ちまくっていた。


 敵部隊も新手が現れた事で警戒したのか詰めてきた機も退いて元の鶴翼の陣形に戻っていたが、すぐに後続が無い事を知って再び攻めっ気を出してくる。


 先ほどトミーが背後から連射を浴びせて一時行動不能に陥っていた震電も立ち上がって仲間たちの後を追っていた。

 悲しいかな、震電はバックパックのスラスターが使えない状況でも全速で後退し続けるコアリツィアでは距離を離せないようだ。


「それにしてもトミー君、よく陸戦型単機でここまで来れましたわね!?」


 サンタモニカも兄妹に倣って牽制射撃というにはいささか弾をバラまき過ぎている射撃をしながらトミーに問う。


 それはランク2.5の雷電陸戦型カスタムでよくもここまで来ることができたものだなという半ば皮肉めいたものであった。


 颯爽と現れたトミーであったが、それは西部劇映画でインディアンの襲撃を受ける駅馬車の救援に駆けつける騎兵隊のようなヒロイックなものではなく、ゾンビ系のホラー映画でよく見るようなリスクを冒して生存者たちが合流したがその実なんのメリットもないといったような相変わらず絶望的な状況はそのままというほうが近いと思えるのだから皮肉の1つでも言いたくなるだろう。


「おう! お嬢、遅くなって悪かったな! ライオネスさんの機体の準備に時間がかかってしまってよ!!」

「なんですって!! ライオネスさんが!? でもライオネスさんの機体はマモル君が……」


 そこまで言って彼女も気付く。

 ジーナがコアリツィアに乗っているように、友人もまた機体をレンタルして駆けつけてきたのだと。


「ケー……ニヒス……ティーガー……?」


 慌てて見たマップ画面ではマモルとゴロツキ乙女の元にも新手が駆けつけてきていて、それどころか既に数機の震電を撃破しているようである。


 その独語風の機種名に聞き覚えはなかったが、マモルのニムロッドカスタムがピタリと付いている事から察するにその機体に友人であるライオネスが乗っているのであろう事は間違いない。


 自分たちは遮二無二、逃げる事しかできない震電部隊相手に友人とマモルはむしろ前へ前へと出て戦っていた。

 震電部隊こそ距離を取ろうとしているように思える。


 サンタモニカはサブディスプレーにただポツンと映し出される青い点にもライオネスが敵に果敢に戦いを挑んでいく様が想起されるようで、胸の内にふつふつと炎が湧き上がってくるのを感じていた。


「そんで、ライオネスさんの準備を待って第3次救出部隊が出る事になっていたから、俺はそいつらと一緒になって薄くなっていた包囲網に穴を空けてきたってわけよ!!」

「ほるほど……」


 トミーはライオネスの準備を待つ間、サンタモニカと妹のために機体各所に予備の弾倉を取り付けてきたようで、肩の上に取り付けていたジーナ機用の大型箱型弾倉が被弾して大爆発を起こす。


「Hoo! Year!!!!」


 乗機を煤と塗料の焦げに塗れさせながらもトミーはまるで歓声のような奇声を上げていた。


「ちょっと! お兄ちゃん!?」

「オラ! ジーナもミサイル残ってんなら使っちまえ!!」

「残ってるも何も、これ全部、演習弾よ!?」

「ハッハ~! 構わねぇよ!! 抱え落ちなんてダセぇだろ!?」

「もう!! どうなっても知らないんだからね!!」


 戦いの熱に浮かされた兄に付いていけないとばかりにジーナは拗ねたような声を上げるが、すぐにコアリツィアの6本の脚部に取り付けられていた短距離ミサイルランチャーの全てが火を吹く。


 ミサイルは自らの噴煙をスクリーンにして噴炎を浮かび上がらせていた。

 そんな数十発のミサイルが一斉に空へと飛び上がっていく光景はまさに圧巻。


 やがて高度を充分に取ったミサイルたちは地表の目標それぞれに向かって降下を始め、震電中隊は頭上へ光線を上げながら色めき立って回避行動を取り始める。


 きっとロクな武装を持っていないと情報を得ていて、これまでの戦いでも使ってこなかった事から完全に舐めてかかっていた相手が急に大量のミサイルを放ったものだからさすがに慌てふためていているのだろう。


 だが、それもすぐに落ち着きを取り戻す。


 震電が装備していたレーザー式のCIWSによって次々と撃ち落とされていくミサイルは爆発とともに充填されていた塗料を空へと撒き散らし、それで演習用のペイント弾だという事がバレてしまったようだ。


 ミサイルはフェイントは本命はライフルやサブマシンガンによる射撃。

 ミサイルに気を取られたところを撃ってくるとでも思ったのだろう。


 CIWSは起動させたままでありながらも震電中隊は陣形を元通りに直してくる。


 そのまま次々とミサイルは撃ち落とされていき、低空と地表を塗料が色を付け、だが、その内の1発が震電に命中。


 それは避けようと思っていたら避けられたものだったのだろう。


 震電の機動力で躱すか、CIWSの迎撃の時間を稼ぐ事ができたであろう1発。


 その震電のパイロットにとって不運であった事はミサイルが命中したのは頭部であったという事。


「Year! Year! Yearrrrrrrr!!!! やったなジーナァっ 顔面パンチだ!! Hoo~~~!!!! 俺らとお揃いにしてやったぜッ!!」


 ミサイルのペイント弾はその震電の頭部メインカメラを使えなくしただけ。

 その他のセンサー類やら頭部の内部に設置されたいるメインプロセッサーはほぼ無傷であるハズ。


 だというのにトミーはまるで妹が大戦果を挙げたがごとく騒いでいた。


「ええと、こうやんだっけか?」

「ちょ、止めなさい! 怒られるわよ、お兄ちゃん!!」


 自分たちだけでこの興奮を味わうのはもったいないとでもばかりにトミーは機体をスラスターで後退させながらの状態で膝の屈伸運動を繰り返してみせる。


 古式ゆかしい屈伸煽りである。


 それに対して敵が見せた反応は単純なもの。

 メインカメラに塗料を塗られ、プライドに泥を塗られた震電はまっすぐに突っ込んでくる。


 他にもミサイルの直撃を受けて黒い機体を鮮やかな原色に染められた機体はあったものの、そこまで頭に血が昇ってはいないようで突っ込んでくる震電を静止する様子は見せるもののこのまま十分に仕留めきれる相手に損害覚悟の突撃を行う者は他にはいない。


 突っ込んでくる敵は単機。

 されどその1機は震電である。


 多少の損害は許容したとして、頭部のメインカメラが使えなかったとして、サンタモニカたち3機など十分に倒しきれる相手であった。


「ほらぁ!! 言わんこっちゃない! お兄ちゃんの馬鹿!!」

「……トミー君、ジーナちゃん。やるわよ」


 行先の無いまま胸の内で膨れ上がっていた炎がついにそのぶつける相手を得た。


 第3次救出部隊とやら、後続が無い事から察するに包囲網を突破できたのはライオネスと彼女にくっついてきたトミーだけであったのだろう。


 そしてライオネスが自分はマモルの元へと向かい、こちらへはトミーだけをよこしたという事は自分たちがトミーから受け取った弾倉で持ちこたえられている内に向こうの敵を倒して来るという事なのだ。


 それが合っているかは分からないし、そもそもライオネスが震電中隊に勝てるかどうかも分からない。


 だが彼女はやるつもりなのだ。

 いつか彼女が言っていた。「やる前から負ける事を考える馬鹿がいるか?」。それは大昔の偉人の言葉らしいが、生憎とサンタモニカにはそれが誰でどのような経緯で生まれた言葉なのかは知らない。


 そしてサンタモニカの友人はその小さな体でその言葉を幾度となく有言実行してきた。


 自分よりも圧倒的に体の大きなレスラーを相手に。

 自身の乗機よりも性能の優れる敵機を相手に。


 友人にできて自分にできないはずがない。

 そうでなければ彼女と共に戦う価値もない。


 サンタモニカは突っ込んでくる紫電改に対して自分も前へと出ていた。


 できるかどうかは分からない。

 それでも最後の最後までできる限りの事をしなければ。


 両脚で踏ん張って、両腕でしがみついてでも足りなければ、みっともなくても歯で食らいついてでも。


 敵が手にした柄から眩い光刃が現れるのとほぼ同時。

 サンタモニカの紫電改は背に背負った大剣に手を伸ばしていた。


「Hoo! 話が分かるぅ~!!」

「了解です。3人で力を合わせれば……」


 それは不思議な感覚であった。

 だが、それに意識を引かれる事もなければ僚機の兄妹たちの声に気を取られる事もない。


 極限まで研ぎ澄まされた意識をただ目の前の敵へと向けていると、コックピットのメインディスプレー越しに見ていた敵機が直接、サンタモニカの眼前に現れたかのような。


 操縦桿を握り、ボタンで武装を選択し、トリガーで攻撃のタイミングを見計らっていたはずが、まるで直接自身が大剣を握っているかのような。


 だが、サンタモニカはそんな些事に心を囚われたりはしなかった。


 意識はただ敵へ集中。

 敵のビームソードのタイミングを計り、さらにその間合いの内へと入る事だけを考えて動いていた。


 震電のビームソードが振り下ろされる。


 紫電改(サンタモニカ)は敵の攻撃を躱すために倒れるほどに姿勢を低くし、脚で踏ん張る事ができなくなっても本来は自身の身体に存在しないはずのスラスターの推力で身体を上げながら大剣を振り上げる。


「おっと! やらせねぇよ!?」


 ビームソードを持つ左腕ごと肘の辺りから切り落とされた震電は逆の手に持つライフルで反撃を試みようとするが、横へと回り込んでいたトミー機がライフルを狙い撃ち不発に終わる。


 そして。


「直撃なら……!!」


 紫電改が通り過ぎていったその直後、その後ろにいたジーナ機の主砲が火を吹いた。


 180mm砲による水平射撃。


 ほぼ距離ゼロで撃ち出された徹甲弾は震電の高性能な複合装甲も砂糖菓子のように撃ちぬいてそのままコックピットまで粉砕。

 そのまま背部から抜けていった大口径弾に引っ張られるように震電は後ろ向きに飛んでいって二度と立ち上がる事はなかった。


≪震電を撃破しました。TecPt:20を取得、SkillPt:1を取得≫

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