11 王虎
格闘戦用HuMo竜波試作型 Concept Ⅰ“王虎”
ランク6
HP/14,800
装甲値/1,000
運動性/145
ジェネレーター出力/1,680
冷却器性能/1,700
推進器性能/1,320
センサー性能/200
プロセッサ性能/140
FCS/遠C+ 中B 近A
頭頂高/16.15m
基本重量/52.0t
固定武装/両拳部展開式ナックルガード
ハードポイント数/13
開発陣営/トヨトミ重工
「……う~ん? あれ? あんま強くなってないような……?」
いつまでもどこぞの馬鹿の事を考えているのもなんだかなぁという事で、気を取り直した私たちは展示されている王虎の傍らのスペック表について話題を移していた。
「そういえばライオネスさんって今、どんな機体に乗っているんですか?」
「ニムロッド・カスタムⅢだけど」
「え? もう3段階改修を済ませた機体を持っているんですか、凄いですね!」
「まあ、色々とね……」
そういえばニムロッドに使った改修キットは以前のミッションで姉さんがトクシカさんに交渉してくれた結果、入手できたものだっけ?
さすがに馬鹿と思うのは止めておこうか?
だが、それよりもだ……。
「本当に姉さんはコレでホワイトナイトを倒したって言うの……?」
「ええ。βプレイヤーの間では有名な話ですよ」
「とてもそうだとは思えないのだけれど……」
たとえば、だ。
姉さんが何かコスい手を使って不意打ちの奇襲をしかけて撃破したとかいうのなら分からないでもない。
例えば姉さんがこの機体でビルか何かの陰に隠れて音も出さないよう微動だにせずに待ち伏せし、そこへ補助AIのマサムネさんが防衛隊の白騎士を引っ張ってきてそこをズドン!
そういう事ならありえない話でもないのだろうが、だが、それで運営チームが王虎の性能を弱体化しようと思うだろうか?
「う~ん、さすがに詳しくは私も知らないんですよね。格闘戦において運営の想定以上の性能になってしまった結果だとかで、どこがどうマズかったとかまでは……」
山瀬さんも首を傾げて唸って何か見逃している所はないか、もう一度スペック表を隅から隅まで舐めるように見ていた。
私も同じようにしてみるが何度見てみても分からないものは分からない。
実の所、表に記されている数値はホワイトナイトに勝てるどころかニムロッド・カスタムⅢに比べて優位に立ってるとすら思えないのだ。
HPが14,800というのは、まあランク6というのを考えれば妥当。
運動性の数値も数少ない明確な有利な点であろう。
だが装甲値が1,000というのは頂けない。
ランク3のニムロッドでも装甲値は900、ランク4.5のニムロッド・カスタムⅢでは980である。
ランク6の王虎が1,000というのは大して変わらないといってもいいだろう。
肉弾戦に持ち込むという事は敵に肉薄するまである程度の被弾は許容しなければならないハズで、その点ではニムロッドよりも装甲の重要性が増しているであろうにだ。
「装甲も酷いけど、重量に比べてスラスター性能もお粗末ね……」
「ええ、分かります?」
「そりゃヤマガタさんたちも増加スラスターの装備を推していくわけよ」
「そうなんですよ! ついでに言うと王虎は竜波に比べて手足が長い分、重量が2トンほど嵩んでますね」
ケチが付くのは装甲だけではない。
ニムロッド・カスタムの重量が45.8tに対して、王虎の重量は52t。
重量は増しているのにスラスター性能はむしろ低いくらい。
トヨトミ製の機体は高い拡張性がウリだとはいうがそもそも増加スラスターの装備が前提のような機体はその拡張性を潰しているようなものではないだろうか?
「FCS性能の近距離Aと運動性145のためにかなぐり捨てたものが色々と大きいような……」
「そうですねぇ。案外、竜波の方が軽くて小さい分、扱い易いかもしれませんよ? 蹴りは使い難いでしょうけど……」
つまり山瀬さんはその事を教えてくれようと私を博物館に誘ってくれたのだ。
拳も足技もできるような竜波がどんな事になっているか?
なるほど姉さんがこの機体でホワイトナイトを撃破したとかいう変な逸話が無ければ王虎は目指す性能を持たせるためにその他が色々と残念な事になっている失敗機といえるだろう。
世の中、妥協すべきとこは妥協する事も大事という事か……。
「あ、でも、この機体にもスペック表に現れない良いところもあるんですよ?」
「うん……?」
現実を思い知って深い溜め息を付く私を慮ってか山瀬さんは近くを歩いていた職員さんを呼び止めて何やら交渉を持ちかける。
「あ、山瀬さん! どうしました?」
「すいません。こちらウチのお客さんなんですけど、ちょっとコレのコックピットを見せて頂きたいんですけど」
「良いっスよ~!」
すぐ近くの展示場で働いているだけあってか博物館の職員さんは軽い調子でポケットからリモコンを取り出して王虎のサブ電源を入れる。
正直、博物館の展示物とか手を触れる事すら躊躇われるようなものなのだけれど、山瀬さんいわく「NPCの好感度を稼いでいればこのくらいは楽勝です」とのこと。
そして私たちは展開した胸部装甲から垂れてきた乗降用のワイヤーウィンチに取り付けられたフックを使って王虎のコックピットへと向かった。
「どうです? 何か気付きます?」
「うわ……。姉さんの部屋と同じ匂いがする……」
「えっ!? あ、ホントだ。前に見てみた時はこんな匂いしなかったのに……」
開け放たれたコックピット・ブロックに首を突っ込んだ時にまず感じたのはシトラス系とグリーン系の香りが混じったよく知る匂いであった。
なんで? と訝しんでそのままコックピットの中を探すと前席パイロットシートの足元に見知った芳香剤の容器を見つける。
「姉さんのお気に入りだわ。この機体に姉さんが乗っていたっていうのはホントなのね」
「え? いや、前にβ時代に私がこの機体のコックピットを見た時はこんなの無かったと思うんだけどな……?」
「その後で姉さんが乗って、その時に芳香剤を持ち込んで、その時の機体をそのまま正式サービス版にコンバートしてきたって事じゃないの?」
「う~ん、そんなのありえるのかな……?」
それから山瀬さんが教えてくれた所によると、竜波がナーフされる事が決まった後、ナーフ前の竜波を姉さんの専用機にしようかという話があったそうなのだ。
私からすれば姉さんの専用機といえば前にマサムネさんが乗っていたパチモン・ノーブルなのだが、その前の候補がナーフ前の竜波という話である。
その時にナーフ前の脚の長い竜波に「王虎」という名が与えられたのだが、姉さんはそれを拒否。
何度断られても自分にホワイトナイト・ノーブルをよこせと言い張っていたためについにプロデューサーの逆鱗に触れてパチモンを専用機にされてしまったのだという。
つまり山瀬さんの知る話では姉さんが博物館送りになった後の王虎に乗る機会は無かったというのである。
「変な話ね……」
「そうですね。まっ、私が言いたいのはその事じゃなくて……、パイロット・シートに座ってみてもらっていいですか?」
「そうね」
答えの出ない話をいつまでも考えていてもしょうがないと私は促されるままにシートに腰掛ける。
「おっと……、写真……?」
座りながらヘッドレストの高さを調節しようと手を後ろに回しているとハラリと1枚の紙が落ちてきた。
シートとヘッドレストの間に挟み込まれていたのであろうか?
その写真に写っていたのは大勢の人々。
薄汚れた白いドレス姿の少女と露出の多い服から出た皮膚のいたる所に炎柄のタトゥーが刻み込まれた痩せた少女を取り囲むように数十人の者が笑顔で笑っていた。
少女たちを取り囲む者たちは女性が多く、しかも随分と平均年齢が高めでどこかの婦人会の旅行かと思ってしまうくらいだが、その中には数人のマモル君やら中年以上の女性たちに比べても明らかに歳を重ねているヨボヨボのお爺ちゃんやお婆ちゃんやらも混じっていて、これがどのような集団であるかは分からない。
だが、その中に姉さんとその隣にマサムネさんの姿を見付け、この写真をコックピットに隠したのが姉さんならば、やはり芳香剤も姉さんの仕業だろうと私は確信する。
「山瀬さん、このヘンテコな集団に見覚えは……?」
「あ、いえ……」
番外編で写真撮ってるシーンは無かったけど、入れたら蛇足感がでるかなって止めといたの(´・ω・`)




