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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
番外編 終わる世界で昔の約束を
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47 火盗改への刺客

 カトーたちの遥か後方、“射手座”のマモルの元へと刺客が向かっていたそのタイミング。


 窮地に陥っていたのは彼だけではなかった。


「お頭! 突出しすぎだよ!?」

「誰か!! 長官のカバーに入って!!」


 カトーたち火盗改本体の面々は雨のように激しい砲撃に曝され、その中を痺れを切らしたかのようにカトーのミーティアが突如として突撃を敢行しだしたのだ。


「せめて雑魚だけでも散らせれば少しは楽になるだろうさッ!!」

「だからって!! おい、誰か!?」

「私が行くわ! ハンナマも付いてきて!!」

「了解ッ!!」


 カトーのミーティアは実体剣を振り上げスラスターの青白い噴炎を引きながら遮二無二、突っ込んでいく。


 アイゼンブルクに残った砲台に果てが無いものかのように次から次へと出てくる雑魚HuMo、オマケにテルミナートルからの砲撃の雨霰の前に対処できるものから対処して少しでも状況を改善しようというカトーの案も悪いものではない。


 だが、それはこれ以上に状況が悪くならないとの確証がある時でなければ、ただ悪戯に戦力を浪費してしまう事に繋がりかねないのだ。


 (レドーム)付きのミーティアは中隊規模の敵のただ中に飛び込んでその剣戟で1機、2機、3機と続けて斬り伏せた頃に後からやってきた僚機も戦闘に参加。

 30秒とかからずに12機のHuMoを撃破完了していた。


「チィッ! アンタらまで来たら本体の負担は増えちまうじゃないか!!」

「そんな事、言いっこなしですよ!」

「そうですわよ? そもそも長官が独りで突っ込むからいけないのです。ほら、さっさと後退しますわよ!?」


 配下の者に窘められてカトーも頭を冷やす。


 カトーが無茶な突撃を行なったのも大隊長としての責任感の発露からであった。

 大隊長として担ぎ上げられておきながら特に指揮官らしい仕事をするでもない自分が少しでも大隊員たちの戦いを楽にしようという考えからのもの。


 カトーも焦っていたのだ。


 だが自身の護衛のために数少ない戦力から2機を抽出させてしまった事で彼女も反省。


「そうだね。チッ、私もヤキが回ったかね?」

「まったく。長官殿は後ろでどっしり構えてくれりゃあ良いんですよ!!」


 2人の部下に促され、カトーが後退を決意したその時、オープンチャンネルで男の声が聞こえてきたのだった。


『あの傘付きがコイツらの指揮官か!?』


 その低い苦み走った男の声にただならぬ存在感を感じ取った3機のミーティアは通信が発された方向へと注意を向ける。


「この声は……?」

「まさか!?」

「ハンナマ! カンブツ! 動けッ!! 狙われるぞ!?」


 要塞の方角から高速で接近する高機動タイプのHuMoが1機。

 そのライフルから放たれる高レートの火線にハンナマ機とカンブツ機は被弾。


『おっとぉ!! 1機は逃したか!?』

「2人は下がりな!!」

「長官! コイツは虎Dの話にあった例の中ボス格では!?」


 部下から言われずとも気付いていた。

 細身ながらもどことなく機能的な頑丈さを感じさせる下半身に、そんな下半身とはあまりにも不釣り合いなほどに貧弱な上半身。


 おまけにその下半身と上半身はカトーもよく見知った別々の機種のものだったのである。


 下半身がランク7のセンチュリオン。

 そして上半身はランク4のニムロッドU2型。

 間違いない。虎Dから事前に聞いていた「ニムリオン」である。


 カトーのミーティアは気合一閃、姿勢を低くして斬りかかるがニムリオンは小刻みなスラスター制御と柔軟なバネで剣戟を回避し、さらにカトー機を左腕のシールドで押しのけて姿勢を崩させる事で次のライフルの連射に繋げてくる。


「お頭ッ!!」

「アンタらは後退しなッ!!」

「イベント用の中ボス機に1人で勝てるわけがないでしょう!?」


 姿勢が崩れたカトー機であるが、めいいっぱいにフットペダルを踏み込んでスラスターを吹かす事で何とかほとんど接射のライフル弾を躱していた。

 だが体勢を立て直してからの剣戟もニムリオンは難なく回避。


「お守りしながらよりも独りの方がまだ勝ちの目があるってもんよ!!」

「チィっ……!!」

「……退くわよ!!」


 ここにきて彼女たちが駆るミーティアの泣き所が出た形である。


 カンブツ機もハンナマ機も被弾は4、5発程度。

 まだ十分にHP(ヘルス)は残っている。

 だが高機動タイプ故に薄い装甲と脆弱な機体フレームは僅かな被弾であってもその機体機能に損傷をきたしていたのだ。


 これ以上、そばにいては逆に迷惑になると2機の僚機は苦渋の決断で後退を決意。


『へぇ……。損傷した味方を逃したか。英雄気取りか死にたがりかね?』

「英雄気取りの方じゃないかね? なにしろ死ぬのはアンタだ」

『言ってくれる』


 それからは砲弾やビームが雨のように降る戦場でカトーのミーティアとニムリオンはアイスダンスを踊るかのような戦いを演じ始めていた。


 片や一切の射撃兵装を持たずにただ一振りの実体剣のみを振るうミーティアに、ライフルにシールド、ナイフに小型のミサイルポッドとオーソドックスでバランスの取れた装備のニムリオン。


 戦いは距離を詰めては刀を振るうしかカトー機と、逆に距離を取っては射撃を行なうニムリオンが付かず離れずという形となっていた。


「アンタ、言い声してんねぇ!!」

『そりゃあ、どうも!! 婆さんも歳の割には良い動きしてるぜッ!!』

「ハン! 言っとけ!!」


 ギリギリの戦い。


 火力で圧倒的に不利なカトー機にとって現状はただ機体の機動性のみが頼りである。


 だが、それも1発の被弾で上手く釣り合いが取れていた天秤が一気に向こう有利に転がってしまう事はカトーもひしひしと感じていた。


 機体各所のスラスターに被弾してしまえば頼みの機動性を失ってしまうのであろうし、胴体内部の動力炉や廃熱機構に損傷を受けてスラスターや四肢に充分な出力を送れなくなっても動きが鈍くなってしまう。


 だが、そんな綱渡りのような戦いの最中だというのにカトーはたまらなく愉快であった。


『何がおかしい!? 気でもおかしくなったか!?』

「いやね……」


 噛み殺した笑いがマイクに乗ってニムリオンのパイロットに聞こえていたのか苛立った声で問うてくる。


 高性能機というのも良し悪しだなと、カトーは素直に自分が笑っていた理由を答えてやる事にした。


「どうしたらアンタにさっきの2人は本当はアンタなんかに負けるような連中じゃないって教えてやれるかなって。本当にアンタは良い声だ……」


 敵弾をなんとか掻い潜り、距離を詰めては剣を振るい、また距離を離される。


 そんな戦いの中、ずっとカトーは気になっていた。


 敵機のパイロットのあまりにも良い声。

 女の脳髄に響いてくるような低くて重い男の声。


 そう。

 それは10数年ほど前に一世を風靡したとある舞台俳優のものであったのだ。


 カトーもその俳優が声優に転向したのか、それとも副業でしているのかは知らなかったがそれに気付いて、なんであの2人が回避行動も取れずに後退に追い込まれてしまったのか気付いてそれが愉快でたまらなかったのだ。


 素直に敵の問いに答えてやる事にしたのも、誰かにそれを話してみたくてしょうがなかったのだろう。


「さっきの2人、アンタの声に骨抜きにされちゃったみたいでさ!!」

「え? あ? マジ? あ、アンタ、何言ってんの!?」


 ハンドルネーム「ハンナマ」。

 半生(ハンナマ)とは即ち、2.5次元のオタを指すスラングである。

 アニメやマンガの舞台化したもの、つまり2次元でもない3次元でもないが故に半生。


 そしてハンドルネーム「カンブツ」。

 こちらは干物(ヒモノ)ともいうが乾物(カンブツ)がその由来。

 江戸時代やら戦国時代やら、そんな大昔の時代を舞台とした時代劇のオタクを指すスラングである。


 たしかニムリオンのパイロットの声のサンプリング元はマンガ原作のものやら時代劇の舞台やらにも出ていたっけなとカトーは苦笑する。


 カトー自身、時代劇小説からオタクの道に入った者である故、2人の気持ちも分からないではないが、それでも憧れの俳優の声が聞こえたからって戦場で我を忘れて棒立ちになってしまうとはあの2人もまだまだ乙女じゃないかと笑いがこらえきれなかったのだ。

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