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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
番外編 終わる世界で昔の約束を
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45 火盗改かく戦えり

 それはまさに異様な光景であった。


 数百機の大部隊を相手に総勢36機の大隊が圧倒しているのだ。


 徹甲弾が装甲を砕き、ターボ・ビームが敵を貫く。

 斬り伏せた敵を踏みつけ、ミサイルの弾幕が投網の如くに混乱する小隊や中隊へと降り注ぐ。


弾倉交換(マグ・チャンジ)!」

「そのまま後ろへッ!」

「オーライ!!」


 つい先日、ヨーコが駆る建御名方と激戦を繰り広げてその後に参戦してきた総理の竜波に死亡判定を出された♰紅に染まる漆黒堕天使♰のミーティアがビーム・アサルトカービンのマガジンを投棄しながら敵に正面を向けたまま後退すると、横から軽機関銃を連射しながら僚機がカバーに入ってくる。


紅黒天(あかくろてん)! アンタの替えの弾倉も持ってきたわよ!!」

「了~解ッ!!」


 それとほぼ同時に補給のために一時的に後退していた小隊員から通信が入り、彼女は自分のカバーに入ってくれた僚機の様子を窺うと、重い軽機を装備しているのにも関わらずまるでミーティア自身も1発の砲弾になったかのように戦場を縦横無人に駆けまわっていた。


「そっちの予備弾倉は!?」

「あと2つ!! さっき赤髪のが取りに行ってくれたわ!!」


 敵は数こそ多いものの機体のランクは4から6のものがほとんど。

 自分たちが駆るミーティアに滅多な事では当てる事もできないようなイベント用の雑魚キャラ、お邪魔キャラのNPCがパイロットならそんなもんだろうと♰紅に染まる漆黒堕天使♰は弾倉交換のついでに残り少なくなった予備弾倉の補給のために一時後退する事にした。


 いつもならスラスターを吹かしてホバー走行していれば赤茶けた土煙が立つものだが30発の核が炸裂した後では地表はガラスのように溶けて固まり、ただHuMoの足で踏み砕かれるのを待つばかりである。


「完全に包囲されているけど、その状態で膠着している……。敵を拘束できているといってもいいわね」


 後退しながら♰紅に染まる漆黒堕天使♰は戦況を確認。

 彼女自身、小隊長の役割を持たされているのだが小隊員たちへ絶対の信頼を置いている彼女は特に指揮官らしい指揮を執る事はない。


 それは彼女のみならず他の小隊や中隊、それどころか大隊長であるカトーすら特に指揮を執るという事はないのだ。


 個人戦技であろうと連携戦術であろうと各自が判断して最善最適の結果を出し続ける。

 戦う貴腐人の会に所属するメンバーにとってそれが最低限の技量。


 彼女たちに取って大隊長のカトーはむしろ精神的な支柱に近いのだろう。


「おっと、長官殿も張り切ってますなぁ~!」


 遠く2時の方向。

 タイフーンの4機小隊をカトーのミーティアが日本刀型の実体剣であっという間に切り伏せたところを目撃して♰紅に染まる漆黒堕天使♰は独りコックピットの中で口笛を吹いた。


 タイフーンはランク5の機体とはいえ白兵戦に特化したタイプの機体。

 それを敵の得意とする間合いで複数をほぼ同時に仕留める技量。

 間違いなくカトーは「敵機戦線ジャッカル」のプレイヤーの中でもトップ層に位置する実力の持ち主なのだろう。……少なくともβテスト時においては。


「頃合いか……。要塞の脚への第3次攻撃を開始する!!」


 ♰紅に染まる漆黒堕天使♰が予備の弾倉を持ってきてくれた僚機と合流した頃、要塞の脚部への攻撃を担当する者から通信が入ってきた。


 号令とともに多数のミサイルが白煙の尾を引いて跳び上がって巨大な虫を思わせる要塞へと突っ込んでいく。


「う~ん、やっぱ駄目か。テルミットなんかでホントにやれるのかしら?」

「あら、貴女、話を聞いてなかったの? それにすでに要塞の前進速度は落ちているじゃない」


 激しい閃光とともに摂氏2,000度以上の高温を発するスーパーテルミット弾頭を搭載したミサイルの数度に渡る集中攻撃によって要塞を支える脚の1本は激しく炎上していた。


 その脚が動く度に周囲に耳をつんざく異音が発生し、要塞の移動速度自体も目に見えて落ちている。


 だが、まだ未だその歩みを止める事はできておらず、脚だけでも現実世界には存在しえないほどに巨大な搭の如き威容を破壊する事など途方もない事のように思えた。


「いや、作戦は知っているけどさ。虎Dの話だとアレって要塞って言ってるけど、イベント用のステージみたいなもんでしょ? 実際のとこ、本当に破壊なんてできるのかしら?」


 テルミット弾頭搭載型ミサイルによる炎上も落ち着いてきた頃、3機のミーティアがショート・サイズのバズーカ砲のような物を要塞の脚へと向ける。

 だが、その大型の兵器が砲弾を発射するための物ではない事は砲口に当たる箇所に魚眼レンズのように屈曲したレンズが嵌っている事からも見て取れた。


 極低温レーザー砲。

 物体にレーザー光線を照射する事で分子運動を阻害して強制的に温度を下げるための兵器である。


 超高温のテルミット弾と冷凍レーザー。

 彼女たちが目論んでいたのは熱による金属疲労で要塞の脚を破断させる事であった。


「おいしょっと。それじゃ私たちもアイスクリーム屋さんの援護に行きましょうか?」

「そうね」


 一度、命中してしまえば炎上し続けるテルミット弾とは違い、極低温レーザーで物体を冷却するためにはレーザーを照射し続けなければならない。


 敵の攻撃を掻い潜りながら一定地点にレーザーを当て続けるのには並大抵ならぬ負担があるであろう。


 補給を済ませたミーティア2機も急いで前線へと駆け上がっていく。


 前線が構築された事でヨーコたちも前進を開始し、それから敵要塞から中ボス格の機体と大型HuMoが発進した報がもたらされたのはそれから少し後の事であった。

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