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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
番外編 終わる世界で昔の約束を
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29 変人たち

 総理の許可を得てガレージ内へと入ってきたカトーとその連れの一団は壁面の剥き出しになった鉄骨に白いスクリーンをかけ、それが終わると折り畳み式のテーブルを持ってきて、その上にプロジェクターを接地した。


 それにしても、なんとも異様な一団であった。


 皆揃って強者特有の余裕と覇気が綯い交ぜになった独特を醸し出しているというのに彼女たちの見た目はとてもそうだとは思えないのだ。


 男女の内の女性たちのほとんどは中年か、それよりももっと上の歳頃。

 1人、ヨーコやアグよりも幼い者もいるようだがその少女とて兄と呼ぶ少年を顎で使うくらいには肝の据わった者であるようであった。


 男たちの歳の頃はバラバラではあったが、揃いも揃って美形揃いである事にヨーコもアグも驚かされた。彼らの中に混じっていてはふっくらとした頬が幼さを際立たせている少年も「可愛い」というよりは「美しい」という印象になるから不思議なものである。


 だが、それも一瞬の事で、すぐに同じ顔の者が何組もいる事に気付くとどこか不気味さを感じずにはいられない。

 それは花屋の店先に並べられた花々の美しさに似ていただろうか? 


 男たちの中にはマサムネやクロムネとまったく同じ顔の者も何人かいて、そうなると男たちはクローンか何かか?


「…………うん?」


 男たちがプロジェクターの用意をするのを待つ間、ふとヨーコは1人の少年が自分を恨みがましい目で睨みつけてくる事に気付く。


「よう! なんかしたか?」

「……別に」


 カトーとその仲間たちへの警戒心は未だ残ってはいたものの、相手はまだ幼い男の子だしとヨーコは少年に話かけるが反応はけんもほろろ。


 ぷいと顔を背けてつむじを見せつけてくるくらいで、代わりに少年の保護者らしき女性がヨーコへ話しかけてくる。


「ゴメンなさいねぇ……」

「はぁ……、貴女は?」

「私は『♰紅に染まる漆黒堕天使♰』。このマモル君は私のコーディネイターなの」


 その中年女性の口ぶりとその顔に浮かんだ柔和な笑みは包容力のある大人の女性そのものであったが、その髪は炎のように赤く染め上げられ、身を包んでいたのは白と黒のいわゆるゴスロリといわれるジャンルの服であった。


「は? え? くれ……ない……? しっこく? え、どっち?」


 控えめにいってイカれてるとしか言いようがないようなファッションセンスの女性にヨーコは自分でも馬鹿みたいだと思うような返事しかできないでいた。


 だが♰紅に染まる漆黒堕天使♰もそんな事は言われ馴れているのか軽く「フフフ」と笑って大人の余裕を見せつける。


「……いや、それよりもなんかおかしくねぇか? 傭兵とコーディネイターと言えば相棒と言ってもいいような関係だろ? なのに何で『このマモル君』だなんて言い方をするんだ?」


 コーディネイターとは各プレイヤーに配されるユーザー補助AIのゲーム世界内での立ち位置である。

 周辺の事情により独自に大量の戦力を保有する事ができない中立都市は傭兵組合を介して傭兵を抱えるというワンクッション挟んだ形を取っていたが、その組合と各個人傭兵との調整を担うのがコーディネイターというわけだ。


 コーディネイターには将来、自分も傭兵としての独り立ちを目指してキャリアの下積みとして働いている者もおり、総理の相棒であるマサムネのように自分もHuMoを駆って戦場に出る者もいるくらい。

 そういう意味ではヨーコが言うように傭兵とコーディネイターは「相棒」と言っても差し支えないような関係性である。


 そのような仲でありながら「()()」という言い方がヨーコにはなんとも不自然に思われたのだ。


 一瞬、そんなに仲の良くないビジネスライクな付き合いなのかとも思ったが、♰紅に染まる漆黒堕天使♰のおっとりとしていていかにも優し気な雰囲気はとてもそうだとは思えなかったし、事実、彼女はトラブルの元とも言えないような段階で出てきた。

 なによりもマモル自身、ヨーコから隠れるようにして♰紅に染まる漆黒堕天使♰の後ろに回ったところを見るに彼女を信頼しているように思われた。


「ああ、ええとね。あそことあっちにも同じ顔の子がいるでしょ? あの子たちもマモル君って言うの。だから、ついね……?」

「は……?」

「まあ、そういうわけで私たちは呼び分ける必要がある時はアタマに“射手座(サジタリウス)”と付けて呼んでいるわね」

「えっ? こ、コイツが……!?」

「ふん……!!」


 ゴスロリ服のおばさんの後ろにこそこそと隠れる男の子があの超人的な狙撃の腕を見せた“射手座”という事実から受けた衝撃にヨーコは「マモルたちはクローンなのか?」とか「なんでまたクローンに同じ名前を?」とか口から出かかっていた疑問が一瞬で吹き飛んでしまっていた。


 愕然としてあんぐりと口を半開きにしたヨーコにマモルは♰紅に染まる漆黒堕天使♰のフリフリのスカートを掴んだまま鼻を高くしてみせる。


「ん? ああ、さっき散々クソミソに言われたからって私の事を睨んでたってわけか!? へぇ、思ったとおり可愛いとこあるじゃん!」


 この男の子が“射手座”だと聞けば、後はもう聞かなくても睨まれた理由は察する事ができた。


「となると、貴女が建御名方に?」

「おう!」

「あら? 中々にやるじゃない。戦闘中に動き回りながら飛ばした腕でちゃんと狙いが付けられるようなパイロットだなんてそうそうはいないわよ?」

「うん? まるで見てきたみたいな口ぶりだな」

「あら、声で気付いてなかったの?」


 ♰紅に染まる漆黒堕天使♰が不意に見せた悪戯っ子のような笑みはそのトンチキな服装よりもよほど彼女を若く見せさせた。


「さっき、私のミーティアと踊ってたじゃない? お爺ちゃんの竜波に邪魔されて私は退場させられたけど……」

「ああ! アンタか!? 無事、ていうかよくアレで生きてたな、おい!!」


「退場させられた」というのは方便。

 実際は射撃訓練場での戦闘で彼女のミーティアは竜波の拳にコックピットを完全に破壊されてゲームシステム的に死亡判定をもらってガレージバックしていた。

 その彼女がたった数十分でこうもピンピンしていれば、いかにメディカルポッドという文明の利器があろうともヨーコが驚くのは当然の事である。


「でもよ、“射手座”ってのは“天馬座”ってのとペアじゃなかったのか?」

「ああ、それね……」


 ヨーコの問いに♰紅に染まる漆黒堕天使♰の眉間に僅かに皺がよる。

 それは答え辛いというよりかは……。


「うわ~~~ん! マモえも~ん!? ルロイきゅんが虐めるよ~~~ぅ!!」


 不意にツナギ服の女性が現れてマモルを抱きしめた。

 マモルは♰紅に染まる漆黒堕天使♰の後ろに隠れて、そのウエストを掴んでいたわけで、新手の女性のせいでマモルもろとも♰紅に染まる漆黒堕天使♰までバランスを崩して転げそうになり、ヨーコが慌てて支えてなんとか硬いコンクリートに顔面からダイブするのは避けられた。


「ご、ゴメンなさいね」

「良いって事よ」

「ま、これがさっきの質問の答えね。この人が“天馬座”、自分のコーディネイターのルロイ君がツンデレキャラだと思ってたらデレ無しのツンツンキャラだったからってウチのマモル君にちょっかい出してくるのよ……」

「なんつ~か、大変だな……」


 ♰紅に染まる漆黒堕天使♰が転びそうになった事など毛ほども気にしていないのか、“天馬座”と呼ばれた女性は構わずにマモルを抱きしめて頭をわしゃわしゃと撫でまわしていた。


 その“天馬座”の後ろには1人の少年が。


 金髪に碧眼。歳の頃はヨーコたちと同じくらいか?

 目が覚めるほどの美少年ではあったが、彼の両手両足は金属フレームが剥き出しの義肢となっていた。


 恐らくは彼が例のルロイ君とやらなのだろう。


「……またですか? いつも言ってますよね? 仲間とはいえ、ヨソ様に迷惑かけるなって……」

「ひぇっ……!?」


 少年は義手の両の人差し指同士をバチン! バチン! と音が鳴るほどに打ち付けて「×(バッテン)」を作りながら“天馬座”に近寄っていく。

(たぶん本編では使わないかもしれない)キャラクター設定のコーナー!!


♰紅に染まる漆黒堕天使♰

・元ハイエナプレイヤー。

・ソシャゲー出始めの頃の怪盗ゲームの価値観で「鉄騎戦線ジャッカル」に参戦。

・そのハンドルネームはその怪盗ゲーの頃のもの、服装も当時のアバターを模したもの。

・度重なる窃盗についに傭兵組合も動く事になり、火付盗賊改方に討伐されてその仲間に。


※「鉄騎戦線ジャッカル」は全年齢対象の健全なゲームだから“射手座”を“天馬座”に寝取られて脳を破壊される展開にはならない。

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