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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
番外編 終わる世界で昔の約束を
268/429

28 合流

「みんな!!」

「ご無事でしたか!?」


 ガレージに戻ってきたヨーコとアグは高所作業車のバゲットから降りると仲間たちの元へと駆け寄っていった。


「おう! ウチのマサムネは今、メディカルポッドに入っとるよ!」

「とはいえ自分の足で歩いていけるくらいでしたからね。そう大した事もなかったのでしょうよ!」

「次に総理さんがポッドに入ってそれで元通り、私たちは特に怪我とかは無かったっスからね!」


 総理、クロムネ、虎Dの3人は笑顔でヨーコたちを迎える。

 射撃訓練場で襲撃者による銃弾を受けて負傷している総理も全身に脂汗を浮かべてはいるものの、しっかりと自分の2本の脚で立つ事ができるくらいのもの。


 もっとも、それがヨーコたちに心配させないようにとの総理なりの強がりであるのは少女たちも分かってはいたが、強がるのが男の優しさならば、それを黙って受け入れるのが女の優しさなのだろう。


「……ていうかよ。いっちゃん手酷くやられた虎さんがなんで誰よりもピンピンしてんだよ?」

「ハハハ! この馬鹿、ピンチであった事すら理解してないんじゃないですか?」

「ファッ!? そりゃ酷いっス!!」


 ヨーコの視界にふと牽引式の台車に乗せられたプリーヴィドがガレージへ入ってくる所が見えた。


 片足を失い、周囲のガレージの壁面に機体をぶつけるという無茶苦茶な方法で無理矢理な方向転換をしていたせいで両の腕部までボロボロ。

 おまけに虎Dを庇って被弾をしたせいで残った脚すら今にも取れそうなくらいである。


 だが、よくよく見てみるとコックピットのある胸部周辺には被弾痕が無い。

 クロムネの技量のなせる技か。恐らくは“射手座”と呼ばれる凄腕の狙撃手に狙われでもしなかったら片足を失う事もなかったであろうと思わざるをえないほどだ。


 それは総理の竜波も同様で、至近距離での戦闘でその本領を発揮できる格闘戦機はその戦闘スタイルの都合上、被弾を重ねやすいものであるが竜波の破損した箇所は腕部や脚部、つまりは機体の末端部位に集中していた。


 反面、虎Dのセンチュリオン・ハーゲンは全身がくまなく蜂の巣状態。

 胸部装甲などはまるまる無くなってコックピット・ブロックがまる見えなくらいである。


 虎Dが同僚から借りてきたというセンチュリオンは全身に過度なほどの増加装甲を盛りまくったものであるが故に、その機動性は劣悪であろう事は外観からも見て取れるものではあった。

 それでもクロムネや総理の機体から見て取れるようなコックピットのある胸部への被弾は避けようという技巧の後は無い。


 ところが一転、それらの機体から降りてきた各パイロットたちの表情を見比べてみると脂汗塗れで土気色になった総理に、うっすらと汗をかいて顔から血の色が引いて青ざめたクロムネに対し、虎Dはちょっと顔を紅潮させているくらい。

 その晴れ晴れとした表情はまるで今にも「良い汗かいた!」とでも言い出しかねないくらいであった。


 ヨーコやアグだって、擱座した建御名方からガレージまで全力疾走して、ミラージュに乗り込んでからも今こうして実際に顔を合わせてみるまでは皆の事が心配で顔を蒼褪めさせていたというのに虎Dだけなんとものほほんとしたものである。


「……まっ、それはともかく、皆が無事で良かったよ!」

「ホントですわ!!」

「代わりにヨーコちゃんのミラージュ以外はもれなく中破以上、よくもまあ持ってくれたと思いますよ」


 クロムネの言葉に一同はガレージの中を見渡してみる。

 竜波にプリーヴィド、センチュリオン・ハーゲン、建御名方。4機の修復のためにガレージ内は整備業者やら回収業者の車両が行きかい作業用の雷電やらキロも入ってきて、あちこちからアーク溶接やらレーザー・カッターやらの強い光が迸っている。


 整備員たちの怒号、車両や作業用HuMoの轟音、重機の警報音に耳をつんざく光と音の数々。


「お仕事中にゃあ~! 通らせてほしいにゃあ~!」

「おっと、ゴメンよ!」


 いつの間にかすぐ後ろまで来ていた可愛い声の小型作業用ロボットに一同はその場を譲り、壁面近くまで動く。


 本当に良く持ったものだ。

 ヨーコはしみじみと思う。


「そういえば最後の方でミーティアの連中が一斉に引いていったが、何かあったかの?」

「そういえば……!」


 ヨーコも忘れていたわけではなかったが、総理たちの安否が心配で頭の隅に追いやっていたカトーとの再会をそこで言った。


 傭兵の男たちを引き連れてカトーが現れた事。

 そのカトーがヨーコの顔を見て翻意し、男たちを斬った事。

 その別れ際に信号弾を天に向けて撃っていた事。


「なるほどのう……。てっきりヨーコちゃんのミラージュの出現を悟って後退したのかと思っとったが、その信号弾で奴らを引いてったというわけじゃな。それにしても、あの婆さん、今は“あそこ”の大隊長? とっぽいのぅ……」

「なんです? 2人とも“火盗改”の隊長の知り合いなんですか?」

「……まあの」


 総理とヨーコ、そしてカトーといえば接点は9年前のあの依頼の時しかない。

 だが、それを虎Dたちに話すのは心に刺さった棘を抜くようなものだ。それも抜けば今でも鮮血が溢れてくるような。

 ヨーコと再会した今となっては心残りであったかつての古傷は、鮮やかさを取り戻していた。


「……その話の続きがしにくいってんなら、私の方からしてやろうかい?」


 言い淀む総理に遠くから声をかける者がいた。

 周囲の作業音に負けないくらいの力強い声で。


「カトーさん……!?」

「まあ……」


 作業用の車両やHuMoの出入りのために開け放たれていた扉の前にいつの間にか数十人の男女が並んでいた。


 追っ手かと思いアグはクロムネの後ろに隠れるが、よくよく見てみると声の主は和装の老女。

 噂をすれば何とやら。

 カトー・カイである。


「安心しなよ、敵じゃない。……少なくとも私はヨーコちゃんの敵にはならない」

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