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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
番外編 終わる世界で昔の約束を
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22 格闘戦機 竜波

 これが。

 これがHuMoの動きなのか?


「『こーど:ぼんばいえ』発動ッ……!!」


 ヨーコには総理が発したその言葉の意味は理解できない。


 だがランク6の竜波とランク10のミーティア。

 その圧倒的な性能差にも関わらず、竜波を駆る総理は己の勝利を微塵も疑っていない事がその声からありありと伝わってきていた。


 ドッ、ドッと軽快な足音を立てながら突っ込んでくるミーティアは、不意打ちで右腕を潰されたパイロットの怒りがそのまま青い炎となって機体から溢れてきているかのように、全身からスラスターを吹かして加速しながらビームソードを発生させたシールドを振り下ろす。


 だが、竜波はその鋭い斬撃が振り下ろされる前に一気に距離を詰めていた。


 何故、ただ一足の踏み込みに優雅さすら感じる緩急が生まれるのだろうか?


 それは秋の木枯しに吹かれて舞う木の葉のように。

 小川の流れに身を任せて流れていく木の葉のように。

 竜波の踏み込みはその外観からは想像もできないほどに繊細なものであった。


 そして一瞬で距離を詰めた竜波はビームソードを振り下ろさんとする敵機の腕を己の右腕で制す。


 老人が駆る竜波は繊細なだけではなく極めて豪胆でもあった。


 摂氏数万度のプラズマの刃が振り下ろされる、その軌道に身を跳び込ませる事もそうだが、何よりもヨーコを驚かせたのは斬撃を制するためにただ添えられたように見えた竜波の手はその実、恐ろしいほどの威力を秘めた手刀であったという事。


 まるで紳士と貴婦人がダンスでもするかのように2機が距離を詰めたその瞬間、ミーティアのビームソード付きシールドが取り付けられていた左腕は爆ぜていたのだ。


「なっ……!?」


 ミーティアのパイロットが上げた驚嘆の声はどちらのものだったのだろうか?

 一瞬にして距離を詰めてきた竜波に対してか。

 自機の左腕が格下の機体にただ一撃で破壊された事か。


 だが、いずれにしても彼女がその先を考えるよりも先に意識は暗転。

 次に気付いた時には見慣れた灰色のガレージに戻っていたのだ。


「な、なんで……!?」


 そう言うしかなかったであろう。

 ミーティアのパイロットは竜波の重金属の拳が機体装甲を貫き、コックピットブロックを粉砕する瞬間を知覚できないでいたのだから。


「凄げぇな、総理さん!! あんなキスするような距離で、よくまぁゲンコツ振り回せたもんだぜ!!」

「……まあ!」


 先ほどまでの苦戦ムードから一転、総理が見せた妙技にヨーコは一気にテンションを上げ、アグは何が起きたか分からないとばかりに間抜けな声を上げていた。口を半開きにして目を丸くする顔が総理の頭の中で思い浮かばれるほどである。


「ふん、儂の友人にの、こんぐらいせんとコミュニケーションが取れん厄介な男がおっての……」


 手刀で敵の攻撃を潰し、逆の拳で屠る。

 左右の連撃でゲーム内最高ランクの機体をあっという間に片付けたというのに、総理は誇るでもなく、あまつさえこの技はコミュニケーション・ツールに過ぎないと言ってのけるほど。


 これが総理という男であった。


 その言葉が嘘ではないとばかりに竜波は軽やかな足捌きで天より飛来した超高速の火球をヒラリと躱す。


 残心というものだろうか。

 敵を撃破した直後の余韻を味わう事すらないのだ。


 これが本物の傭兵、これこそが肉食獣(ジャッカル)の名で呼ばれる戦士なのだ。

 ヨーコは10年来の思いにしみじみと感じ入っていた。


「さて、面倒な敵は潰した。後は……」


 総理にとって厄介であったのは遥か上空の狙撃手でも、低空を飛び回りながら援護射撃をしてくる1機でもなかった。


 高機動タイプのミーティアの利点を活かして最前線で戦い戦場をコントロールしようとしていた者こそが敵の要。


 仮に総理とマサムネが機体に乗り込んですぐに戦闘に参加していたならば、かのミーティアはその機動性を活かしてのらりくらりと竜波と建御名方を翻弄していたであろう。


 それ故に総理はミーティアが攻勢に転じたその瞬間を逆に打ち、右腕を潰してから接近戦で短時間で敵を仕留める事にしたのであった。

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