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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
番外編 終わる世界で昔の約束を
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18 射撃訓練場にて

 鈍く、それでいて鋭く重い衝撃が手首から脳髄へと伝わってくる。


 ……外れだ。


 総理が撃った拳銃の弾丸は人型標的(マン・ターゲット)の右肩よりも20cmほど上に着弾。


 仕切り直しのために首を回してから拳銃を握る右手を天に掲げ、それからゆっくり少しずつ標的めがけて下げていく。


 今!

 そう思って総理が銃爪にかけた人差し指に力を込めたか込めないかのその瞬間、隣のブースからドカンという銃声が轟いてきて、思わず照準がブレてしまう。


「ふうむ……」


 それが弾倉に収められていたいた最後の弾であった。

 後退したまま戻らないスライドを見て総理はもやもやした気持ちを抱えたまま銃から弾倉を外して射撃ブースの後ろの休憩スペースへと移る。


「言い訳でもしてみますか?」

「そういうわけにもいかんじゃろ?」

「そうでしょうねぇ……」


 続いてマサムネも総理がたった今まで撃っていた標的をもってやってきた。


 銃声から耳を保護するためのヘッドフォン状のイヤーマフを外して2人は標的に空いた弾痕に赤ペンで印を付けていく。


「……ええと、人型に命中したのは10発。あれ? 弾倉1つしか撃ってないんですか?」

「分かっとるじゃろ!? 3つじゃ! 36発撃って10発しか当たんなかったんじゃ!!」


 プレイヤーの初期装備である10mm半自動拳銃は標準的な弾倉に12発の弾が入る。


 つまり弾倉3つ撃って命中弾が10発とは3分の1以下の命中率ということ。


 総理は相棒である青年から何を言われるものかと辟易していたのだが、意外にもマサムネはさらりと流してくれていた。


「ほれ。それじゃ、こっち手伝ってください。孫の遊びの手伝いだなんて嬉しいでしょう?」

「孫ではないが、まぁ、やぶさかではないのぅ」


 それも当然といったところだろうか。


 プレイヤー用の訓練施設である屋内射撃訓練場はそもそもがこのゲームのメインはHuMo戦という事もあり生身の人間のための射撃場は客入りは良くなかった。

 おまけに今日はβテスト最終日。

 たまに施設従業員のNPCが通りがかる以外に人の姿は見えない。


 だというのにズラリと並んだ射撃ブースの中で、わざわざヨーコとアグは隣り合って互いに競い合うように拳銃やら自動小銃を撃ちまくっていたのだ。


 その銃の弾倉に弾を入れていたのがマサムネである。


 彼は射場に到着してすぐ、銃を撃った事がないアグに銃の扱い方を教えたのだが、標的に弾痕で「マ」の字を刻みこんで総理に「お前は練習なんかする必要ないじゃろ?」とそれからずっとヨーコとアグのために空の弾倉に弾を詰め続けていたのだ。


「へへっ、アグもデカいのは苦手みたいだな!!」

「もう! 隣でバカスカ撃たれていては集中なんてできませんわ!!」


 互いにイヤーマフをしているために大声で話をしながら2人が戻ってくる。


 アグだけではなく、ヨーコも銃から弾倉を外しボルトを下げた位置で固定するなど射場でのマナー守っているところを見るに、やはり根は真面目な子なのであろう。


「お疲れ様です。次は5.8mmはどうです?」

「いいですわね。これならヨーコさんには負けませんわよ!」

「チィッ! ホントに銃を撃つのは今日が始めてなのかよ!?」


 意外なことにアグの射撃の腕は中々のものであった。

 もちろん本人が銃を撃つのは今日が初めてだというように、その腕は射場レベルのもので、けして実戦で通用するようなものではない。

 だがマサムネがアグ用にと渡した小型拳銃はおろか、軍用のアサルトライフルですら易々と扱ってみせ、次々とマン・ターゲットの頭部や胸部に命中弾を撃ち込んでいた。


 反対にヨーコの射撃の腕は芳しくない。

 以前にマサムネは総理にヨーコは自身と同じく運営から“天才”の個性(パーソナリティー)をあたえられているのではないか? という話をしたことがあった。

 その真偽はともかく、仮に彼女が“天才”であったとしてもその天賦は生身での射撃には及んではいないのは間違いない。


 だが、彼女は弾が的に当たらなくとでもやりようがあるとでも言わんばかりにドカドカと銃を撃ちまくっていた。

 そうやって隣のブースのアグにプレッシャーを与えていたのだ。


 要するに自分の弾が的に当たらないのなら、アグの弾も当たらなければいい。


 良く言えば臨機応変、悪く言えば姑息。


 だが、その手は自動小銃では使えても小型拳銃では使えない。


 銃声が小さくてイヤーマフをした状態では大したプレッシャーを与えられないし、銃自体が小さくて1発撃つごとに銃口が跳ね上がってヨーコも連射する気になれないのだ。


「なあ、この銃、前に撃ったのより反動がデカい気がすんだけど……」

「そうかもしれませんね。5.8mm拳銃はこっちの10mmよりもパンチが小さいものですけど、弾丸の重量の割に装薬が多いので高初速でしてね。ヘタなボディーアーマーくらい近距離なら貫通できるくらいのもんですよ」

「まあ、そういう事もあるんですね」


 2人は5.8mm拳銃の弾倉を3つずつ受け取り、代わりに担いでいた自動小銃を渡して再びブースへと戻っていく。


 心なしか得意の銃とあってかアグの足取りは軽く、反対にヨーコの肩は落ちているように思える。


「ほれ! 急いでください! 弾倉3つなんてすぐですよ! 頑張ってください、お爺ちゃん!」

 ………………

 …………

 ……




 やがて、しばらくするとヨーコもアグも疲れたようでブースから戻ってくるなりソファーにどかりと座り込んでマサムネから手渡されたパックのカフェオレを飲みはじめる。


「あ~……、疲れた。手首が自分のもんじゃねぇみたいだぜ!」

「ヨーコさん、ヤケになって大きい方の拳銃まで撃つからですよ。それより御二人はどうです? 今度は私たちが弾を込めますわ」

「おっ、そうだ。特に総理さんはもう少し練習した方が良いんじゃねぇか!?」

「ハハッ、言われてますよ?」

「ふん……」


 総理はすぐそばの壁に立てかけられていたスコップを手に取ると、自動販売機脇にタクティカルベストを着せられて立っていたマネキンに正対して構えを取る。


 虎Dと立ち会った時に見せた空手のものではないし、剣道でもない。

 強いていえば状術だとか槍術の構えに似ていたといえなくもないが、どの道、それをヨーコやアグはおろかマサムネですら理解できるわけもない。


 それは銃剣道の構えであった。


 ドンッ!!


 固いコンクリートの床すら震わすような踏み込みは銃声にも負けないような爆発音のような音を立て。


 そして踏み込みとともに突き出されたスコップによってマネキンの首はすとんと落とされて床を転がっていた。


 総理ほどの技量があれば刃の付いていないただの鉄板であるスコップがギロチンも同様の致命的な凶器と化すのである。


「ヒュ~!! ……って、それで誤魔化せると思うなよ!?」

「勘弁してあげてください。私は10年、アレに付き合わされてきたんですから……」

「ヨーコさん、ここは素直に凄いと褒めるところですよ!?」

「お前らのう……」


 それから4人はしばらく銃の事だとか互いの腕前の事だとかでああだこうだと盛り上がり、それも落ち着いてきた頃にヨーコが採光用の嵌め殺しの二重窓の外を見ながら言った。


「あの2人の持ってきたHuMo。頼んだら見せてくれっかな?」


 窓の外から見えるのは駐機場に停められていた4機のHuMo。

 総理の竜波にマサムネの建御名方。さらに灰と藍の2色に塗られた機体に深紅の機体。


「虎さんが同僚から借りてきたのが『センチュリオン・ハーゲン』で、クロさんが『プリーヴィド』だっけ?」


 虎Dが操縦しているのがセンチュリオンの重装甲タイプ。


 元々のセンチュリオンはバランスの優れた機体なのだが、全身に情け容赦なく張られた増加装甲によりHuMoに造詣の深いヨーコでなくともその機動性は劣悪であろう事は一目で分かる。

 代わりに巨大なガトリング砲を装備し、固定砲台となるコンセプトの機体なのだろう。


 クロムネが同じく虎Dの同僚から借りてきたというのが「キーエフ」の改修機である「プリーヴィド」である。


 こちらは虎Dの機体とは逆に装甲を極限まで排除して機動性を増したタイプ。

亡霊(Привид)」と称するにはその深紅の機体色は主張が強すぎるように思えるが、近寄れば災いをもたらす悪霊の類と思えばこれほど威圧感の機体もそうはないだろうという機体であった。


「頼んでみればよかろう、見せて減るもんじゃなかろうに。ガレージに戻ったら儂とコイツが護衛を代わるから見せてもらうといい」

「そっか、そうだよな!」

「あら、ヨーコさん。さっきまでお年寄りのように疲れた疲れた言っていたのが嘘のよう」

「へへっ! それじゃ帰ろうぜ!!」


 運営チームのディレクター級の者に支給される専用機はこのゲーム内にオンリーワンの特別のものである。


 その事は知らないまでも、センチュリオン・ハーゲンとプリーヴィドが特別な機体だと気付いたのかヨーコが見せる笑顔は9年前のあの幼子とよく似たもので、総理は不意に追憶に誘われたのだった。

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[気になる点] 最新のコメント、僕のが連続で並んでるんですけど、本筋に関係あったりなかったりするネタを突っ込んでコメントしてるせいでまともな普通のコメントが書かれにくいんですかね?(自意識過剰説十分に…
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