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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
番外編 終わる世界で昔の約束を
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16 カレーを食べながら

 それから総理と虎Dは少し話をしてから事務所へと入っていった。


 鼻腔をくすぐる、なんて表現ではとても追いつかないようなスパイスの香りはまるで鼻の穴を押し広げてくるように思えてくるくらい。


 老人の相棒の方のマサムネはスパイスカレー作っているのであろう。


「なんじゃ、インドカレーかの? ヨーコちゃんたちは食えるんかいのぅ」

「心配しなくても辛さは控えめにしてますよ」


 マサムネは虎Dとの会話を聞かれないようアグとヨーコに手伝いを頼んでいたが、すでにカレーは完成直前。

 2人の少女はフライパンの中身をかき混ぜる青年の両隣りで興味深げな顔をしていた。


「そういやヨーコちゃんはさっきの店でもカレーを食ってなかったかの?」

「ハンっ! カレーがいっちゃん手っ取り早えだろ?」

「そういうもんかの……」


 まあ、あのスナックのスジ煮込みカレーはママさんのスジ煮込みをアレンジしてチーママが作った家庭風カレー。

 凝り性のマサムネが複数のスパイスをテンパリングして作るスパイスカレーとは味わいがまるで別のものなのだから2食続けてカレーでも食べ飽きるという事はないだろう。


 それよりも総理はいつの間にかアグが総理の予備のツナギに着替えている事に気付いた。


「あ、すいません。あの汚れたドレスで料理を手伝うのもなんなのでお借りしましたわ」

「おお、構わん、構わん。ドレスも煤やら付いとったが、傭兵仕様の洗濯機で洗えばすぐに元通りじゃわい」


 各プレイヤーのガレージに備え付けの全自動洗濯機は高精細繊維プリンターとナノマシンの合わせ技により、汚れどころか破けた衣類すら30分で元通り。

 要するにゲーム的に破損した衣類を修復する機能である。


「まあ、便利なものなのですね。後でお借りしますわ」

「おう、それがいい。カミュ君が来た時にそんな油と硝煙の匂いがしそうなツナギじゃ締まらんからな!」

「おうおう! そういう時は『何を着ても似合う』とでも言っときゃいいんだよ! ほんとデリカシーが無いなぁ!」


 カミュは来ないと分かっていながらそんな良い方をする自分と、そんな言葉で頬を赤らめるアグが総理の胸を痛ませた。

 カレー皿に白米を盛りながら自身を責めるヨーコの言葉がむしろありがたいくらいである。


「……それで、そっちの2人は何だって? ていうかマサムネ君のそっくりさんはいったい何なんだよ?」

「コイツらは、……まあ味方じゃ」

「私の事は、そうですねぇ……、“黒子の”なんて呼ばれているんでクロムネとでも呼んでください」


「黒子」とは歌舞伎や演芸などで裏方の仕事をする黒ずくめの者。

 虎Dが動画配信サービスなどにおいて広報活動を行うにあたって、彼女の補助AIであるマサムネはその補助の仕事を担ってきた。


 このゲームの世界にマサムネ・タイプのAIがどれほどいるかは知らないが、全てのユーザー補助AIの母とも言える獅子吼虎代の手伝いをしているのは自分だけ。


 その自負もあって彼女の担当AIであるマサムネは他のマサムネと区別が必要な時は“黒子のマサムネ”略して「クロムネ」という愛称を好んで使っていたのだった。


「そりゃいいけどよぉ……。味方って信用できんのかい? ハイエナの私がこういうのはあれだけどよ」

「そりゃあ儂が保証するよ。殴り合ったら後はダチじゃ」

「どうせ『ただし自分が勝った場合に限る』だろ?」

「当たり前じゃ!」


 ヨーコは呆れたような顔をするが、彼女が知るハイエナの者たちには似たような価値観のものも大勢いるのだろう。総理が自分でも無茶苦茶だと思うような事をすんなりと受け入れる。


 それから6人はカレーを食べながら話をする事となった。


 事務所内のソファーセットは2人がけのものが2つだけ。そこにはヨーコとアグ、虎Dとクロムネが座り、総理はパソコンデスクで、総理の担当のマサムネは立ったままである。


「へぇ。虎さんとクロムネさんは動画配信者をやってて、それでさっきの騒動を見てネタになると……?」

「まあ、そんなとこです。泣く子も黙る星間犯罪組織のABSOLUTEを相手に女の子を守り切ったら伝説になると思いませんか? チャンネル登録者数、爆上がりですよ!!」


 事実、虎Dとクロムネはβテスト最終日となる今日、現実世界の正午まで公式生放送企画「中立都市で虎Dを狩ろう! PART4」を配信していたのだ。


 その後に獅子吼ディレクターは一度ログアウトして、VVVRテック社で休憩していたところにアグを追っていたABSOLUTE構成員が中立都市内で騒ぎを起こしたときいて慌てて再びゲームの世界へと戻ってきていたのだった。


「いや、まあ、色々と言いたい事はあるけどよぉ、なんだい? その『中立都市で虎Dを狩ろう』ってアホみたいな企画は。アンタ、視聴者煽って自分を狙わせてんのかい?」

「ふふ、甘いですわヨーコさん。こういう動画配信者はプロデューサー的な人とか構成作家的な人がいて、虎さんは演者に過ぎないのですよね?」


 カレーをつつきながらヨーコはとても信じられないものを見るかのような視線を虎Dに浴びせる。

 ハイエナとして日夜、危険に身を晒す彼女としては道楽で危険に飛び込むような真似はとても正気とは思えなかったのだ。


 そんなヨーコにアグが訳知り顔で動画投稿者の裏側の仕組みを説明するものの、その言葉はクロムネによって否定される。


「いや、この人、自分から言い出したんですよ。アホみたいですよね? アホなんですよ!」

「はあ……?」


 正直、ヨーコはアグの説明を聞いて世知辛いものだと虎Dに半ば同情していた。


 虎Dという女性、整った顔立ちで愛嬌のある表情を見せるが別に絶世の美女というわけではない。

 まだアグリッピナの方が子供っぽさが抜けきらないどころか大人っぽいところを探す方が大変なのだが、それでも将来は間違いなく美人になると万人が認めるであろう蕾の美しさがある。


 そんな虎Dが動画配信者として生き残っていくためには過激な企画をプロデューサーとやらから言われるがままにやらなくてはならないのだろうなと思っていたのだ。


 ところがどっこい。

 視聴者に自分自身を狙わせる馬鹿みたいな企画を言い出したのは虎D自身なのだというではないか。


 これにはヨーコもアグも驚いた。

 だが、何故か当の虎D本人は自身に向けられる呆れ顔に気付いていないかのように勝ち誇った表情をしている。


「ふふん。お子ちゃまにはまだ分からないっスかね? 女にはたとえ自ら死地に飛び込んででもチヤホヤされたい時があるっス!」

「よ~するにこのアホ、自分を狩りに集まってきた視聴者と、自分を守りに駆けつけた視聴者を戦わせて、それを高みの見物して優越感に浸りたかったらしいですよ?」

「いや~、姫プって憧れるっスよね!」


 牛乳と飲むヨーグルトを半々で合わせたマサムネ特製のなんちゃってラッシーで口の周りに白いヒゲを作るような女を誰がお姫様扱いしてくれるのだろうかとヨーコは思ったが、キチガイじみた発想をする女にそれを口にするのは危険があるやもしれず躊躇していた。

 ほとんど同じ事を思っていたアグはアグで可哀想な人に真実を告げるのは慈悲が無いと大人の分別を見せる。


 だが危険を避けようともせず、分別も無い者が1人だけいた。


「はぇ~……。動画配信ってのはそういうもんなんか。で、結局、アンタを守ってやろうって集まったのは何人くらいなんじゃ?」


 パソコンデスクに座る総理にヨーコとアグは背を向けているために「止めろ! 言ってやるな!」という表情は見えず、生まれついて好奇心旺盛である老人はこれまで虎Dのような職業の者と関わってきた経験がなかったこともあって少女2人が醸し出す張りつめた雰囲気にも気付かず、さらに「どうなんじゃ?」と返答を求めていた。


「え~……、集合場所のサンセットシネマ……。ス~……、2時間くらい待ったんですけど……、参加者は誰1人、来ませんでした……」

「え……?」

「残念ながら……。告知回のコメントで『行けたら行く』って書いてくれてる人、何人かいたんですけどね~」


どうやら虎Dの提唱する「DEAD OR TIYAーHOYA理論」は根底から破綻していたようである。

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[一言] 伝説の「 オ フ 会 0 人」 ウイィィィィィッス
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