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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
番外編 終わる世界で昔の約束を
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9 盗んだバイクで走り出す

 エアバッグのガスが抜けた後、2人は激突の衝撃に痛めつけられた体に鞭打ってなんとか車外へと這い出た。


「ぷっ! う゛あぁっはっははは!!!!」

「あははははッ!!!!」


 エアタクシーが突っ込んだのは雑居ビルの倉庫か何かに使われていた部屋だったようで大量の事務用品の他には誰もいない。


 大破した空中車やビル内の電気回路から発火した小さな炎がチラチラと辺りを照らし、天井のスプリンクラーが周囲へ水を撒き散らす中、車外へと出てきたヨーコとアグリッピナは互いに指さし合いながら大笑いしていた。


「酷っでぇ(ツラ)だな、おい! 綺麗な顔が台無しだぜ!?」

「ヨーコさんこそ! 産まればかりの小鹿みたいですわよ!?」


 アグリッピナの刈り入れを待つばかりの麦畑のように鮮やかなブロンドはエアバッグから漏れた触媒により白く染まり、おまけに飛散した埃やら何やらで顔は真っ黒。


 一方のヨーコはギリギリまで車体をコントロールしていた都合、衝撃から身を守る姿勢が取れなくてタクシーのドアを杖代わりにして立っているのになお脚がガタガタと震えている。


「ほら、おあつらえ向きにシャワー用意してくれてんだ。とっとと顔、洗っちまえ!」

「貴女、危ないですわよ? そんな脚で……」

「って言っても、馬鹿が何をおっぱじめるか分かったもんじゃねぇだろ?」


 アグリッピナがスプリンクラーから溢れ出してくる水で顔を洗おうとするが、ヨーコはまだ震える足で車体を伝いながらビルに空いた大穴へと向かっていこうとしているのを見て慌てて彼女の元へ駆け寄って肩を貸してやった。


 悲鳴、銃声、サイレン。


 ビルの破孔から外の様子を窺った時、眼下に広がっていたのは群がる野次馬を蹴散らすように天に向けて銃を撃ちながらビルへと殺到してくる追手の姿であった。


 そして……。


「ヒュ~~~!」

「あれ? アレって……」


 ヨーコが口笛を吹きながら顎で指し示した方向、そこには大通りに不自然に停められた大型のトレーラー。さらにその荷台から立ち上がってハードポイントに固定していたライフルを手に持とうとしていた1機のHuMoであった。


 しかもそのHuMoは追っ手はどこで手に入れたものやらサムソンの次世代主力量産機予定のセンチネルなのである。


「ハッ! ホント、ABSOLUTEさんは(カネ)が余ってんねぇ~!」

「ん? でも、この街でHuMoなんて持ち出したら……」

「そゆこと。ほら、行くぞ!」

「ああ、馬鹿ってそういう事ですのね」


 もちろん2人にも追っ手がHuMoを持ち出した事について察しは付く。


 アグリッピナを確実に拉致するためだとか、中立都市への潜入ならば大部隊を送り込むわけにはいかないと強力な機体を選択したのだろうとかそういう理由は理解できる。


 が、駄目!

 そもそもの前提条件が間違いである。


 苦笑いを浮かべながら倉庫から出ていくヨーコたちの背後で2人の予想通りに駆けつけてきた中立都市防衛隊のホワイトナイトとセンチネルは交戦を開始していた。


「HuMo同士の戦闘のドサクサに紛れてバックれるぞ! 総理さんとこのガレージまで辿り着けば大丈夫だ!!」


 中立都市で犯罪を行う。それだけならばまだしも中立都市内で犯罪にHuMoを用いればすぐに防衛隊の白騎士がすっ飛んでくるという常識すらABSOLUTEの構成員は知らなかったのか。それともホワイトナイトの戦闘力を軽視していたのか。


 そのどちらかは分からなかったが、惑星トワイライトでハイエナとして活動するヨーコとABSOLUTE構成員とで認識に差があったのは事実である。


 そこを突いた。


「オラァァァっ!!!!」


 追っ手の鼻っ柱を砕き、額を割り、こめかみへフルスイング!


 宇宙全域で暴れ回るABSOLUTEの構成員といえども末端の者ともなればその辺の無法者と大差がない。


 ヨーコはビルの中で出くわした追っ手が2人組(ツーマン・セル)も組まずにそれぞれ単独でアグリッピナを探し回っているのをこれ幸いと次々に出合い頭にスパナを叩き込んで倒していった。


 途中で倒した敵が持っていた拳銃を奪いアグに渡すと、彼女もそれに倣って次にヨーコが倒した追っ手が手にしていたサブマシンガンを拾おうとする。


「馬鹿、そんな嵩張るモンなんかいらねぇよ!」

「あら、無いよりはマシではなくて?」

「私たちゃ、これから街に出て傭兵団地まで逃げるんだぞ? 服の下に隠せる拳銃ぐらいにしとかねぇとお巡りさんに目を付けられるだろ!?」

「なるほど……」


 理由を聞くとアグリッピナも素直に折角、拾い上げたサブマシンガンを躊躇いもなくその辺に放り投げ、それを見てヨーコも意外そうな顔を浮かべた。


「へぇ。見るからにお嬢様育ちって感じなのに聞き分けの良いこって……」

「私もこの街に来てしばらく経ちますもの。それにこういう事はその道のプロにお任せした方が確実でしょう?」

「ハハッ! 良い具合にお嬢様育ちってわけだ!」


 ヨーコは笑う。


 ヨーコという少女はこの惑星でハイエナと呼ばれる犯罪者でありながら、その内面には仲間を、友を守るという事に並々ならぬこだわりを持っていた。


 それは余人にはけして口にはしないものの、彼女の生い立ちにこそそのような性質の切っ掛けがあったのだが、そういう意味においてはアグリッピナはすでに守るべき友となっていた。


 出会ったのはつい先ほど。

 だが関係無い。

 長い付き合いがあっても裏切る奴は平気で裏切るという事を身をつまされるようにヨーコは思い知っていたし、逆に短い付き合いでも命を賭けてくれるような者たちの事も知っていた。


「おし、出るぞ!」

「はい!!」


 ビルの裏口を張っていた者を射殺して2人は外へ。


 エアタクシーの激突のために停電し暗くなっていたビルから出た後の陽の明るさは2人に解放感をもたらしたが、もちろんそれがゴールでないことも理解している。


 向かいのビルの前に停められていた宅配ピザのバイクにヨーコはまたがる前に荷台のボックスを蹴り飛ばしてアグリッピナを誘った。


「ほれ、後ろ乗れ! 早く!」

「あら、無断借用ですか?」

「は? 返すつもりなんか無ぇんだから窃盗っていうんだよ!」


 いい加減にヨーコのノリにアグリッピナも馴れてきたという事か、躊躇いもせずに荷台に跨り、それを確認してからヨーコはバイクを発車させる。


「あらぁ……。もっと飛ばして頂いても構いませんわよ?」

「いやぁ……、ピザ屋のバイクで2ケツならこんなもんでないかい?」


 猛烈な加速を想像してアグリッピナはヨーコの背にしがみつくが、バイクの加速はゆっくり、というよりかはもはやのんびりと言ってもいいようなものであった。


「ちぇっ、締まらねぇなぁ……」


 ちょうど大通りではセンチネルが倒れたところ。

 ヨーコの見立てでは誘爆の心配はない。

 さすがは中立都市防衛隊のナイトハートとホワイトナイトといったところだろうか?


 その脇を通り過ぎて2人乗りのバイクはのんびり傭兵たちのガレージが立ち並ぶ通称「傭兵団地」へと向かっていく。

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