46 意外な所にいた最強の5人
「ひゃ、120mm砲弾って20km以上も先に届くんだっけ……?」
「ハハ、おいおいカミュもうかうかしてられんな! 子供が護衛部隊に志願してくるとは豪気なものだとは思っていたが、マーカスさんが参加を許すだけの技量は持ち合わせているという事か!」
1番艦のカミュとカーチャ隊長も狙撃を続けるマモルの腕前を褒めたたえる言葉が届いている。
カーチャ隊長にとっては射手座のマモルのその長距離狙撃は嬉しい誤算であったようで素直に喜んでいるが、カミュにとっては私と同じように目の前で繰り広げられている光景がとても信じられるものではなかったようだ。
当然だろう。
私たちに組合所属の傭兵部隊。両者はそれぞれ接近しあっているのだが、それでもまだ20km以上の距離が空いているのだ。
それだけの距離があると射手座のマモルが使う120mmスナイパーライフルがいかに長砲身で高初速かつ低弾道であるとしてもだいぶ仰角を上げなければならない。
つまりマモルは狙撃銃を目標よりもだいぶ上を狙って撃ち、勢いを失って降下線を辿る砲弾を直撃させて敵輸送船を次々と撃ち落としているという事。
しかも自分が足場としているコルベット艦も飛行し気流やら艦の振動やらの影響もあるというのにだ。
そらカーチャ隊長も大満足の技量といってもいいだろう。
「誰か~、下に降りて替えの弾倉持ってきてくださいよ~!」
「おう、今行くよ!」
「いや、俺が行くわ……」
セントリーの機体各所のハードポイントに取り付けた予備弾倉を使い尽くしたのか、マモルから催促されてローディーが艦橋を後にする。
私の乗るコルベット3番艦はHuMoを3機しか搭載していないので格納庫の空いたスペースに予備弾倉を積んでいるのだ。
「ったく、景気良く撃ちまくりやがって……。そんなにスキルポイントが欲しいのかね?」
「いや、マモル君たちにはスキルポイントなんて必要ないぞ」
「あん? どういうこったよ、マーカス?」
階下で轟音とともに閃光が瞬き、火矢のように120mm砲弾が大空を駆けていくたびに遠くで小さな煌めきが、あるいは黒煙が生じて空を汚していく。
仕事をローディーに取られて手持ち無沙汰になった私の口から零れた呆れ混じりの言葉は通信機越しのマーカスの言葉によって否定された。
「そのままズバリさ。5人のマモル君たちはパイロットスキルがカンストしてんだよ。だからポイント稼いでも使い道が無いって事」
「はぁっ!? って事は“射手座の”だけじゃなく他の4人もか!?」
「そういう事。まあ、こないだ花壇を作りながら聞いた話ではパイロットスキルをカンストさせているとはいっても全員が同じ能力を持っているというわけではなく、性格の差異やらβ版での経験によってだいぶ傾向が異なっているみたいだけどね」
「花壇を作りながらするような話じゃないだろ、物騒な……」
そう言われるとVR療養所で不思議に思っていた事が1つ氷が溶けていくようにストンと腑に落ちていくのを感じる。
VR療養所の職員は山下と彼の部下たちのように現実世界に肉体を持つ運営社員の他にマサムネやデイトリクス、マモルたちのようにβ版時代のユーザー補助AIが働いているのだが、マモル以外に子供のユーザー補助AIを見た事がないのを不思議に思っていたのだ。
マモルの他にも私のようなサブリナや、あるいはライオネスのフレのとこのトミーやジーナのような子供のユーザー補助AIがいるのに、なぜかVR療養所にいるAIはマモルだけ、他には大人ばかりなのだ。
だがマーカスの説明を聞いて納得。
「つまりVR療養所のマモルたちはコンパニオンじゃなくて防衛戦力だって事か?」
「そゆこと。他のAIは職員として仕事してもらわないといけないから大人ばかりだけど、マモル君たちは特別って事だね。もっとも戦闘能力はともかく、その性格まではマモルタイプを逸脱するものではなかったから前の防衛戦の時にはHuMoの取り合いで負けてたみたいだけど」
マモルの消極的な性格は運営チームの想像を遥かに超えていたという事だろうか?
以前にハイエナ・プレイヤーがVR療養所を攻めてきた時、5人のマモルは全員揃って機体からあぶれていたのだが、普通に考えてパイロットスキルがカンストしている事を言えば機体を譲ってもらう事くらいはできそうなものなのだが。
まあ、それができないのがマモルというAIの個性なのだろう。
「よくもまあそんな奴らを戦場にひっぱりだせてこれたもんだな、おい」
「当然だよ。サブちゃんは女の子だから分かんないかな? 『敵機戦線ジャッカル』のマンガ版はゴロンゴロンで連載しているんだ。プチ四駆やらコマブレードのマンガの主人公をいっしょに戦えるって状況をすごすご見過ごす男の子がいると思うかい?」
「うん、ゴメン。まず、そのプチナントカやらナントカブレードが分かんねぇわ。とりあえずリョースケがお前のファンであるように、マモルたちにとってはカミュたちがアイドルみたいなもんってことか?」
「それ以上だろうね。なにせパパが現役だったのは20年も昔の事で、『鉄騎戦線ジャッカル』のマンガはリアタイで追えるんだ」
そういうもんなのだろうか?
その辺の感覚が分からないのはマーカスが言うように私が少女というパーソナリティーを与えられたAIだからなのだろうか?
とりあえず後でライオネスんとこのマモルのためにカミュと隊長からサイン貰っておいてやろうかな。
「おっと、そろそろこっちも通信範囲外に出るみたいだな。あとはユーザーメールで……」
「プレイヤーとその担当AIだけの特権ってやつだな」
レーダー画面に目を移すと、マーカスが乗る大型輸送機はレーダー有効範囲からそろそろ外れそうになっているところであった。
レーダーの探査範囲から外れてしまえばノーブルを使って暴れてもカーチャ隊長にバレる心配もない。
マーカスが向かった南方の傭兵たちは昨日の戦闘でこちらの戦力を把握しているがために大型輸送機がそちらに向かったとみるや迎撃の布陣を整えるために速度を落としていたのだ。
正直、カーチャ隊長にノーブルを使っていると知られたくないわけで速度を落としてくれたのはむしろ好都合といえよう。
ちなワイの幼少期はアバンテとかリバティーエンペラーとか作ってたわ。
中学生くらいにお小遣いに余裕ができた頃にもレツ&ゴーのビークスパイダーとかブロッケンとかも作ってた。
あとゴロンゴロンコミックの元ネタでやってたマンガでいうとバーコードバトラーのが好きで後年に男の娘にハマる素養はその頃に植え付けられたものだと思う。




