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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
第3.5章 白い連星、命の輝き
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39 戦力を集めろ!

 マーカスと老人がメディカルポッドへと向かい、カーチャ隊長とカミュを取り囲む子供たちの群れもセンチュリオンから降りてきた山下さんが「お二人も疲れているだろうから……」という一言で施設内のフードコートへと場を移す事となった。


 船団の各機から降りてきた避難民たちも動く気力のある者はフードコートで思い思い好みの食事を摂る事となり、格納庫の片隅でサンドイッチやらスープを食しているのは気力の尽きかけた疲労困憊の者や半病人の者ばかりとなる。


 もっとも彼らとてメディカルポッドに入りさえすれば数分で活力を取り戻すのであろうが、さすがにここみたいな大規模施設といえどもポッドの数には限りがあるので順番待ちという事だ。

 なにせヨーコたちの仲間たちの病人の中には医薬品の不足のために昨日から配給を打ち切られた重病人もおり、彼らが優先というわけだ。


 そういうわけで私たちはマサムネさんのエスコートの元、避難民たちの様子を見て回っていたが一様に背筋を丸くしてもそもそとスープを啜りパンを齧る仲間を見てもヨーコは明るい。


「ゲン君もサキちゃんもお疲れ~! ちょっと休んだら中のフードコートに行って好きなの食べなよ。それじゃ足りないでしょ?」

「そういや向こうにはメシ屋の他にクレープやらアイスクリームやらの店もあったし、どうだ?」

「そちらの御婦人は温泉なんかはどうです?」


 疲れ切った一団も私とヨーコがスイーツの話をすれば目に光が戻り、乱れた髪を直す余裕すらない老婆もマサムネさんが温泉を勧めるとよろよろと重い腰を上げる。

 まあ、お婆さんの場合は温泉が目当てなのか、それともイケメンの前で情けない姿を晒したくないのかは分からないが。


「各機長たちもメシ食ってからメディカルポッドが空き次第入って疲労を回復すれば明日の飛行にも耐えられそうだな」

「うんうん!」

「それではお2人も食事にしましょう。食事を摂る暇も無かったのでしょう?」


 マサムネさんに言われてやっと私は気付いた。

 早朝にヨーコたちのアジトであった大峡谷を離陸してから気を張りつめさせていたせいで食事の事なんかすっかりと頭の中から消え失せていたし、VR療養所に到着してすぐに手渡された冷たいスポーツドリンクで胃袋が刺激されて私の身体は空腹のシュプレヒコールを上げているのだ。


 隣から聞こえてきた腹の虫の声を聞いてヨーコも同じであると察した私はフードコートへと移る事にした。






「そういやキャタとかパオングは?」

「ああ、2人とパス太君にリョースケ君の4人でチームを組んで今回のイベントに参加中ですよ」

「そっか、イベント中は専用のチームガレージに行くんだっけ?」


 フードコートで私はウドン屋の肉ウドンを、ヨーコはオムライス専門店のハンバーグの乗ったデミグラスソースのオムライスを頼んで先に確保してあった席へと戻る。


 すぐにマサムネさんが生ジュース屋から持ってきたミックスジュースを私とヨーコに渡してきて、自身も私の隣に座ってオレンジジュースを飲み始めた。


 私は油の浮いた出汁を啜りながらキャタたちの事を聞いてみるがやはり彼らはバトルアリーナイベントに参加中だという。

 明日の護衛にキャタたちも参加してもらえないだろうかという私の思惑は脆くも崩れ去ってしまう。


「まあ、気持ちは分かりますよ。今日一晩ここに泊まって休息を取るというのは疲労を回復して武器弾薬を補給できるという意味では有用でしょうが、気の逸った傭兵たちに追撃の準備をさせてしまう事にも繋がりかねない。ならばここでこちらも手勢を増やしておきたいところですよね?」


 まだキャタたちの事を聞いただけだというのにマサムネさんはずばり私の本心を見透かしたような口ぶりである。


 そう。

 組合の傭兵NPCの中には今日は仕事の都合で追撃に参加できなかった者も明日は参加できるかもしれないし、マーカスが懸念していたように仲間の仇討ちに燃えて参加してくる者もいるかもしれない。

 何より今日の戦闘で撃破された者で命が助かった者は機体を修復して明日の戦闘にも参加してくるかもしれないのだ。


 明日はもっと激しい戦いとなる。


 そうなれば3隻のオンボロコルベットと5機のHuMoでは守り切れなくなるかもしれないのだ。


「……メシの最中に気の滅入る話は止めてくれよ」


 私には明日の明るい展望は見えず、マサムネさんに恨みがましい目を向けるのが精一杯である。

 ヨーコも話を聞いて心配になったのか半分ほど食べ進めていたスプーンが止まってしまっていた。


 だが、その時、妙に明るい声が飛び込んでくる。


「まだ子供が食べてる途中でしょうがぁ~!!」

「ハハ、その物真似、こういう時にやるもんでしたっけ?」

「マーカス!!」


 先ほど軽トラに撥ね飛ばされた意趣返しとばかりにマサムネさんの後頭部には拳銃が突きつけられていた。


 だが銃をゴリゴリ押し付けられているというのに当の本人は涼しい顔のままジュースのストローを吸っている。


「もういいのか?」

「おう、メディカルポッドが順番待ちでしばらく待たされそうだから後回しにしてきたわ」

「後回しって……、お前、車に撥ねられてただろ?」

「なあに受け身は取ったさ、なあ?」

「おうよ。それに軽トラなんぞエンジンの付いたリヤカーみたいなもんじゃ!」


 さらにいつの間にか後ろからやってきていた老人がスルリとヨーコの隣の席に座ると持っていたタコ焼きの船をヨーコに押し付ける。


「ほれほれ、ヨーコちゃん、食べな」

「え……、何これ……?」

「タコ焼きじゃよ」

「タコ? えっ、蛸? オクトパス!? あんなん食べれんの!?」

「きっと気にいるよ」


 老人の口ぶりは確信めいたものでタコ焼きがヨーコの口に合わないとは微塵も思っていないようだ。


「えっと、お爺ちゃんはだあれ?」

「今は『だいじん』と名乗っておる」


 その老人のハンドルネームを聞いてマーカスとマサムネさんが揃って同じタイミングで吹き出す。


「ちょっ、大臣だったの何年前だよ!? いつまで過去の栄光に縋り付いてんだ?」

「βの時は『そうり』で私に『総理になれなかったんだから恥ずかしいから止めろ』と言われて、今度は素直に『だいじん』ですか!?」


 2人が言っている内容は理解しかねるものであったが、そこで老人がβ版のプレイヤーであった事を思い出した。


 もしかして「だいじん」さんはβテストの時もヨーコにタコ焼きを食べさせた事があって、それで彼女がタコ焼きが好きになる事を知っているのだろうか。


「うっさいのぉ……、2人並ぶと面倒臭さが2倍じゃわい!」

「あっ、これ、美味し~!」

「お~、ヨーコちゃんは相変わらず良い子じゃの~」


 マーカスとマサムネの2人に笑われている老人が忍びなく思えたのかヨーコがタコ焼きを1つ口に入れてみせると、老人が言っていたように彼女は目を丸くして驚いていた。


「じゃが、空気の読めない元担当のいう事ももっともじゃ? 貴様にはどんな手があるんじゃ?」

「私も聞きたいですね」


 手の止まってしまったヨーコが再び食べ始めたのを見て老人もマサムネさんもホッとしたような顔を見せるが、すぐに再び険しい表情に戻って明日の話題になる。


「とりあえず明日は爺も参加で、お前も来い。同じ機体なんだからカーチャ隊長ほどではないにしてもそれなりに働いてもらうぞ」

「はあ、私のホワイトナイトはここの防衛用なんですがね?」

「その必要が出てきた時は腰の『キ〇ラの翼』を使えば良いだろ?」

「なるほど、デスルーラですぐに戻れと」

「なんだよ……、キマルラの翼って……」


 ナントカの翼というのが何の事かは分からないが、マーカスが指さしていたのはマサムネさんの腰のホルスター、当然ながら中に入っているのは拳銃である。


 ようするに拳銃で自分の頭を撃ち抜いて死に戻りしろということか。


 そんな事を言われているのにマサムネさんの表情はピクリともせずにいつもどおりの涼しい表情を浮かべたまま。まるで最初から想定したかのようだった。


 兎に角、これでだいじんさんのランク10の機体とマサムネさんのホワイトナイトが明日の護衛任務に参加する事となったようだ。


「……うんと、もう少し手勢が欲しいな」


 マーカスはさらに貪欲に視線を周囲へと向けだしていた。

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[一言] 欲しいものを手に入れたら、移動時間短縮のためにデスルーラ(ホイミンなんかいたっけ?)
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